“もしトラ”がほんとになってNY株は連日上昇、史上最高値を記録した。しかしそのすべてがトランプ期待、トランプ効果(長期金利の一時的上昇)というのは、明らかに過大評価だろう。基調はFRBの連続利下げ。そしてそれがまだ終わらないというアナウンスメント効果が大きい。日米の状況はまさに対照的だ。
地方銀行
『週刊東洋経済』(2024年11月2日・9日合併号)が、利上げが1%の場合、地方銀行のコア利益がどうなるかを試算して、収益のあがる見込みトップ20とワースト20を表にしている(P.43。以下、「東洋経済」))
トップの方をみると、ここにはメガバンクと地方銀行有力行が含まれている。よいことずくめのようだが、実はそうでもない。主な利益の源が日本銀行預け金から生まれる利息なのである。
「預けただけで得られる日銀からのボーナス」(東洋経済、P.43)
ワーストの方をみる。既存の貸出しに固定金利が多く、利上げの恩恵がない。
しかもその金利が、競争上の理由で利益になる水準でない。
こちらの側には、山陰、東北、四国、南九州といった地域の銀行が多い。景気ウォッチャー調査でも明らかなように、停滞状況から抜け出せない地域である。地方経済の二極化が反映している。
日銀から支払われるボーナスが銀行全体でいくらになるか?
現時点(11月上旬)で超過残高に支払われる利息は 0.25%である注1)。これに残高521兆円を掛けると1.3兆円になる。「東洋経済」が論評しているように、この額は 99行の当期純利益(9,582億円)を上まわる。『The NEXT』の第9章で紹介したが、『日本銀行 我が国に迫る危機』(河村小百合著、講談社、2023年)は、日本銀行自体の台所を心配している。その日銀が、いつまで大盤振舞をできるのだろう。
外人株主の圧力で支払った配当は3,600億円と過去最高だが、地方銀行の危機は部分的に既に始まっている。先に述べたように2024年3月決算で8行は赤字である。そのひとつ「K銀行は既に480億円の公的資金を受けているが、規程により決算で赤字になると公的資金の注入先である優先株に議決権が生じるから、実質国有銀行となる」。ちなみに、K銀行の持株会社はSBIグループの出資先である。
ごく最近発表された2024年9月中間期決算では25行が減益か赤字であるから、金融庁の悪い予想に近づいている。
メガ3行の中間決算は海外融資の好調を反映して前年比36%増の2兆5,495億円であった。地方銀行は90行合計で6,778億円、前年比25%増とはいえメガバンクとの格差は拡大している。つまり格差は二重、ひとつはメガバンクとの格差、もうひとつは地方銀行間でのそれである。
地銀証券の二極化
ついでに言えば、地銀系証券会社も二極化している。2024年3月期決算で5社は赤字である。仕組債の販売を止められたことで収益源のひとつを失ったことも原因である※1)。
※1)2023年6月、金融庁は千葉銀行と千葉証券に対して、仕組債販売に問題があるとして業務改善命令を出した。
処分の理由は以下のとおり。
- 千葉銀行と千葉証券は、投資経験が乏しい顧客にも、仕組債を勧誘・販売していた。
- 勧誘・販売の際には、顧客の知識や投資目的などを十分に把握していなかった。
- 仕組債のリスクを十分に説明していなかった。
なぜ、仕組債を販売したかといえば、ハイリスク・ハイリターンを求める顧客のニーズに応じるという額面解答の上に、販売にかかる利益が大きかったからである。
販売時の手数料が、ゼロ金利の時代に1~5%。そして年間の信託報酬が0.1~0.5%。そして、仕組債を売買するときに販売者が仕切りといって、売りには買いで、買いでは売りで対応するのだが、その際の売り値と買い値の差額(スプレッド)も利益であった。
まさに、おいしいビジネスの仕組み債も、この命令をきっかけに終了したのである。
8月暴落の影響はこれから露出する。仕組債といえば、これも8月暴落でノックイン※2)してしまったものもあるようだ。一度でもノックインすれば償還条件などが変更されてしまう。株価が戻っても元本は保証されない場合もある。
※2)あらかじめ定められた株価の水準以下になると、これをノックインという。そうなると償還に際して額面割れとなる可能性がある。債券の期間中に一度でもノックインすると、その後、株価が回復しても、ノックインンしたことになるから、8月暴落でそうなった仕組債は少なくないはずである。
仕組債については実績を示す資料は多くないが、みずほ証券が2024年3月末現在の実績を示すレポートを公表している※3)。
※3)「当社で取扱った複雑な仕組債のリスクリターン実績」(みずほ証券 2024年)
仕組債にはいくつかのタイプがあるが、個別の株式銘柄を対象にしたものと、TOPIXなどのインデックスを対象(ターゲット)にしたものがある。レポートをみると、3月末時点で未償還が多く、それだけに8月暴落の影響を受けたものが少なくないと想像される。
一年と少し前、金融庁は仕組債に関する銀行向けのアンケート調査を実施している※4)。
※4)「地域銀行 100行におけるリスク性商品販売・管理態勢に関するアンケート調査」(2023年4月。以下、「金融庁アンケート」)
回答する銀行に甘い設問が多いのだが、いくつか興味深いものがある。
堂々と“判断していない”と回答している。その比率が15%もある。
仕組債は手数料が高く儲かるビジネスだったが、それだけに組成コストの開示が要求されていた。機関投資家にしてみれば当然のことであるが、これへの回答が以下に示されている。
開示対応済は8%だ。このようなやや危険な商品を売るのだから、リターンとリスクを検証して顧客に示すのは当然の事と思われるが、検証済は12%しかない。なお、これは銀行を対象にしたアンケートで、仕組債を販売した証券会社についてではない。
信金
前掲の「東洋経済」が信用金庫の現況についても書いている。金利が上昇したことにより保有国債の評価損が膨らむことを懸念している。信用金庫の保有国債は残存期間が長いことも心配材料だ。同誌によれば、有価証券のすべてが国債というところも7金庫ある(東洋経済、P.47の表)。
全国の状況は「東洋経済」に譲って、本稿では北海道に限定して注目点を以下に整理した。「地方創生」を課題とするなら、地域限定の検討も必要だろう。
- 北海道内には20の信用金庫がある。
- 資産構成をみると、株式の保有が目立つのはひとつの信用金庫のみ。全体では国債の保有量は多いが、近年は減らしている。地方債の保有は増えている。
- 貸金が項目として最大なのは当然だが、次に大きい比重を占めているのは預け金である。信金業界の場合、その預け先は信金中金であり、その先はやはり日銀である。
- 預貸率には大きな差がある。W信金は16.95%だ。この信金の地元はかって漁業の基地として繁栄した。そのため預金量は大きいが、町が衰退したため貸出先が少なく極端に低い預貸率になってしまう。そこで代々の経営者は有価証券運用に積極的だった。債券の運用に依存しているから利上げには大きく影響を受ける。預貸率が全国並みの70%以上のところは4金庫。札幌や、他の主要都市を除けば、貸出先に困っている。
- 有価証券の含み損は全金庫が抱えている。保有デュレーションは長めである。その総額は年々増加している。総資産との比率が5%の危機ラインを超えているところが6金庫あり、先に述べた積極的に株式保有を進めたD金庫だけが評価益を計上している。
- 利益をみると、脱コロナの影響で貸出が復活し、その分、利益は増えている。日銀からの預け金利息が第二項目なのは地方銀行と変わらない。
- 人件費は費用の最大項目だが各金庫とも減少している。しかし地方銀行程に大幅ではない。
- 税金には注目しておいた方がよい。信用金庫は組織上協同組合であるから法人税の軽減措置を受けている(2024年現在で資本金が1億円を超える普通法人については法人税の税率が23.2%のところ、協同組合等の税率は19%。さらに所得800万円以下の部分については、時限的に15%へと軽減されている)。
ゼロゼロ融資の功罪
コロナ禍で中小企業対策として実施された無利子・無担保の緊急融資のこと。2020年に受付が開始され2022年の9月まで行われた。2022年6月時点の融資件数は243万件、融資金額は約42兆円という大型政策である。
この金額で見たら大いに利用されたことになる。この融資で、苦境を乗り切り存続に成功した企業はたくさんある。だから政策は見かけ上、成功なのだが、それだけではない。光と陰の部分があり、陰の部分はマイナスの質的効果としてこれから現実化するかもしれない。それは、無利子・無担保という金融界の常識にないことを政策的に持ち込んだことによる“ゆがみ”の発生である。
短期間で受付件数が100万件を超えたのは、ひとえに申請受付の要件が甘かったことによる。個人事業主については、過去4年間のどこかの一ヶ月と比べて、申請時点の一ヶ月の売り上げが5%以下なら可。小規模法人は15% だ。
コロナ禍では総じて中小企業の売り上げは不振だから、5%とか15%とかいうのは高くないハードルだったし、4年間のどこかの一ヶ月と比べて、というのも異例の甘さであった。しかも審査は企業の立地する各市町村である。
金融機関にしても、短期間に百万件を超える申請をよく吟味することは不可能であるから、甘い審査にならざるを得ない。
次のグラフは申し込み件数を示している。ピーク時には2週間で10万件を超えていた(図3)。
制度上は、この制度の以前に実施されていた融資を一度返済させて、この新制度の融資に切り替えることは不可だったが、そこにも抜け穴があった。借り手の意志で返済、その借り手がタイムラグをおいて新制度を利用するなら、妨げるものはなかった。
問題は一部の金融機関がこの裏技を利用した疑いがあることだ。それは金融機関と金融マンのモラルに反することだった。緊急対応の措置であったから抜け穴が生じるのは仕方なかったが、金融界がそれを利用したとしたら問題であろう。
制度の不備は他にも不都合を生み出した。融資期間は5年で延長可能であった。経営が不振、特に売り上げというトップラインが不振になるとそれを回復するには時間がかかるというビジネス常識が“5年”の背後にあった。しかし、無利子期間の3年が終了する前に返済が殺到した(図4)。
制度が開始され、無利子期間が終わる3年前に、既に半分は返済されている!
つまり必要ない、特定の目的がないのに無利子で無担保ならとりあえず“借りておく”というケースがかなりあったのである。この“とりあえず”は金融機関にとっても新規顧客の開拓に好都合なセールストークであった。
北海道の場合
ゼロゼロ融資の顛末については、まだ全国の統計はない(作成しないのかもしれない)。そこで公表されている地方の、ここでは筆者の地元の北海道について公表された資料を見ていこう(図5)。
信用保証承諾件数をみると2019年度(2020年3月末まで)の一年間に79,660件とグラフは突出している。過去の、貸し渋り対策やリーマン不況のあとの緊急保証の期間でも承諾件は数増えたが4~5万件であるから突出ぶりは顕著である。
保証残高はどうなったか。これは返済されれば当然だが減る。その部分だけのグラフを示す。
まず件数。2022年度12万1,156件が2023年度末には11万1,196件に、約1万件減少(9月末)している。2024年度にはついては半期の利用者が発表されている。2023年度 5万5,991人→5万5,571人。減少がそれほどでないのは、延長措置(これを伴走支援と呼ぶ)があるからである。保証金額は2020年ピークの1兆6,180億円から2023年度末で1兆2,830億円になった。
代位弁済(借り手が返済不能になり、信用保証協会が金融機関に返済する)についてみてみよう。制度が発足した当初、そして3年の無利子期間が終了する頃には、かなり悪い予想があった。全体の2割ぐらいは・・・というのがそれだ。しかし、現在までのところ、北海道で見る限り代位弁済率は年率で1.4%(金額で200億円)と“普段”と変わらないか、むしろやや低く目である。
その説明要因は、①延長(伴走支援特別保証)に入っている、②早期、あるいは契約満了時の返済が(約3,000億円)かなりあった、である。
ここでまとめておく。
ゼロゼロ融資制度の利用者は三つのグループに分かれる。
- この制度を必要とし、その利用で企業の存続がはかられた。本来的な制度利用。
- これといった使用目的(もちろん申請書には書かねばならない)がなく、資金を運用にまわした。“とりあえず”の利用。
- 再生見込みの薄い企業。緊急措置のため十分な審査ができなかったことによる、乱用。
代位弁済になるのは3であり、2が弁済率を下げた。1がどのくらいあったかは不明である。延長戦(1,600億円)が終了するとき、代位弁済が増えることは予想される。
問題!
必要ないのに借入された資金はどこにいくか。当時の金融機関の定期性預金利息はゼロに近かったから、考えられるのは有価証券、それから組成したファンド系だ。中小企業の社長室には、この種の金融商品の売り込みは連日の盛況だった。それは利息がないのだからノーコストの資産運用であった。楽して儲ける事を推奨したのと同じである。
存在の怪しい企業も借り手となった。その怪しさが現実になったときの損害は国が引き受ける。信用保証の代位弁済の行きつくところは税金負担だ。金融機関として旧政府系の二機関が先行し、それに民間金融機関が続いた(図3参照)。個人事業主向け最高限度額は6,000万円、中小企業向けは3億円である。
国を除けば誰も損をしない。無利子といっても借り手が利息を払わないだけで、国が払う。焦げついても担保はない。これも国がなんとかする。おかげで金融機関はノーリスクで貸し出しを伸ばした。信用保証協会には保証料が通常通り支払われた。つまり、国が金融界に補助金をバラ撒いた。それで“えーじゃないか!”でも本当にそうなのか? 失ったモノがありそうだ。
それは金融世界とそこに働く人のモラルだろう。モラルに基づいた金融マンの行動から、その結晶として「名もなき暴落⑤」で述べた“銀行力”は展開するのだから、失ったものは少なくない。
金融機関は預金者のお金を預かる。肝心なことは運用の安全確保だが、緊急をよいことにそれはなされなかった。借り手がどう使うか、その使い道が国民経済に貢献するのかどうかはあまり考慮されなかったようだ。
借り手が利子を払う。これが融資というビジネス行為の健全性を保証する。さらに、担保をとるのは預金者のためである。無利子、無担保というふたつの無は、金融マンのやり甲斐を奪いモラルの欠如を生み、やがて精神の無をもたらす。
当面はいいだろう。貸出が伸びるのだから金融機関の収入は増える。しかし創造性は失われていく。ゼロゼロ融資の光と陰は十分に検証されねばならない。
銀行力の温床
従業員規模別の取引金融機関数を示したのが図7である。
注目するのは1人~20人の小企業である。ここでは1行~2行が30%以上、3行までを含めると60%弱になる。
考慮しなければならないのは、この数の中に旧国民金融公庫が含まれていることだ。それを引き算すれば小企業のつき合う民間金融機関は1~2行だ。少額の預金をしているだけでもこの数字に含まれてしまうから、引き算はもう少し進んでいる。
メインバンクならぬマイバンクと小企業が1対1の相互信頼関係を築く。社長のところに時を措かずに訪れる金融機関の営業マン。おしゃべりの合間にときおりビジネスの話が混入する。
一昔前のドラマのシーンだ。銀行力の温床はこれだと思う。これがあるから、貨幣の前貸し(速度)と資本の前貸し(資本量)という両者の間にあるふたつの歯車が駆動する。
頼りにしていた金融機関から見捨てられたという不幸な経験を持つ企業もある。
興味深い表を示そう。これは植杉威一郎氏が作成したものである。
比率が高いのがメガバンクと地方銀行である。いわゆる雨傘理論※5)がまかり通っている。
※5)雨が降っているときは傘(融資)を貸してくれず、雨が上がって晴天(好景気)になると傘を押し付けてくる。
信用金庫の比率はかなり低く、信用組合に至っては0.4%である。ここでは顧客企業と金融機関の関係が安定しているのである。ここでの問題は、期待されている銀行力を金融機関の側が発揮できるかどうかであるが、それこそ人材の問題、社員研修の問題である。
大企業と大銀行の場合
企業と金融機関の関係には普遍的な発展がある。企業はモノ・サービスの生産にそれぞれの能力を保有している。しかし資本の循環過程でそれらはお金に変換するから、その管理という問題が生じる。
大きな企業ではその専門部署が形成される。金融機関の最初のつきあいはここに始まる。経理部門の仕事の最大一は資金繰りであるから、ここで生じるのは貨幣の前貸しであり、これを利用して企業の回転速度は上昇する。金融機関の貢献が決定的になるのは企業が量的に拡大しようとするときだ。
利潤の蓄積を待っていては何年かかるかわからないことが明日にも可能になる。量的拡大は企業にとって競争戦を勝ち抜くための主要な戦略である。かくして、金融機関は金銭の出納・管理という、いわば経理部のお友達のような控え目な役柄から、競争戦に不可欠の戦略パートナーに変身する。
金融資本
この変身が大企業との関係の進化の過程で生じると、かのR.ヒルファディングが示した金融資本になる。金融資本は資本主義を最高度に発展させるが、反面、人々を抑圧し、外に向けては帝国主義となり人類に大きな危険をもたらしたのだが、ここでは措いておく注2)。
小企業と金融機関の間では金融資本は発生しないとだけ言っておこう。ここでの競争は健在である。どの企業も自分のパートナーとしての金融機関と手を携えている。数が多いから独占構造が生じないのである。また金融資本にみられるような、金融機関による企業支配という問題も生じない。
小企業世界では両者の相互関係は長期的に維持され、そこから対立や支配・従属関係は生まれないのである。
資本主義の土台は中小企業
日本では中小企業庁、つまり中小企業の支援をする官庁が、世界に先駆けて設立された※6)。
※6)中小企業庁の設立は1948年(旧商工省の外局として)、旧中小企業基本法の制定は1963年である。アメリカの中小企業庁(SBA)の設立は1963年であり、イギリスのそれはずっと遅れて1970年代である。
中小企業政策については、今回の総選挙でもそうだったが、右派と左派、自民党と野党の見解が一致する。それは中小企業こそが国の土台という認識が国民的なものであることを示している。
中小企業、特に小企業の世界では、企業と金融機関の相互理解に基づく良好な関係が形成されていた、ということである注3)。そして、本シリーズの主張のひとつは、長く続いた低金利がこの構造を弱めているのではということだ。
もっとも、それを振り払おうとする方向もある。『中小企業白書』(2024年版)は、金融機関の融資以外の経営支援サービスが拡大していることを、2015年と2023年を比べて示している(図8、図9)。業界も進行している不都合を認識しているのである。
低金利を元に戻せばすべてが復元するわけではない。むしろ、急にそれをやってしまえば、より破壊的な現象が生じる可能性がある。日銀の総裁発言が引き金になった8月暴落はその危険を知らせる信号であったと理解すべきである。
むすび
8月の史上最悪の暴落から3ヶ月が過ぎたが、まだ名前がついていない。“名もなき”状態のままになるかもしれない。
翌日には戻したのだから暴落ではないと主張する人もいる。しかし、史上最大の下げ幅だったこと(7兆円という記録的出来高)を思うと、資本主義の象徴的な機構である株式市場の発した内なる声を聞くべきだと思う。
本シリーズの前半では、株式市場の金融化について論じた。資本主義が生み出し世界に蓄積された過剰資本(投資に向かわない)が株式市場を包み込んだ。そのために株式市場は金利に敏感に反応するようになった。
シリーズの後半では、金融世界の構造変化に目を移し、その一現象として中小企業金融の構造変化を扱った。低金利・ゼロ金利が長期に亘ったことも一因となって小企業と金融機関の古き良き関係が崩れかけ、それが金融機関にも反作用し、両者とも危機に陥る。
“金利のある世界”に戻しても、構造は元に戻るどころか、かえって摩擦を引き起こす可能性がある。The NEXT を展望しようとするとき、そうした摩擦は大きな障害になる。中小企業金融世界の混乱、敢えて衰退と言ってもよい現状を放置しては“地方創生”の土台が揺らぐことになるからだ。
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注1)地方銀行、信用金庫の本業は様々な原因から不振である。これを埋める要素のひとつが日銀預け金への預金であるが、それには条件があった。つまり経費削減努力である。
下の表に見るように、OHR(オーバー・ヘッド・レシオ、経費/業務粗利益)に各年度に削減目標が設定されており、これをクリアーしないと日銀から利息はもらえない。経費についても同様の規定があった(表2)。
このために地方銀行は要件を満たすべく経費削減に励んだ。支店の統廃合、そして人員の削減である。ところが皮肉なことに人員削減が一段落する頃に銀行への新しい要望が顧客企業から示されるようになる。図-10は、銀行が融資活動のおまけとして行ってきた従来のサービスではなく顧客が手数料を払っても求めるものの一覧である。
これをみると、①銀行内部にないもの、②人員が揃っていた時はやっていたものに分かれる。①については新しい人材が必要になる。しかし銀行は保守的な職場で、これらの新人材の受け入れが難しい。②については、昔はやっていたが、人員削減の過程で失われたのである。
現在の地銀はなにをするのも人材不足の問題を抱えている。量的にも質的にも。
注2)R.ヒルファディング(R. Hilferding)はウィーン生まれ(1877年)の医師で、当時(1920年代)からドイツ社会民主党のイデオローグとして頭角をあらわす。ワイマール共和国の大蔵大臣を二度経験する。ナチスの迫害を受け占領下のパリで囚われ収容所で死んだ(1941年)。彼の主著、『Das Finanzkapital』(1910年。岡崎次郎訳『金融資本論』(改訂版、岩波書店、1982年))は古典の名著である。
注3)この点に関連して『信金中金月報』に興味深い論文が発表されている。著者は浅井義裕氏(「金融機関から役員を受け入れている中小企業とは?」、『信金中金月報』、信金中央金庫、第23巻 第11号(通巻625号)、2024年)。分析の結果は三つだが、特に興味を引いたのは「金融機関との関係が密接なほど(取引期間が長いほど)役員・従業員を受け入れる傾向がある」という部分だ。この結論を得るためにサンプルを226探っているが、それらの金融機関との取引年数の平均はなんと37年である。まさに中小企業は世代を重ねて金融機関とつきあっている。
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