昨日の記事に対しては、おそらく見えないところで(いや、公然とかな?)揶揄する人が出てくると思うので、あらかじめ釘を刺しておく。
2021年の3月に、鍵をかけたアカウント(フォロワーは4000人前後で、9万3000人の東野篤子氏よりだいぶ少ない)の内側での発言がきっかけで、大炎上を起こした学者がいる。私まで巻き込まれて、ずいぶんな迷惑を被ったことは、このnoteを読む方はほぼご存じだろう。
実は、その呉座勇一氏はもともと、とくに鍵はかけずにTwitterを使っていた。当時すでに『一揆の原理』『戦争の日本中世史』の二著があり、それなりに知られていたが、後ほどの有名人ではまだなかった。私も何度か、(やはり鍵なしの)Twitterで彼と議論したことがある。
私自身は2014年の夏に、病気のため使うのをやめたので記憶がないのだが、そのあたりから同氏はTwitterでの言動が粗暴になったらしく、世代の近い研究仲間が「就職にも不利になるので、せめて鍵をかけて発言しては」のように助言したそうだ(ちなみに、誰なのかは知っています)。
2015~16年は、安保法制やSEALDsの騒動があり、ネットでも政治的な議論がヒートアップした時期だから、それも背景にあったかもしれない。
助言に従って呉座氏が鍵をかけたところ、間を置かず2016年の秋に国際日本文化研究センターの助教(5年任期。准教授への昇任あり)に採用されたため、この「研究者は鍵アカの方がいい」は名アドバイスとして、出身である東大日本史の界隈で語り継がれたらしい。私も病気から復帰した後の19年に、関係者から聞いた。
21年の3月に呉座氏が炎上した際、(本人以外で)いちばん気まずかったのは、この助言者氏であったと思う。なぜなら、そもそも呉座氏が鍵アカウントでなければ、起きない炎上だったからだ。
同氏があまり上品でない揶揄を誰かにしたとして、鍵さえかかっていなければ、本人が見つけて「失礼ですよね」と抗議し、おそらくは謝罪の上でツイートを消して収まるだろう。一度、抗議を受けた相手であれば、ふつうは同じ人を二度揶揄することはない。それで終わる話である。
実際に「いやいや、この発言は鍵なしで最初から一般に公開されたとしても、大炎上になり学界から一発退場でしょう」といったものは、呉座氏が鍵を開けた後にも、ひとつも確認されなかった。いや自分は見たぞという人がいるなら、具体的に示してほしい。
さて大事なのは、そんなことは炎上の当初から「実はみんな知っていた」ということである。学問を修めた上で、事実に基づき、謝罪と撤回ですむレベルの口の悪さと、そうではなく社会的に容認されえない問題発言(たとえば「悪しき」歴史修正主義)との違いを、判別できる人であれば。
ところが実際には、炎上に巻き込まれること怖さに、出身専攻の違う私よりもはるかに呉座氏と親しかったり、事実に基づく「実証的」な学問を標榜している研究者ほど、我先にと逃げ出した。
さらには、それを「おかしいでしょう」と指摘しただけの私に、「コイツも呉座と同じミソジニーだ」「反フェミニズムだ」と事実無根のレッテルを貼り、「前から目障りだったし、この際一緒に潰そう」と抹殺を試みてきた。
彼ら彼女らは、しれっとした顔でいま口をつぐんでいるが、こういうのは学校での「いじめ」と同じで、やられた方は忘れない。
前回の記事は東野篤子氏が主題で、呉座氏の事件への言及はないから、こうした背景で書かれたとは私がいま、表に出さなければ誰も気づかなかったろう。そうしたことが、あまりにもこの間、多すぎたと感じている。
常に堂々と本名で、異論に臆せず信じる真実を発信する人と、折々の世論の流れに乗っているうちは(たとえ嘘でも)「私を見て見て!」とはしゃぎまわり、形勢が悪くなるや黙って姿を消す人とは、本質的に違うのである。もちろん、学者や言論人の名に値するのは、前者だけだ。
何度か書いてきたが、そうした「正しい評価」を私に下さず、むしろ逆のことをやってきた人たち。不正が行われていると知りながら、眼を瞑ってそれに加担してきた(いる)人たちに、今後はこちらから制裁を加えていくつもりでいる。
なにせ、どれほど非難を集めても「黙っていればどうせみんな忘れる。シカトが得策だ」と倫理学者が公言する時代には、被害者には「やり返して思い出させる」以外の方法はないからだ。
おそらく本稿を読んで、ネットでいまや「使えば必勝の罵倒語」のように定着したカタカナ7文字の背後に、これだけ語られていないことがあったのかと、驚いた人もいると思う。
はい。そうです。本当にいちばんの被害にあった人は一般に、すべてを最初からぺらぺらと喋ったりはしませんから。
「オープンレター秘録」と呼ぶべきこうしたコンテンツも、来月以降は増やしてゆくので、(震えて眠ることになる人以外は)ご期待ください。後ろめたい方は、早めの謝罪を重ねてお薦めします。
(ヘッダー写真はこちらより。もちろん原稿も残っているので、当時中傷ないし座視した人を叩く上でも、今後きっちり再活用していきます)
編集部より:この記事は與那覇潤氏のnote 2024年10月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は與那覇潤氏のnoteをご覧ください。