FDPの離脱でショルツ政権は少数派に:国民の支持を失ったショルツ首相

ドイツのショルツ首相は7日、リントナー財務相を解任したと発表し、「彼は全ての改善案をブロックした、党派の利益を優先し、私の信頼を裏切った」と厳しい表情で語った。2021年12月に発足したドイツ連邦初の3党から成るショルツ連立政権はFDPの離脱をもって実質的には終焉を迎えた。

<ショルツ連立政権の始まり>

新首相宣誓式に臨むショルツ氏(2021年12月8日、連邦議会公式サイトから)

<ショルツ連立政権の終わり>

ショルツ政権から離脱を宣言したFDPのリントナー財務相(2024年11月7日、FDP公式サイトから)

ショルツ首相によると、しばらく少数政権を維持しながら重要な法案を成立させ、来年15日に連邦議会に首相信任案を提出、否決で不信任となれば21日内に議会を解散し、60日内に前倒しの連邦議会選挙を実施するという。それに対し、野党第一党の「キリスト教民主同盟」(CDU)のメルツ党首は「ショルツ政権はもはや議会の少数派に過ぎない。即退陣して総選挙を実施すべきだ」と要求している。

なお、ベルリンの連邦大統領府で7日、リントナー財務相、ブッシュマン司法相、シュタルク=ヴァッツインガー教育・研究相のFDP出身の3閣僚がシュタインマイヤー大統領から解任書を受け取った。ヴィッシング交通相は党を離脱して政権に留まり、司法相も兼任する。新財務相には財務分野の専門家ヨルグ・クーキース氏が就任し、新教育相にはエズデミール農業相が兼任することになった。

シュタインマイヤー大統領は解任された閣僚にこれまでの職務に感謝を表明する一方、「世界は厳しい時代圏入っているが、民主主義は強い。われわれは現在のドイツの危機を乗り越えることができると信じている」と述べている。

5日は米国で大統領選が行われ、共和党のトランプ前大統領がハリス副大統領に圧勝した。その直後、「欧州の盟主」ドイツのショルツ連立政権の崩壊を迎えたわけだ。ロシアと戦争するウクライナへの欧米諸国の支援問題を一つとっても、トランプ政権の誕生、欧州で最大支援国のショルツ独政権の崩壊によって、ウクライナの情勢は一層混迷を深めることが予想される。

ショルツ連立政権の終焉というニュースが伝わると、ドイツ国民の多くは「予想されたことで驚かない。連立政権内で常に対立を繰り返してきたので、政権の崩壊は時間の問題だった」と受け取っている。民間ニュース専門局ntvが路上でインタビューしていたが、「連立政権が崩壊して残念だ」という声は聞かれなかった。ショルツ政権は与党3党内で路線や政策の相違から対立を繰り返してきた。ただし、その度に3党はこれまで互いに譲歩しながら政権の危機を乗り越えてきた。今回の政権崩壊をもたらした直接の経緯はリントナー財務相が発表した通称リントナー・ペーパーだ(「『リントナー・ペーパー』の衝撃」2024年11月5日参考)。

ドイツのショルツ連立政権は社会民主党(SPD)、「緑の党」、自由民主党(FDP)の3党から成るドイツ政界では初の試みだけに、その進展に注目されてきた。というより、いつまで連立政権が維持できるか、といった懸念があった。なぜならば、経済政策、安保政策から社会保障問題まで3党の政治信条は異なるからだ。国民経済は現在、リセッション(景気後退)に陥り、輸出大国ドイツの製品はその魅力を失いつつある。そのような時、FDP党首のリントナー財務相は国民経済の活性化のために提案書(リントナー・ペーパー)を発表したのだ。

「リントナー・ペーパー」は①規制の簡素化と官僚主義の削減、②連帯付加税の廃止、③気候目標とエネルギー政策の見直し、④経済政策の方向性の明確化、⑤成長促進政策の必要性を訴えている。その内容は、SPDと「緑の党」の経済・環境政策とは相反するだけに、ショルツ政権の土台が大揺れとなったわけだ。

リントナー財務相がこの時期にショルツ首相に「離婚宣言」を出した背後には、9月に実施された東部3州の州議会選でFDPは壊滅的な結果を受け、次期連邦議会選挙で議席を維持できるためには、連立から離脱して党勢を立て直す必要が出てきたからだろう。国民の支持を失ったショルツ船に沈没するまで乗っていたら、FDPはひょっとしたら連邦議会から完全に姿を消すかもしれない。そんな危機感がFDPの党幹部たちに出てきたのだ。

ショルツ首相は7日、メルツ党首と会談し、少数政権のショルツ政権への協力を要請している。政権としては2025年の連邦予算案を成立させることが急務であり、野党の支持がなければ難しい。ちなみに、バイエルン州首相で「キリスト教社会同盟」(CSU)党首のゼーダー氏は「ドイツが危機に直面している時、ショルツ政権は国家の舵取りができない無能な政権だったことを証明した」と厳しく指摘している。

ショルツ首相インスタグラムより


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年11月日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。