今年のトップニュースは「トランプ2.0」

12月22日、アリゾナ州フェニックスでMAGA大規模集会が開かれた。同集会はトランプ再選の原動力の一つとなった「Turning Point USA(TPUSA)」が19日から3日間主催した「America Fest」の大トリを飾るものでもあった。TPUSAは12年にチャーリー・カークを中心に立ち上げられた保守派学生らのNPOである。

チャーリー・カーク氏 TPUSA HPより

16年のトランプ大統領誕生から彼の言動をウォッチし続けた筆者は、20年11月に負けて後も、選挙不正を認めた訳ではないにしろ、彼のレトリックに起因する数多の訴訟や既存メディアの報道の何れもが根拠薄弱な虚偽捏造の類だとし、トランプの無罪と再選を確信する論考を何十本も、白い目で見られつつ本欄に寄せた。そんな筆者の今年のトップニュースは当然、「トランプ2.0」である。

米大統領選の投票日が来る
米大統領選の投票日は憲法で11月の最初の月曜日の後の火曜日と定められている。持って回った表現だが、これには日本とは異なる米国社会の特徴が現れている。その一つは宗教であり他はその広い国土だ。日曜は礼拝の日、翌月曜も馬車での移動日として考慮せね...

TPUSAのイベントに出席するトランプ次期大統領 TPUSA HPより

トランプは22日のMAGA演説で勝因も幾つか述べているが、筆者が「これが一番」と思ったのは不法移民に纏わる出来事だ。が、それ後述するとして、先にその他のトピックを幾つか書く。

先ずは集会初日のベン・カーソンの講演。筆者は彼をトランプの副大統領候補に推したが、トランプは若いJDヴァンスを選んだ。ベンは聴衆に「ガスライティングをすべて見抜いてドナルド・トランプを大統領に選んだアメリカの人々をとても誇らしい」と述べた

トランプの副大統領がベン・カーソンであるべき理由
有罪評決が下された以上、マーチャン判事は予告した7月11日に量刑を出す。その日までにトランプがやるべきことは、6月27日に行われるバイデンとのテレビ討論会、7月15日~18日の共和党大会に向けた副大統領候補の決定、そしてニューヨーク(NY)...

「ガスライティング」とは、故意に誤った情報を与えたり、継続して嫌がらせをしたりして、他者をコントロールする心理的虐待の一種を指す、当世を象徴する流行語の一つだ。バイデン政権期に司法省や既存メディアがトランプに関して行って来たことは正にこれ。兵庫県知事に纏わる一連の出来事もこの類と言えるし、目下の韓国の混乱にもこれが影響していよう。

兵庫県知事選は「斎藤2.0」
兵庫県知事の件について筆者は9月初め、斎藤氏をやんわり擁護する立場から「兵庫県知事のパワハラ問題で一言」なる拙稿を書いた。その手前、この2ヵ月成り行きを注視してきたが、ここへ来てトリックスター立花孝志氏が斎藤支援目的と称して参戦した...
選挙イヤーの掉尾を飾った尹大統領の戒厳令
選挙イヤーだった2024年が暮れようとしている。何といっても一番の注目は暗殺未遂をも逆手にとったトランプが圧勝した米大統領選だ。が、日本国内では、いくつもの失政で政権を投げ出した岸田氏が石破「だらし内閣」を誕生させた自民党総裁選と総選挙、そ...

ベンは自らの小児外科医としての経験を交えつつ、こう続ける(要旨)。

トランプが20年に敗れた時、彼は負けていないと言ったが、もし勝っていたら、今彼は人生の終わりを迎えていた。そうしたら(ガスライティングに纏わる)あらゆることが達成されなかっただろう。だが二期目に入る今、彼ら(アンチトランプ)はさらに4年間トランプ政権と付き合うことになる。失敗は成功への準備なのです。

つまりベンは、20年に敗れたからこそ、トランプが16年から28年までの12年間、米国(のみならず国際社会にも)に影響を与え続けられると見るのである。「人間万事塞翁が馬」ということであろう。

トランプは演説で、チャーリー・カークやジョー・ローガン(ハリスが断った彼のインタビューにトランプは応じ、若い視聴者の心を掴んだ)への感謝、次期政権の陣容紹介、TikTok賞賛、プーチン(早く私と会いたいと言っている)への対応、株式やビットコインの相場急上昇、フラッキングと関税の美化などを語り、そしてパナマ運河に触れた。

筆者はパナマ運河について21年に3本論考を寄せたので、詳細はそちらをご覧願うとして、今回トランプは、同運河の通行収入の約7割を、100年前にそれ造った米国の船が占めていること、それにしては通行料が高いこと、中国の手に委ねることは許さないことなどを述べ、これらの対応次第では米国が取り戻すと述べた。が、既存メディアは、例によって結論部を強調するのである。

スエズ運河の巨大コンテナ船座礁で想起する三つの話
先月、世界最大級のコンテナ船エバーギブン号がスエズ運河で座礁し、422隻が1週間ほど待機する事件があった。スエズ運河は年間2万隻の船舶が通行する要衝、喜望峰を周るには1週間を要するという。船主が日本企業であることも話題になった。 ...
開戦の日に振り返る、黒船からワシントン会議に至る米国の対日政策(アーカイブ記事)
日本軍が米ハワイ・真珠湾基地を攻撃してから、8日で80年となります。太平洋戦争開戦までのアメリカの対日政策を振り返ります。2020年12月10日掲載記事の再掲です。 今年の12月8日(日本時間)は、真珠湾から約80年、ほぼ人の...
ニカラグアの独裁大統領再選と中国資本の運河計画
「ニカラグアのオルテガ大統領は7日の選挙で、知名度の低い候補者相手に4期連続を目指したが、彼に真の挑戦ができる人たちは刑務所にいた」(結果は当選)と11月7日に「Politico」が書いた一月後、「The Hill」は「ニカラグアは9日、台...

トランプがパナマ運河に言及するに至った思考過程を筆者はこう推察する。即ち、彼はオハイオで銃撃に遭い、1901年に暗殺されたオハイオ選出のマッキンリー大統領を想起した。マッキンリー関税を編み出した25代大統領は「海のフロンティア」を標榜し、パナマ運河も着想した(完成はセオドア・ルーズベルト政権)。トランプが敬愛するのはマッキンリーとレーガンだ。オバマが「デナリ」と改名した米国最高峰の名も、トランプはマッキンリー山に戻すようだ。

関連してグリーンランドの購入も話題なので、少し触れる。トランプが22日、1次政権でスウェーデン大使だったケン・ハウリーをデンマーク大使に指名した際、「世界中の国家安全保障と自由のために、米国はグリーンランドの所有権と管理権が絶対に必要だと考えている」と述べた。

トム・コットン上院議員は19年、「昨年デンマーク大使にグリーンランド買収の可能性について提案した」と述べていた。また当時の国家安保担当大統領補佐官ジョン・ボルトンも、北極圏での中国の影響を懸念し、グリーンランドにおける米国のプレゼンスを拡大すべくデンマーク大使と秘密裏に協議し、選択肢に関する覚書を作成していた(12月26日の『National Review』)。

前掲記事に拠れば、その方法はグリーンランドがデンマークから独立した場合の「自由連合盟約(COFA)」締結だ。デンマークの補助金に依存する、イヌイット主体の住民56千人の約76%が独立支持という。COFAでは米国との間で高レベルの経済的統合が実現するが、相手国の独立は維持される。米国は目下ミクロネシア連邦、マーシャル諸島共和国、パラオ共和国とCOFAを締結している。

テキサス州 の3倍の面積を持つグリーンランドには米国防総省のビードゥーフィーク宇宙基地がある。またトランプ政権末期には67年振りに領事館を再開し、鉱業、観光、教育などの経済発展プロジェクトに12百万ドルを提供するなど、米国は既にその国防と経済に重要な役割を果たしている。

北極海の巡る地政学上の重要性に加えて、「グリーンランド天然資源研究所」によると、氷河や凍土の下、海岸沖には希土類やウランなど貴重な資源が大量に存在し、周辺海域では石油採掘の大きな可能性があるとされる。これだけ条件が揃えば、元来が不動産屋のトランプがこの島に執心するのも宜なるかな。

米国には1917年、デンマークからタックス・ヘイブンで知られるヴァージン諸島を金貨2,500万ドルで買った実績がある(東半分は英領)。ドイツによるデンマーク併合と同諸島のUボート基地化を懸念したウィルソン政権は、売却に応じない場合、米国がドイツによる奪取を防ぐべく島を占領するかもと示唆し、これを購入した。この顰に倣えば、グリーンランドも中国より米国に委ねられる方が西側には安心だ。

最後は、筆者がトランプ「2.0」に最も影響を与えたと考えるエピソードである。23日の1時間40分にわたる演説が3分の1を過ぎた頃、不法移民に話題を転じたトランプは、「国境担当責任者」に指名したトム・ホーマンが「殺人、強姦、虐待を行っている移民ギャングや犯罪者を排除するだろう」と述べた後、「移民犯罪の犠牲者全員とエンジェルママ全員に敬意を表する」と述べ、「パティはどこ、上って来て」と会場に語り掛けた。

登場した小柄な高齢女性パティ・モーレンさんは、23年8月にエルサルバドルの不法移民に暴行殺害されたレイチェルさん(当時37歳)の母親だ。5人の子供の母親の遺体は翌日発見され、10ヵ月後の5月に犯人が逮捕された。トランプは事件から1年経ったこの8月、アリゾナ州南部のメキシコ国境でパティさんと面会し、慰めた。全米に流されたその様子は米国民の涙を誘った。

そして4ヵ月後、MAGAの大聴衆の前に登壇したパティさんは、臆することなくこう述べた。

ありがとう。トランプ大統領に初めて会った時、私たちを昼食に招待してくれました。正直いうと私たちはそこに座っていただけです。私はその男性(トランプのこと)見、そして何を言うか聞きたかったのです。彼が以前に大統領だったことは知っていたので、彼が本当に誠実かどうか、本当に思いやりのある人なのか知りたかったのです。

そして私は彼を見て、彼が私にどのように接したか、また彼のスタッフが彼を本当に尊敬していたのも見ました。スタッフは彼のために働くのが大好きでした。私が彼を人として見る方法が変わったのは、彼が父親であり、祖父だったからです。彼の目を見れば、彼が心から仲間の人間を気にかけていたのが判ります。

私が最も感謝しているのは、彼が母親の叫び声を聞いてくれたことです。そして彼は気にかけて私たちを守ると約束し、私たちを助けてくれました。それが彼に求めていたすべてです。大統領としてだけでなく、同じ人間として、私は個人的にこの男性と知り合い、友人として考えることができて光栄です。

上記は選挙後の話だが、こうしたトランプの態度は拉致被害者との面会で示されたのと同じで普段のものだし、相手の話を良く聴く戦争が嫌いな人間だ。威嚇とも思える言動は戦争を防ぐためのものである。

昭恵さんの取り持ちで面会が叶いそうな石破総理は、例えばこのパティ発言や彼女と接する態度、ジョー・ローガンやNBCクリステン・ウェルカーらの長時間インタビューなどからトランプの本質を自身の目でしっかり見極めて、会談に臨むことをお勧めする。

また、10月16日にブルームバーグ・ニュースのミクルスウェイト編集長に答えたインタビュー番組では、トランプが経済や外交政策を余すところなく語る中で、安倍元総理について「大切な友人」「誰からも尊敬されるハンサムで素晴らしい男」などと回想している。必ず見てから会見すべきである。