以下は2024年12月23日に、ある編集者に送ったメールの全文である。とくに返信のないまま1週間が経ったため、目次と強調を附して公開する。
1. 今年を閉じるにあたって
爾来ご無沙汰しています。世界が大きく動いた2024年も終わりつつありますが、どうお過ごしでしょうか。
ご存じかどうか、米国では今年、議会が20年からのコロナ対策の当否を検証し、ロックダウンもワクチンも休校も逆効果だったとする報告書を出しましたね。つまり、メディアで日本の「専門家」が言っていたことは、すべてまちがいでした。
(*)メールでは記事内のXのリンクを提示
22年の2月からはウクライナ戦争に関しても、ずっと「専門家」の発言を見聞きしました。たしか西側が支援すれば、ウクライナはロシア軍を国境線の外へ追い返すことができ、それ以外の状態での「停戦」は国際法に反する侵略を認めるのと同じだから、SNSで口にすることすらしてはいけないんでしたっけ。
私はウクライナについても、戦争についても専門家じゃありません。ただ、むかし歴史学を専門にしていたことがあるので、「どうしてこんなことになってしまったのか」を私なりに考えて、いまも定期的に文字にしています。
一方、同じ媒体では「専門家」の書くものも読むことができます。アイコンのお顔にTVで見覚えがあり、たぶんかなり著名な方だと思うのですが、勝ち目のないウクライナに「寄り添」ってあげるのが自分の仕事だから、「いいじゃないですか、「負け組応援団」で」と仰っていました。
さすが、専門家はふつうの人とは違う。たかだか戦争の勝敗、たかが増え続けるウクライナの死者数程度には、ひるまない、影響されない。「私はまちがっていない」と最後まで言い続ける、強い意志を感じますね。
「専門家にあらずば有識者にあらず」と言わんばかりの姿勢が、コロナ・ウクライナを経て2020年代、ずっと続いてきました。戦争が始まった際には「専門家以外を出していたから、不快でチャンネルを変えた」とわざわざ表明する人がいたほどでしたが、そうした空気はあなたも編集者として、さすがにご記憶でしょう。
それで? そうした専門家の言っていたことは、どこまで正しかったんですか? メディアジャックのようにあらゆる媒体に露出して、特定の方向に世論を誘導したのですから、当然検証されるべきですよね。たとえば米国で、議会がそうした役割を果たしたように。
2. この夏に起きたこと
事実を確認しましょう。私があなたに「専門家に依存する社会の問題」を採り上げるよう、懇切なメールでお願いしたのは今年の6月27日。「多忙だから待て」とのお返事をいただいて実際に待っていた私に、あなたが侮蔑的なメールで却下する旨を知らせてきたのは、7月18日でしたね。
たしか、私の依頼を断る理由は大きく3つで、
① 専門家が予想を外して権威を失い、メディアの信頼を損なうなどという現象は、與那覇が言っているだけで、世間では起きていない。
② コロナもウクライナも、もう「今はホットイシューではないので」、そんな検証は載せてもバズらない。
③ モテるハウツー的な軽い記事が売りの著者に、「学者の人ってSNSで怖すぎ」な旨を書いてもらえばウケるけど、そんなキャラじゃない與那覇の批判には価値がない。
でしたっけ。へぇ。
②の「今はホットイシューではないので」はあなたの原文ママですが、正直、衝撃を受けました。あまりにショックだったので、8月13日の記事で引用しておきましたから、私の記憶が正しいことの傍証にはなるでしょう。
そのあとにすぐ、ファクトレベルで専門家のまちがいが判明したので、再度あなたにメールをし、「考えは変わらないか」とお尋ねしましたが、変える気持ちも必要もないんでしたよね。なんどかやり取りして、最後にお返事をいただいたのは、8月24日でしたか。
まぁ、あなたにとってはそうなんでしょうね。なにせ、国民はいまも専門家を起用する媒体を高く買っており、「メディア不信」なんて起きておらず、すべては與那覇の妄想なんですから、つきあいきれないですよねぇ。
あっ、失礼しました。まさに選挙の結果にマスコミ不信を見出す解釈自体が、無名の「與那覇が言っているだけ」なのでしたね。調子に乗ってすいません。
ちなみに専門家には、批判も含めて「與那覇と議論してもいいよ」という方もいらっしゃるようですが、さすがにモテトークとかは自分はできなかったです。つい、ホットイシューじゃないウクライナについて語っちゃいました。バズらないキャラで申し訳ありません。
3. 来年以降にむけて
ときに、幸いに出版社が決まりまして、明年からはコロナ・ウクライナの事例を踏まえた「専門家批判」の書籍の執筆に入ります。後世に参照されるよう残すためのものですから、従来はあえて実名の記載は控えてきた件も含め、問題ある「専門家」をしっかり名指しで採り上げ、個々の言動を再録し徹底的に検証するつもりです。
もちろんそれは数字を取る上で「専門家」に依存し、彼らに散々好き放題なふるまいを許しながら、検証もせず責任も取らないメディアに対する批判でもあります。
こちらも抽象論では説得力が出ませんから、著者自身が体験したメディアの問題例のひとつとして、あなたと媒体のお名前も明記する形で進めますが、よろしいですよね?
刊行されたところで、「與那覇が書いてるだけ」で世間は別ですし、コロナもウクライナもますますホットイシューじゃなくなるし、どうせバズるキャラじゃないんだから、特に実害はないものと思いますので。
まずは、このメールを年内に公開する形で始めます。執筆と並行しつつ、関連する記事を25年も発表し続け、26年のなるべく早くの公刊をめざします。近年流行りの「オウンドメディアによるプロモーション」ってやつですかね。
年明け早々、前任時にはコロナ対策に「否定的」だと非難され、いまもウクライナ支援に「消極的」だとされるドナルド・トランプ氏が大統領になるようです。この問題に再度光を当てるには事欠かない一年が始まりそうで、今からわくわくしますね。
それではごきげんよう。どうぞ、よいお年をお迎えください。あなたが2025年を「よい一年」にしたいなら、旧交のよしみで手を貸すことは十分に可能です。
(ヘッダーはシネマトゥデイより。申し訳ないのですが、映画は未見です)
編集部より:この記事は與那覇潤氏のnote 2024年12月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は與那覇潤氏のnoteをご覧ください。