世の中、お金を管理する人はだいたいシブチンが多いのはやむを得ません。なぜならお金の管理者がルーズだったり散財したら成り立たないからであります。家庭では奥方がお財布の管理をする場合が多いのはお金に保守的で無駄遣いに目が届きやすいことがあるのでしょう。
企業では今、CFOの時代とも言われるほどマネーの責任者が注目されています。私が起業するなら必ず経理を理解せよ、と申し上げているのは企業経営において経理と財務がわからないと経営にならないからです。それこそ、武器と弾薬の在庫数を知らずして戦争を仕掛けるようなものでそれを理解するのが経理的思想。また、一日に弾薬をどれぐらい使うか計算してその補給に見合う戦況と兵站なのかを判断するのが財務的な発想と言ったらわかりやすいでしょうか?
では国のマネーを管理する財務省はどうでしょうか?基本的に渋すぎていぶし銀すら感じさせます。なぜ財務省はケチなのか、こんなことは言うまでもありません。各省庁が年度予算の際に「クレクレ星人」になるからです。各省庁と財務省の実務レベルでの予算折衝はそれは過激なもので財務省の廊下に折衝、陳情、懇願の列ができるとされます。
ところが世の中、財務省のケチぶりに非難の声が上がることもしばしば。今回の103万円の壁を178万円に引き上げ提示している国民民主党の案に対して加藤財務大臣は「引き上げた場合、機械的に計算すると国・地方合わせて7兆円から8兆円程度の減収が見込まれている。こうした点も踏まえ総合的に議論していく必要がある」(NHK)と述べています。私は財務省は1995年に103万円の壁を設定して以降、一度も見直さなかったのは不作為だと考えています。ところがそれは法律がそういう規定になっていないというわけです。それなら今まで自民党は何をしていたのか、ということになります。自民党の政権が不作為だった、あるいは触らないように避けて通って来たということでしょうか?
また7-8兆円の減収になる一方、可処分所得が増えるので経済が活性化し、それが税収として帰ってくる分が計算されていません。あるいは貯蓄されたとしても最後死ぬとき相続税で捕捉されるのです。つまり加藤大臣のいう7-8兆円は損益計算書でいう支出だけ述べて収入を無視しているわけで発言の意味はないと思います。
さて、日本にとって今年は記念すべき年になるはずで財務省は内心ウハウハしているはずです。理由はプライマリーバランスが初めて黒字化しそうだからです。8000億円程度とされますので日本のお財布全体から見ればほぼゼロのようなものですが、プラスはプラスです。理由は好調な企業業績、物価高および歳出の抑制です。物価高は10%の消費税として反映されやすいのでしょう。
もう一つ忘れてならないのが外国為替資金特別会計(外為特会)であります。私から言わせればこの外為特会は政府と財務省の巨額のへそくりと言ってよいかと思います。今年の4月の為替介入だけで2兆円強の利益が出たとされます。では外為特会の規模はどれぐらいか、というと今年9月の時点の財務省のデータを見ると資産の大半を占める外貨準備高は1兆2549億ドル(=188兆2350億円)あります。内訳は現金、証券、金、SDR、IMFリザーブあたりが大きな額を占めています。この外為特会で毎年決算をし、一定額を一般会計の歳入に繰り入れ、残りを外為特会に繰り越しています。
外為特会は証券などで保有しているものは利息収入などがあり、毎年おおむね2-3兆円程度の利益を出しています。うち、一般会計に繰り入れる金額は年によりばらつきがありますが、7割から9割程度とみてよいでしょう。今年は為替介入による為替益もあるので外為特会から一般歳入への繰り入れは例年よりも期待値は高まるのかもしれません。
しかしながら仮に3兆円の利益が188兆円の原資から生まれたとすればそのリターンはわずか1.6%でしかないのです。想像するに外為特会の決算表記は取得原価ベースの決算だと思われるので例えば金にしても簿価と実勢価値との差がどうなっているのかさっぱりわからないのです。私の想像が正しければ外為特会には膨大なる含み益が隠されており、そこから生まれ、一般会計に回される利益は微々たるものということになります。
もっと上手に運用すればそれこそ10兆、20兆円という単位のお金を生み出せる可能性はあります。ただ、外為特会に儲けるという趣旨がないため、機会損失となっています。主婦がリスクを嫌い、普通預金にこだわるのと同じです。もう一つは一般会計が外為特会からの利益を期待するようになると不健全な財政になりかねないという財政哲学論があるのかもしれません。要はそんな目先の一般会計の足りる足りないという話とは完全に切り離し、それこそ天変地異が起きた時の備え、ぐらいに考えているのでしょう。まぁ、日本国家の「家宝」ともいえるでしょう。
こうなると本当に哲学論なので運用益うんうんの議論とは別世界であります。それぐらい頑なな態度を貫き通す財務省があるがゆえに日本はそれでも破綻せずに廻っているのだとも言えるのでしょう。
お財布を管理する者はやはり一番強いのであります。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年11月日の記事より転載させていただきました。