大晦日の「紅白歌合戦」で、高齢ミュージシャンの方々の健在ぶりが話題になっている。
この種の番組には出演しない系統のバンドであったB‘zが登場し、ボーカルの稲葉浩志氏が世間の60歳のイメージを覆す声量と身体的動きを披露した。その他、THE ALFEEの三人は69歳と70歳であり、玉置浩二氏は66歳だ。
稲葉氏は、喉の不調が顕在化した時期もあったのを克服しているというが、高い次元のパフォーマンスを披露するには、単なる身体的な能力以上の事が必要だ。未曽有の少子高齢化社会に突入している日本人の誰もが見習うべき点を見せてくれた。
団塊世代より下の世代は、たとえばローリング・ストーンズのミック・ジャガー氏が80歳を超えて、ステージを動き回るパフォーマーであり続けていることを知っている。国内では、矢沢永吉氏が75歳で現役だ。ミュージシャンの方々であれば当然、これらの事例を基準にして、生活管理をしているだろう。
私が若い時には、「紅白歌合戦」の高齢者向け部分と言えば、懐メロ系の演歌や歌謡曲が中心であり、「視聴率が下がる」と不評だった。他方、「バブル世代」はカラオケルーム全盛時代の経験者である。「紅白歌合戦」のような番組も、新しいやり方で全世代向けの番組作りができるようになってきたのだと思われる。こうした工夫は、日本社会で今後もあらゆる場面で必要になるはずだ。
60歳代が幅を利かせる社会が良い社会なのかについては、一考の余地がありうると思う。56歳の私にとっては、真剣な問いだ。若手の活躍の機会を奪うやり方、若手に自分への賞賛を求める態度は、絶対に犯してはならないタブーである。
他方、現実には、高齢者が社会に大量に存在している。早めに引退して悠々自適の生活を送るなどということは、許されないのも事実だ。
私個人は、生きている間は他人に負担をかけないように生き、あとは長くなり過ぎないように人生を終わりにしたいと願っている。私は安楽死制度の支持者だ。だが、それでも他人に迷惑をかけない高齢者、できれば社会に刺激を与えて貢献し続けることができる高齢者であるための努力は続けなければならない。
B‘zの稲葉氏は、岡山県津山市の出身として知られる。稲葉氏が「紅白歌合戦」に出演した時間帯に花火をあげたという。鳥取市にも隣接した山間部の過疎地帯だ。近隣の市町村と合併をして面積を広げてなお、現在の人口9万人台で、しかも減少し続けている現代日本の縮図のような地域であると思われる。
津山市の統計を見ると、15歳以上を「労働力」と考えて、人口の半分以上と計算しているようだが、最も人口が多い層は、50歳代以上だ。60歳くらいでパフォーマンスのレベルを下げてもらっては、社会が維持できない地域だろう。
常に挑戦し続け、高いレベルのパフォーマンスを維持しながら、決して不満や愚痴を言わず、社会に刺激を提供し、若手を引き上げることを何よりも優先させる。
こうした高齢者像は、単に日本社会の中で求められているだけではない。国力が衰退していく条件しか見当たらない日本という国家を見ても、切実な意味がある。
日本が今後もなお、国際社会の中で存在価値を認めてもらうために、心がけておかなければならない外交のあり方として銘記できるだろう。
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