世界的選挙イヤーだった2024年も余すところ6週間となった。日本と縁の深いところでは、台湾総統選で頼清徳氏が勝ち、民進党が3期連続で政権を担うことになった。
韓国の総選挙では「共に民主党」が大勝、尹大統領率いる与党「国民の力」は過半数奪還に失敗し、厳しい政権運営を強いられている。が、最近ついに李在明党首に有罪判決が下り、尹政権には追い風だ。インドとロシアでは従来政権が維持されたが、英国では14年振りに労働党政権が誕生した。
真打の米国のことは後述するとして、国内に目を転ずれば、石丸現象の起きた都知事選でこそ小池知事が再選されたが、国政では10%台の支持率に落ちた岸田前総理が政権を投げ出した自民党の総裁選で、1次投票でトップだった高市早苗氏が決選投票で石破茂氏に敗れる波乱が起きた。選挙戦で小泉進次郎氏が主張した早期解散を否定していた石破氏は、変節して打った解散で「政治とカネ」を蒸し返す愚を犯して惨敗、少数与党の悲哀を味わっている。
地方の首長選挙でも、春先から知事の「パワハラ・おねだり問題」が燻っていた兵庫県で、県議会が自ら開催中の百条委員会の報告を待たずに斎藤知事の不信任を全会一致で決議するという予想外の事態となった。選挙戦は、間違ったことはしていないと首尾一貫主張し、たった一人での駅頭演説から始めた斎藤氏を応援する勝手連的な中継ライブがいくつもネットに登場、石丸現象に似た状況が現れた。
終盤には「自らは当選を望まない」と支援参戦したNHK党の立花党首が演説やネットで、他者の批判や言い訳をしない斎藤氏を代弁する形で裏事情を暴露し、その演説を勝手連もライブ中継して有権者の関心を一気に高めた。これら前代未聞の予想外な出来事が前回を15%も上回る投票率を生み、2位に14万票もの差をつけ斎藤氏を再選させた。
筆者には、県議会やマスコミ挙って斉藤バッシングをする8ヵ月と、米国メディアと民主党がトランプを徹底的に叩く米国の8年間とが重なり、投票数日前に「兵庫県知事選は『斎藤2.0』」と書いた。百条委員会でも記者会見でも終始激することなく自らの正当性を述べる斎藤氏の姿を見るにつけ、こうした人物が新聞やワイドショーが挙って報じる様な悪人とは到底思えなかったからだ。長年の宮仕え時代の経験上、「20m歩かされ事件」は県のぬるま湯体質ゆえ、と直感したからでもあった。
4月4日の公益通報に先立つ3月12日に告発文書を外部に配布した県民局長が、漸く晴れて通報について述べることが出来る百条委員会を前になぜ自死したのか。彼の不可解な死がこの問題を一層複雑にしたが、人が自ら命を絶つ理由など当人すら判らない場合があろうから藪の中だ。が、だからこそ百条委員会が公開しないとしている公用PCの全貌公開が必須なのである。
県による懲戒処分の理由の一つに、公務中の公用PCの不正利用が挙げられている以上、その中身を精査した結果の処分であろう。パワハラやおねだりや補助金キックバックなどの告発項目の事実関係解明と同様、公用PCの中身の調査と公開が委員会の最終報告に必須なのは自明だ。これら抜きに兵庫県政の正常化はあり得ない。
またこの半年間、ひたすら一方的に斎藤氏を叩き続けた新聞やワイドショーなどのマスメディアも立花氏や兵庫県民と同じ様に、斎藤氏に対して「ごめんなさい」と言わねばならず、SNSに欠け勝ちなその取材力は多とするとしても、ネットメディアとの共存を今後どう図って行くか、大きな課題を突き付けられたといえる。
そこで米国のことになる。トランプ共和党が大統領選も上下両院選も制するという予想外のトリプルレッド圧勝を受けて、トランプ批判の急先鋒だった一部メディアにも動揺と異変が広がっている。左派の代表紙「ワシントン・ポスト」のオーナーであるAmazon創業者ジェフ・ベゾスが大統領選終盤、特定候補の支持や批判をしない方針を打ち出し、同紙の幹部数名がこれに反対して辞職した。
「ロスアンジェルス・タイムズ」や「USA Today」でも同様の出来事が生じ、「MSNBC」では夫婦で看板番組「モーニングジョー」のアンカーをするジョー・スカボローとミカ・ブレジンスキーがマールアラゴにトランプを訪ねるという珍事が起きた。軍門に降ったのだ。因みにミカは、米中国交正常化の立役者ズビグニュー・ブレジンスキーの娘である。
また上院選では、共和党が100分の52議席を制して主導権を握ることになったが、ペンシルベニア州で最後の1議席を巡って騒動が起きている。日本時間19日20時現在で99%の開票が済み、共和党デイブ・マコーミック候補が48.8%:3,395,743票を獲得、民主党ボブ・ケイシー候補の48.6%:3,378,335票を17,408票リードしている状況である。
何が起きているかといえば、ケイシー候補が敗北を認めるのを拒否しているだけでなく、同州の4つの郡、即ち、バックス郡、センター郡、モンゴメリー郡、フィラデルフィア郡の地方選挙管理当局の民主党系委員が、投票日の数週間前に下されたペンシルベニア州最高裁判所の判決に公然と反抗しているのだ。この事態に先述の「ワシントン・ポスト」までが「民主主義は暗闇の中で死ぬ」と警告している。
11月5日の投票日を前にした1日、ペンシルベニア州最高裁は、郵便投票用紙の返信用封筒に手書きの日付を記入することを義務付ける州法が米国憲法に合致すると改めて確認した。裁判所の決定は「if、and、butを含まない明確なもの」で、それは選挙が接戦である場合や、民主党の現職上院議員がどうしても議席にとどまりたい場合には例外があるなどとは述べていない。
州最高裁は9月に起こされた、選挙前に合法的に投じられた投票と見做されるルールを変えようとした訴訟当事者に対し、「当裁判所は選挙が進行中である間、既存の法律や手続きに大幅な変更を課すことを容認しない」との判決を下していたのに、である。
が、民主党員のバックス郡選挙委員会長は11月11日、「投票用紙の封筒に日付を記入していないというだけの理由で票を数えないというのは愚かなことだ」「法律を変える必要がある」と述べ、委員会は封筒に日付の誤りがある405票を数えることに賛成多数で賛成した。他の3郡の選挙委員会も同じ考えだ。
4郡以外の63 郡の開票は州最高裁の判決通りに進められている。因みにこれら4郡は何れもケイシー候補が優勢で、目下の開票状況は次の様だ。
・バックス郡(開票率95%)
ケイシー49.1%(196,595票)vsマコーミック48.6%(194,345票)
・センター郡(開票率99%)
ケイシー49.1%(40,341票)vsマコーミック48.6%(38,027票)
・モンゴメリー郡(開票率95%)
ケイシー60.0%(311,888票)vsマコーミック37.8%(196,473票)
・フィラデルフィア郡(開票率93%)
ケイシー78.5%(540,857票)vsマコーミック18.7%(128,957票)
仮に州最高裁が無効としている票を数えた結果、ケイシー候補が逆転したとなれば、今度は共和党側が黙ってはいまい。民主党のこういう横紙破りを見れば、4年前の不正を訴え続けるトランプの主張も宜なるかな、といえまいか。
最後は次期トランプ政権の人選の話題。その中心は選挙中から語られた「もしトラ」の「復讐」、即ち「Drain the swamp:沼の掻い出し」要員だ。とりわけバイデン政権が「武器化」した司法省とトランプ前政権の要人だった軍出身者の批判にトランプは腹を据えかねていたに相違ない。
司法長官に指名されたフロリダ州選出下院議員マット・ゲーツほど話題に事欠かない議員は多くない。前下院議長ケビン・マッカーシーの就任に強硬に反対した党内右派であり、下院司法委員会公聴会では、ガーランド司法長官にトランプの法的問題について難詰した。が、こうした激しさに加えスキャンダルも抱えているので、トランプの説得にも関わらず上院で承認されない可能性が高い。
国防長官に指名された「フォックスニュース」の司会者ピート・ヘグゼスを右派紙「ニューヨーク・ポスト」は、「知的で、雄弁で、愛国心があり、プリンストンとハーバードを卒業し、イラクとアフガニスタンの戦闘経験者で、ブロンズスター勲章を2つ受賞した44歳のヘグゼス氏は、国防総省を率いて、徴兵レベルを低下させた “目覚めた毒(Woke Poison)“を取り除くにはうってつけの人物だ」と絶賛する。
トランプのいう「Woke Poison」とは、投票日直前にトランプを独裁者やヒトラーと批判した前政権で大統領首席補佐官を務めたジョン・ケリーやトランプに無断で中国のカウンターパートと連絡を取っていた統合参謀本部議長だったマーク・ミリー、そして国防長官だったマーク・エスパーらを指す。が、ヘグゼスにもスキャンダルがあり前途は順風でない。
他にも保健福祉長官に指名された健康オタクで反ワクチンのロバート・ケネディJr.や国家情報長官に指名されたトゥルシー・ギャバードが民主党議員だったことも予想外だった。が、7月の銃撃事件後にトランプ支持を表面化させ、次期政権で政府効率化委員会の共同代表を務めるとされるイーロン・マスクやケネディJr.との関係をトランプがいつまで良好に保つか、「忠誠心」をキーワードにするなら、筆者には少々疑問があると述べておく。