独「ユダヤ人中央評議会」会長の警告:ドイツ国民の支持を獲得するAfD

ドイツで極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が2013年、結党されて以来、選挙の度にその支持者を増やし、連邦議会では今日、野党第2政党の勢力を誇り、今月1日に実施されたドイツ東部テューリンゲン州議会選では遂に第1党に躍り出た。AfDはもはや既成政党への不満や現政権への抗議の声を吸収するポピュリスト政党ではなく、明確な極右思想に裏付けられた政党として国民の支持を獲得してきた、と指摘する声が囁かれ出した。

AfDの台頭に警告を発するドイツ・ユダヤ人中央評議会会長、ヨーゼフ・シュスター氏Wikipediaより

ドイツのユダヤ人中央評議会のヨーゼフ・シュスター会長は「ドイツで益々多くの人々が政治的信念からAfDを選んでおり、極右イデオロギーが顕在化している」(バチカンニュース独語版2024年9月2日)と指摘している。テューリンゲン州のAfD代表ビョルン・ヘッケ氏は過去、国家社会主義の言葉を彷彿させるレトリックを常用し、国家社会主義に基づく専制政治を公然と主張し、ホロコースト記念碑を「恥の記念碑」と呼び、ドイツの過去に対する悔恨を「過度なもの」として捉えている。反ユダヤ主義を標榜するヘッケ氏の存在は、シュスター会長が指摘したように、AfDが単なる不満票、抗議票を集める野党勢力ではないことを示している。

AfDの思想や世界観に惹かれるドイツ国民が増えてきた背景には複数の要因が絡んできている。当方は人工知能(AI)のChatGPTにドイツ・メディアで報じられてきた情報を整理してもらった。

①経済的不安と社会的不平等:ドイツ東部の多くの地域は、再統一以降も経済的な発展が遅れており、失業率の高さや低賃金などが依然として問題となっている。こうした経済的不安や社会的不平等感が、政府や既存の政党に対する不満を募らせ、その受け皿としてAfDが支持を集めている。

②文化的・民族的アイデンティティの危機感:移民や難民の受け入れに対する懸念、社会の急速な多様化や文化的変化に対する不安感が背景にある。AfDは、移民の制限や民族的なドイツ人の権利保護を強調することで、文化的・民族的アイデンティティの危機感を持つ人々に強い共感を呼んでいる。

③既存政党への不信感:既存の政党が、国民の声を十分に反映していないという不満が根強くある。特にドイツ東部では、再統一後の政治や経済政策が住民の期待に応えられていないという感覚が強い。「われわれは2等国民だ」という思いだ。AfDは、既存の政治エリートを批判し、「庶民の声を代弁する」という姿勢を打ち出しているため、これに共鳴する有権者が増える。

④新しい政治的リアリティ:AfDは、当初は抗議票の受け皿として台頭したが、今では独自の政治的アイデンティティを確立してきた。彼らの政策や世界観に共感する層はAfDを一過性の現象ではなく、ドイツ政治における新しいリアリティと捉えるようになっている。

⑤情報環境の変化:ソーシャルメディアやインターネットの普及により、従来の主流メディアからの情報に依存せず、独自の情報源からニュースや意見を得る人が増えてきた。AfDは、こうした新しいメディア環境を巧みに利用し、既存メディアに対する不信感を持つ層にアプローチしている。

ここで注目すべきは④だろう。シュスター会長が警告しているように、AfDがドイツの新しい政治的リアリティとなってきた。換言すれば、ドイツでナショナリズム、民族主義が再生してきた兆しが見え出してきたのだ。

AfDの思想的指導者ヘッケ氏は、ドイツが戦後、自国の誇りを取り戻すために、過去の重荷から解放されるべきだと主張してきた。これは、ホロコーストやナチス時代の罪を軽視または否定する歴史修正主義の考え方であり、極右思想の中核にある「民族的純粋性」や「国家主義」に通じる(「東独州議会選とAfDのヘッケ氏の動向」2024年8月31日参考)。

AfDの支持拡大は、ドイツ社会における分断の象徴でもある。移民や難民、グローバリゼーションに対する不安が、社会の一部で過激な形で表現されている。その結果、社会全体の過激化を促進し、異なる意見や背景を持つ人々との対立を深めるリスクが出てくる。特に、少数派や移民、ユダヤ人コミュニティに対する攻撃が増加する可能性があり、それは社会全体に深刻な影響を及ぼすことになる(「『極右』政党という呼称は正しいか」2024年2月2日参考)。

AfDには様々なグループが存在する。ヘッケ氏は、AfDの中でも特に極右的な立場を持つ「フリューゲル」(Der Flugel)派の中心人物だ。彼は自身の極右思想のネットワークを強化し、その影響力を拡大してきた。テューリンゲン州議会選で第1党に躍進したことで、ヘッケ氏の党内の立場は一層強化されたと受け取って間違いないだろう。シュスター会長が警告した内容はドイツにとって深刻な問題だ。

連邦AfDのワイデル共同党首(左)とテュ―リンゲン州AfD代表ヘッケ氏 ヘッケ氏インスタグラムより


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年9月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。