秘密鍵をなくした仮想通貨に相続税はかかるのか?(村上ゆういち)

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仮想通貨の普及に伴い、相続問題が注目を集めています。特に、仮想通貨の秘密鍵及びパスワードをなくした場合、相続税の取り扱いが複雑になることがあります。

そこで本記事では、仮想通貨専門の税理士として、仮想通貨の秘密鍵及びパスワードをなくした場合の相続税に関して、実際の国会答弁を元に解説します。

※秘密鍵とパスワードは全く異なるものですが、読みやすさを考慮して、本文では両者を合わせて「秘密鍵」と表記します。

仮想通貨と秘密鍵の関係

仮想通貨は、ブロックチェーン技術を用いた分散型台帳システムにより管理されています。

仮想通貨を所有するためには、仮想通貨取引所を利用する場合は取引所ごとのIDやパスワードが必要となります。また、仮想通貨取引所を利用しないのであれば、秘密鍵と呼ばれる暗号鍵が必要です。秘密鍵は、仮想通貨の送金や受け取りに使用され、所有者しか知り得ない重要な情報です。もし秘密鍵をなくしてしまうと、仮想通貨を管理できなくなるリスクがあります。

逆に言えば、パスワードや秘密鍵がわかってしまえば保有している仮想通貨を自由に動かすことができることとなるために、他人にパスワードや秘密鍵を絶対に共有してはいけないのです。

仮想通貨と相続税の関係

仮想通貨は、国税庁としては「財産的価値があるもの」と認められており、相続税の対象となると判断しています。相続税の計算には、相続開始時点での仮想通貨の時価が用いられます。

しかし、秘密鍵を失った場合、上記の通り、売却や別のウォレットへの送金が全く不能な状態となります。その状態でも相続税がかかるのでしょうか?詳細を下記で解説していきます。

秘密鍵をなくした仮想通貨の相続については、国会答弁(第196回国会参議院財政金融委員会第6号平成30年3月23日)が参考になります。重要なやりとりなので少し長くなりますが引用します。

藤巻健史:それは要望としまして、質問に入りたいと思いますが、仮想通貨の質問です。

ちょっと細かい話になるんですけれども、税制がどうなっているかどういうことで、仮想通貨の相続時の税制についてお聞きしたいんですが、仮想通貨のリスクというのは、パスワードを忘れちゃうともう引き出せないということがあるわけですね。親が亡くなってしまうと、子供にパスワードを教えないで亡くなってしまうと、子供はもう引き出せないわけですよね。どこ行っちゃうか分からない。それでも相続税は掛かるのかどうか。

それともう一つ、よく仮想通貨じゃなくて仮想資産だというふうにおっちゃっていますけれども、仮想資産であるならば、土地とか有価証券のように、たしか三年以内に売却をした場合、相続税が売却のときのその購入コストに上乗せされると思うんですね。そういうようなことも考えられているのか。その辺についてお聞かせ願えればと思います。」

藤井健志:お答え申し上げます。

まず、仮想通貨の相続時の課税関係についてですございますが、相続税法では、個人が金銭に見積もることができる経済的価値のある資産を相続又は遺贈により取得した場合には、相続税の課税対象となるとされております。仮想通貨については、資金決済に関する法律上、代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値と規定されておりますので、相続税が課税されることになるわけでございます。

そして、パスワードとの関係でございますが、一般論として申し上げますと、相続人が被相続人の設定したパスワードを知らない場合であっても相続人は被相続人の保有していた仮想通貨を承継することになりますので、その仮想通貨は相続税の課税対象となるという解釈でございます。

仮想通貨に関連いたしますビジネスがまだ初期段階なんだと思います。そういう意味で、仮想通貨に係る制度整備は途上ではないかと考えられますので、現状においてなかなか確たることを申し上げるのが難しいということはございますけれども、パスワードを知っている、知っていないというようなパスワードの把握の有無というのは、当事者にしかわからない、言わば主観の問題ということになってしまいます。課税当局、私どもとしては、本当のことをおっしゃっているのかどうか、その真偽を判定することは困難だと思っております。

したがって、現時点において、相続人の方からパスワードを知らないという主張があった場合でも、相続税の課税対象となる財産に該当しないというふうに解することは課税の公平の観点から問題があり、適当ではないというふうに考えております。

なお、回答をしている藤井健志氏ですが、当時の国税庁の次長であり、国税庁の正式な回答と判断することが出来ます。

上記に関して、要点は下記のとおりです。

【答弁のポイント】

  • 仮想通貨は相続税の対象となる
  • 秘密鍵をなくした仮想通貨であったとしても、相続税の対象となる
  • 理由は、秘密鍵をなくしたかどうかについては、納税者の主張によるものであり、第三者である国税が判断できない。結果として課税の公平が失われるため。
  • 仮想通貨の税制については発展途上

……ということとなります。

秘密鍵をなくした場合の対策

上記の通り、秘密鍵をなくしたとしても、相続税がかかるという主張を国税庁はしています。相続税対策としても秘密鍵の管理は必要となります。秘密鍵をなくさないためには、生前の管理方法が重要です。

ハードウェアウォレットやペーパーウォレットを使用し、秘密鍵を安全に保管することをおすすめします。また、相続人に秘密鍵及びパスワードを引き継ぐ方法も検討しておく必要があります。暗号化された形で秘密鍵を保管し、相続人に引き継ぐ方法や、信頼できる第三者機関に秘密鍵を預ける方法などがあります。

ただし、秘密鍵の管理は専門的な知識が必要なため、仮想通貨に詳しい専門家に相談することをおすすめします。弁護士や税理士など、法律と税務の両面から助言を得ることで、適切な対策を講じることができるでしょう。

まとめ

以上のように、仮想通貨の秘密鍵をなくした場合であっても、相続税がかかることとなります。秘密鍵を適切に管理し、相続人への引き継ぎ方法を検討しておくことが重要です。また、専門家への相談を通じて、法律と税務の両面から適切な対策を講じることをおすすめします。

仮想通貨の相続問題は、今後ますます重要になってくるでしょう。本記事が仮想通貨を保有する方の一助となれば幸いです。

村上ゆういち (税理士・公認会計士)
新日本監査法人(現EY新日本有限責任監査法人)、横河電機株式会社、アカウンティングフォース税理士法人での勤務を経て、2020年に村上裕一公認会計士事務所設立。現在は「魔界の税理士」としてSNSやyoutubeでも活躍し、仮想通貨(暗号資産)・NFT・ブロックチェーンゲーム領域を専門とする。
公式サイト https://crypto-cpa.jp/
X https://x.com/Jeanscpa
YouTube 魔界の税理士ちゃんねる https://www.youtube.com/@makai-tax

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年7月1日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。