兵庫県知事に対する「正義の報道の群れ」に思う

兵庫県知事によるパワハラ告発等の問題が、今全国的な話題となっている。

知事による「おねだり」「パワハラ」、及び県職員による「告発の下手人探し」などが大手メディアで取り上げられている。

私も、当初はなんの疑いもなく報道をそのまま信じていたし、百条委員会の内容も含むこれまでの経過を総合的にみれば、これを書いている現時点においても、斎藤知事がその職に留まるべきではないと思う。

しかし一方で、この話しが「正義の県庁職員による、悪の知事の告発」という単純な図式で語られるべきではない、とも思うようになった。

斎藤元彦知事 同知事HPより

県庁の天下り改革の阻止という文脈

現在はまったく語られることがないが、斎藤知事は、いわゆる「改革派の知事」としても知られていた。

慶應大学名誉教授である上山信一氏の記事によると、斎藤知事は、県外郭団体への県職員の天下りの慣例について制度見直しに着手していた、とある。

兵庫県は、知事も県庁も議会も残念ーー職員アンケートから浮かび上がる仮説(上山信一) - エキスパート - Yahoo!ニュース
 兵庫県の百条委員会が公表した中間報告資料を読んだ。伝聞情報がほとんどだったが、過去にいろいろな県庁と仕事をした経験を下敷きにすると何が起きたか、うっすらだが仮説が浮かび上がってきた。真相は依然、不明

その部分について、上山氏の論考を抜粋しよう。

県の外郭団体は、県OBが再就職した場合、65歳で再雇用を原則打ち切る規定になっている。専門的業務に当たるなどの理由があれば延長しているが、慣例的に再雇用を続けるケースが常態化していた(2021年新聞報道)。知事はその見直しを始めていた。それと同じ発想で五百旗頭氏にも退任を迫ったのではないか。もっとうがった見方をすれば天下りの規制強化(年長者の待遇見直し)を率先する知事はみんなにとって困った存在だった。そのけん制のためにOBらが怪文書の材料になる情報を集めたという仮説はどうか(筆者もかつて大阪市の改革で似たような動きを見聞した)。証拠はないが否定もできないだろう。

これが事実だとすると、様相はずいぶん違ったものに見えてきはしないだろうか。

告発の時系列の整理

さらに、現時点で「公益通報」として報道されているものも、本年3月の時点では「無記名の根拠なき噂」を書き連ねた「怪文書」であった。

例えば、皆さんがお住まいの市の市長と反社勢力に属する者が毎晩酒を飲んで、公共事業の斡旋について金銭のやりとりの密談をしている、という無記名の文書が届いたらどう思うだろう?それは、いわゆる怪文書だ。

公益通報とは、法律に規定されている。また、すべての行政機関に窓口が設置されてもいるし、通報者が匿名であっても法に定める要件を満たしていれば公益通報と認められる

しかし、本年3月に警察や議員やメディアにばら撒かれた「告発文」は、公益通報の手続きによらず、また証拠も提示されていない単なる怪文書だ。

そのような怪文書について、告発された側の人物が「誹謗中傷の疑いが強い」と考えれば、発出元を特定しようとするのも当然といえる。

皆さんの中に、私が書いたような前提をご存じの方がどれだけいるだろう。ほとんどの方は、職員からの告発は最初から「公益通報」だったと勘違いされているのではないだろうか?

※100条委員会では、「公益通報にあたる」という見解と、「あたらない」という見解が出た。この件については、あくまで私個人の見解として、「あたらない」という立場をとらせていただいたことを付言しておく。

一方、この記事を読む限り、公益通報手続きがなされた4月以降もなお、当該文書を怪文書扱いしていたのは間違いだろう。

(社説)公益通報と調査 知事の失態は明らかだ:朝日新聞デジタル
 兵庫県の元県民局長の男性(7月に死亡)が斎藤元彦知事らを告発する文書を出した問題は、当の斎藤氏らが、文書は公益通報にあたるかきちんと検討しないまま、調査から処分へと失態を重ねた経緯が明らかになってき…

私は、このような記事に対する知事からの反論を聞いてみたい。しかし、メディアの論調は「悪の知事の独りよがりな反論」として、ひたすらに知事の独善を暴きたてる内容で埋もれていて、双方の主張を公平に取り上げる報道は皆無に近い。

ようは、知事の首をとるために、すべてのメディアが「右へならえ」している状態にみえるのだ。

世論は冷静になるべきだ

私の地元である佐倉市役所も、内側に入るとそこは「魑魅魍魎の巷」だ。市長派、反市長派、議会の主流派にこびへつらう上級職員等が入り組んで、しかも表の顔では決して本心を明かさない。よって、誰もその全体像を把握していはいない。

そのような場所に身を置く立場からすると、兵庫県知事に対する今の過熱した「正義をふりかざす報道姿勢」は、いかにも薄っぺらいものにみえる。

最後に、先に引用した上山信一氏のXを引用して筆を置く。