石破ショック、海外メディアの反応は

日本の金融市場に927日、“石破ショック”の激震が走りました。

自民党総裁選で石破茂氏が5度目の正直で選出され、日経先物は一時2,000円超も急落。ドル円はわずか数時間で3.71円も沈み、NY時間には米8PCE価格指数が前月比で市場予想以下となった結果も重なり、変動幅は4.42円に及んだものです。神田財務官(当時)による介入を凌駕する「円高」、もといドル円「暴落」となりました。

画像:ドル円、ご覧の通り急落(緑線は米10年債利回り、左軸)

(出所:TradingView

石破氏と言えば「金融所得課税」を始め「金利ある世界」、「国民生活に支障がない程度の正常化」などの発言が思い出されます。ところが、“石破ショック”を経て、石破新総裁は929日、TV番組にて金融政策をめぐり「緩和の方向性は維持しなければいけない。デフレ脱却を断言できない中、ここで金利をうんぬんかんぬんとは言ってはいけない」と述べ、事前の発言の修正に取り掛かりました。また「『貯蓄から投資』の流れは決して止めてはならない」とも強調。経済対策に関し「民間需要が少ないときは財政出動しないと経済が持たない」とも発言しています。金融所得課税については明確に修正に動いていないものの、1027日とされる衆院解散・総選挙を見据え、既に取り沙汰される大敗北のリスク低減を狙っているのでしょう。

石破内閣の面々、よもやまさんの929日の22時半時点のXの投稿では以下の通りとなっていましたね。

海外のメディアの反応はというと、総裁選直後はCNBCが速報を流した事実を流す程度でした。むしろ、以下の通りCNBCとニューヨーク・タイムズ紙などは中国株式相場が週足で2008年以来の上昇幅を遂げたと報じ、総裁選直後の日経平均先物やドル円の動きなどを伝えていません。日銀の金融政策などを始め、もう少し取り上げられてもいいような気がしますが、残念な限りです。とはいえ、ワシントン・ポスト紙がハドソン研究所掲載の石破氏のメモを扱っているのは、さすがですね。

主な海外メディアの扱いは、以下の通り。

ワシントン・ポスト紙(927日付け)

Japans ruling party elects Shigeru Ishiba as new prime minister
→石破茂元防衛相が来週、日本の新首相に就任する。国内での物価上昇とアジア太平洋での緊張が高まる中、世界第4位の経済大国の舵取りを担うことになる。アジアにおける最も重要な同盟国でありつつ、国家の安全保障を米国に依存する日本にとって、トランプ前大統領再選の可能性は懸念要因だろう。トランプ大統領の1期目の任期中、安倍首相(当時)はお世辞やゴルフを通じて米国の指導者と親密な関係を築いたが、日本にはもはやトランプ氏の人格を管理するために頼れる同様のパイプ役がいない。一方で、ハドソン研究所がwebサイトに掲載した寄稿によれば、石破氏は日米安保条約の「非対称性」を指摘し、是正に前向きだ。また、中国とのより深い関わりと外交の強化を求めつつ、台湾民主主義の強力な支持者であり、中国や北朝鮮からの安全保障上の脅威に対抗するために「アジアNATO」の創設を提案している。

英BBC927日付け)
Japan’s scandal-hit ruling party picks Shigeru Ishiba as next PM
→政治資金問題に見舞われた日本の与党は、石破茂氏を新党首に選出し、元防衛庁長官を日本の次期リーダーとして位置づけた。67歳の石破氏は、金曜日の党代表選挙で勝利した後、自民党の党内を一掃し、経済を活性化させ、安全保障上の脅威に対処すると言及。安全保障政策だけでなく、政党政治の駆け引きにも精通する石破氏は、最近のロシアや中国からの領空侵犯や北朝鮮のミサイル発射実験などを考慮し、日本の安全保障の強化を主張する。また、女性天皇を支持する。

画像:海外の方からは、こんな投稿も「Japan’s next prime minister, and I’m not joking


(出所:Populism Updates/X

米ポリティコ929日付け)
What Japans New Prime Minister Means for the US
→日本の与党は史上最年少の首相と史上初の女性首相のどちらかを選ぶチャンスを得て、第3の、やや意外な選択肢を選んだ。石破氏は、ほぼ不機嫌なゴルディロックスで、10年前に不機嫌のまま党を去り、内閣でも長くは続かなかったが、ほぼ中間に位置する。高市氏のような右寄りでもなく、愛国主義的なエッジの強さと親ビジネス的な熱意はトランプとの比較を呼び起こす。石破氏は安倍首相のライバルであり、アベイズムからの脱却を意味する。一方で、石破氏は小泉進次郎氏ほど社会的にリベラルではなく、長年の元首相の息子である43歳の小泉進次郎氏は、劇的な世代交代と経験の浅さをもたらしただろう。ワシントンにとって重要なのは、石破氏の防衛関連のアプローチだ。米軍駐留協定の改定を求め、日本の平和主義に関する憲法条項の改正に言及し、アジア版NATOをぶち上げた。日経新聞の秋田浩之コメンテーターは「現実主義者で、日本のドゴールではなく米国を押し戻そうとはしない」と話すが、それでも、日米関係に波紋を投げかけうる

英FT紙(929日付け)
Shigeru Ishibas election as Japans next leader expected to rattle stock market
101日に首相に就任する元防衛相・農相の石破氏は、日本が再びデフレに陥るのを防ぐと宣言した中国タカ派。石破氏は、日銀の金融政策正常化計画を支持すると述べているが、投資家は彼が企業や投資所得への課税強化を支持していることを懸念し、シカゴで取引されていた日経平均先物は、自民党の選挙結果発表後に急落、為替相場でも日銀の追加利上げを見据え急速に円高が進行した。石破氏の勝利の数時間後、日本で人気のあるオンライン株取引サイト「株探」で最も検索された投資テーマのトップ3は防災、防衛予算、円高の恩恵を受ける個別株だった。

サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙(929日付け)
Shigeru Ishiba a Japanese leader who is willing to engage China
→ワシントンは石破氏を好まないかもしれないが、北京は違うのではないか。石破氏は保守的な顔ぶれの中では異端児として注目されているが、その理由は日本が米国とより対等で独立した役割を果たすと考えているからだ。彼はまた、中国と対立するよりも、むしろ中国に関与したいと考えている11月の選挙後にアメリカの大統領になるのが誰であれ、その野心を快く思わないだろう。

101日に発足する石破政権が、安全保障を中心に海外メディアが報じたような方向転換を打ち出せるのか。それは、1027日予定の衆院解散・総選挙に掛かっていることは間違いありません。勝利の女神は、石破氏に2度微笑むのでしょうか?

(カバー写真:首相官邸


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2024年10月4日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。