資格さえ取れば食べていける?士業コンサルタントが教えるビジネスとしての「資格業」(横須賀 輝尚)

大企業に勤めていても副業が推奨される今、起業に興味を持つ人は増えています。そんな中、常に注目されているのが資格の取得。

すでに資格を持っている人はもちろん、資格を取って独立したい人や資格に興味がある人に必読のQ&Aを、経営コンサルタントで士業(特定行政書士)でもある横須賀輝尚氏の著書『資格起業バイブル』から、再構成してお届けします。

「資格では食べていけない」は本当か?

『Q.なんだかんだいって、資格があれば何とかなると思うのですが、甘いでしょうか?

資格取得前の者です。世の中では「資格を取っただけでは役に立たない」という雰囲気がありますが、実際のところはどうなのでしょうか? 国が作った資格なので、それなりにうまくいく気がします。特に難関資格はそれだけ資格保持者の数も少ないですし、資格があれば何とかなると思うのですが、甘いでしょうか?』

一般的に士業開業の関連本の多くは「資格を取っただけでは何もならない」「成功するかどうかは努力次第」と説いています。たしかにこれは真実です。資格をただ取っただけでは、あなたが資格を取った事実を誰も知りませんし、何もしなくても仕事が来るということはほぼ100パーセントありえません。この点については私も同意します。

しかし、これは「ビジネスの成功確率」であって、「資格業の有望性」の話ではありません。多くの開業本はこの2つの点を混同してしまって解説していることが多く、結局のところ「すべてはあなた次第」という結論に達してしまうのです。

いうまでもなく、ビジネスで成功するかどうかは個人の努力と環境次第です。飲食店、IT企業、建設業、どのようなジャンルのビジネスにおいても、成功することもあれば失敗することもあります。個人の努力不足もあるでしょうし、また予期せぬ事故や思わぬ不運などから経営が傾くこともあるでしょう。それは誰にもわかりません。株式公開して、栄華を極めていた会社が不祥事で瞬く間に失墜することもあります。

言い換えれば、将来は誰にもわからないものなのです。ですから、資格業も同じく、ビジネスとして成功するかどうかは自分次第ということになります。

これに対して、「資格業の有望性」となると話は違います。つまり、独立起業するジャンルとして資格業は有望なのかどうか、ということです。

では、もう少し具体的に見ていきましょう。

実は、資格があれば何とかなる

結論からいえば、独立開業するにあたって資格業は有望であるといえます。

たしかに、法人数の減少や資格取得者の増加、報酬のダンピングなどによって苦しい状況は続いています。おそらく、資格だけでは食べていけない時代はもうそこまで来ているといっても過言ではありません。

しかしながら、士業の仕事がなくなることはありませんし、また異業種で独立起業するよりは、はるかに「何とかなる」といえるのです。

代表的な理由は3つほどあります。

まずは、国家資格という「信用」が最初からあるということです。

商売はいうまでもなく信用の元に成立します。そのため、小さな会社を立ち上げたり、個人事業で始めたりしても、「信用してもらう」ことがひと苦労なのです。この点、資格業は最初からいわば「お国のお墨付き」をもらっているのですから、信用度は最初から高いといえます。

次の理由は、仕事に答えがあるということです。

これも独立開業の初心者が取り組みやすい理由のひとつです。裁判や法律トラブルなど、法律の解釈が分かれる時や交渉事は答えがひとつとはいえませんが、資格業の代表的な仕事は「手続き」です。そのため、仕事の回答は行政が持っていることが多く、「答え」の見つけやすい仕事であるといえます。

それに対比して顕著なのがデザイナーなどの仕事で、彼らの仕事に終わりはあっても答えはありません。そのため、自分自身の才能と戦うことになります。

三番目としては、資格業の仕事は「お客様から見たら差がわかりにくい」というものです。もちろん、開業1年目の新人と、20年以上のベテラン士業では実力は天と地ほどの開きがあるでしょう。

しかしながら、あまりにもその「差」が専門的過ぎて、ある程度の信用があれば仕事は取れるという現実があります。つまり、商品に差が感じられない以上は、営業を数多くこなした事務所に仕事が集まるという結論になります。

言い換えれば、一般の会社が苦しんでいる「差別化」や「オリジナルの商品開発」をすることなく事務所経営ができるのです。価格競争や本書で後述するセミナー事業に取り組む事務所も増えてきているので、安直に考えるべきではありませんが、異業種が苦しんでいるような悩みは比較的少ないといえるでしょう。

他にも資格業が有望な理由はあるのですが、結論づければ「比較的開業しやすく、そして営業しやすいビジネス」であるといえます。さらに理由を付け加えるなら、営業熱心な人が少なく、ライバルが少ない業界であること、在庫管理が必要ないビジネスであることも有望な理由のひとつです。

ただし、資格業が有望であることと、あなたが成功できるかどうかは、前述のとおりまったくの別問題になります。ここに気をつけなければなりません。

正しい方向に、覚悟を決めて努力すれば「資格で何とかなる」

たとえば、資格業で年収1,000万円稼ぐということ。これは決して難しいことではありません。質問にあった「何とかなるのではないか?」の回答をするならば、「何とかなる」といえます。

しかし、何もしないで「何とかなる」ことは100パーセントありません。つまり、あなた自身が真剣に資格業で成功すると覚悟を決め、正しい営業努力をすることで「何とかなる」といえるのです。

資格を持っているだけで、業界団体が何かをしてくれるということはほとんどありません。資格を取得して、独立開業するのであれば「何とかなる」と考えるのではなく、「何とかする」のが正解なのです。その前提を持って、資格取得に臨まれるのがベストかと思います。

ただし、地域によって少し違いがあります。過疎地に近いような地方都市は士業の仕事そのものがないことがありますので、その場合は資格取得だけで何とかなるとはいえません。あくまで士業ビジネスのマーケットがある場合に限ります。

横須賀 輝尚 パワーコンテンツジャパン(株)代表取締役 WORKtheMAGICON行政書士法人代表 特定行政書士
1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ1,700人以上が参加。著書に『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、『士業を極める技術』(日本能率協会マネジメントセンター)、他多数。
会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業 | 横須賀輝尚 https://www.amazon.co.jp/dp/B08P53H1C9
公式サイト https://yokosukateruhisa.com/

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年7月4日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。