自民党総裁選に見る米国留学組の初対決

9月27日開票予定の自民党総裁選とその立候補者を巡る報道が、同12日の告示前にも関わらず既に熱を帯びている。

本来、主役となるはずだった現職の岸田文雄総理が早々と不出馬を表明したことで、乱立気味とも言えるほど多くの立候補者が出馬を考える事態となった。このことが近年になく世論の喧しい理由であろう。

さて、今回の顔ぶれ(現時点での予想を含む)を見て真っ先に頭を過ったのは、ついに決戦の時が来た、ということだ。

というのも筆者は、2017年秋の総選挙を受け「衆院選当選議員に見る海外留学地図」と題する一種の観察記を発表し、新たな政治リーダーの中に海外留学組(40名)、とりわけ米国留学組(32名)が多く、その中の二大学閥がハーバード(11名)とコロンビア(7名)の両大学であることを指摘した。

同記事の最後、筆者は小泉進次郎氏らコロンビア大留学組と「ハーバード大留学組との水面下での熾烈な出世競争が大いに見ものである」と締め括っており、先に決戦の時と述べたのはまさにこのこと、つまり2017年当時の予想が7年の時を経て現実になったことを指している。もっとも、今回の総裁選は「水面下」どころか、文字通り白日の下での戦いが繰り広げられることになるだろうが。

改めて今回の立候補予想を見てみると、ハーバード留学組は上川陽子氏、小林鷹之氏、茂木敏充氏、林芳正氏、齋藤健氏の5名で、いずれも行政学を専門とする同じ大学院(Kennedy School of Government)で学んでいる。米国ではポリシー・スクールと称され、修士論文が必須とされない、いわゆるprofessional schoolの一種である。立候補が取り沙汰されている11〜12名のうち、この5名だけでほぼ半数を占める。

Harvard Kennedy School インスタグラムより

これに対して、コロンビア留学組は小泉進次郎氏ただ1人。2017年の上記記事で紹介した佐藤ゆかり氏は既に政治家を辞めてしまったし、古川元久氏は野党(国民民主党)の議員、そして中曽根康隆氏や加藤鮎子氏は総裁選に出馬するにはまだ若い。

こうした理由で、コロンビア留学組はハーバード留学組より現在のところ人数の点で劣勢だが、各種世論調査によれば支持率という点で小泉氏を上回るハーバード留学組はいない。因みに、コロンビア大にもハーバード同様のポリシー・スクールはあるものの(School of International and Public Affairs)、小泉氏が学んだのはそこではなく、より学術的色彩の濃い総合型大学院(School of Arts and Sciences)である。

さらに視野を広げ、アメリカ留学組という、より大きな括り方をすれば、河野太郎氏と野田聖子氏の2人が該当する。

ここ数年(上記の記事以降)、閣僚として英語でスピーチをする場面が頻繁にニュースとして取り上げられたので、河野氏が留学経験者であり、その学舎が首都ワシントンDCにあるジョージタウン大学(学部レベル)であることはよく知られるようになった。

その反面、野田聖子氏がミシガン州の高校を卒業していることは案外知られていないのではないか。他の候補者のように高等教育(大学及び大学院)レベルの留学ではないものの、最も早期に(若くして)留学したということは、彼女こそ最もグローバルな考え方の持ち主と言えなくもない。

他にも、留学ではないものの米国で勤務した経験のある候補者が1人いる。米国の議員事務所で働いていたという高市早苗氏である。

こうしてみると、今回立候補が取り沙汰されている11〜12名のうち、実に9名が留学など何らかの形で米国との関係を保持していることがわかる(逆に他の候補はその青年時代、米国を含む海外での経験が皆無または希薄である)。

特筆すべきは、リーダー候補のこうした傾向が政権与党である自民党特有のものであり、ほぼ同じ時期に党首選を実施予定の立憲民主党を含め野党には一切見られないということである。

考えてみれば、現首相の岸田氏にもニューヨークの小学校に3年間通っていたという幼い米留学歴があり(これも留学の一つである)、凶弾に倒れた安倍元首相は、学位こそ取得していないものの成蹊大の学生時代に南カリフォルニア大学への留学経験がある。

こうした近年の自民党リーダーたちの傾向をどのように捉えれば良いだろうか。筆者は、日本の顔としてこれまで以上に世界で活躍する我が国のリーダーに対して、国際性や異文化の受容力、外国語での発信力を期待する多数の国民の声が、近年密かに結実しているのかもしれないと考えている。

因みに筆者自身は、コロンビア大の後輩である小泉氏には無論頑張って欲しいものの、米国以外への留学経験もあるという点で自らと共通項のある、河野太郎氏の複眼思考により強く惹かれ期待する(河野氏はジョージタウン大時代にポーランドの現ワルシャワ経済大への留学経験がある)。