多くのメディアが「福岡で7歳の女の子の呼吸器を外して母親が殺人の疑い」という記事を流している。これらの記事のタイトルだけを読むと、残酷な虐待をしている母親のイメージを持たれる方が多いと思う。
しかし、私には子供の世話に疲れ切って希望を失った母親の姿が浮かんでくる。全国には在宅の医療的ケア児が約2万人いると推計されている。厚生労働省の資料によると、「医療的ケア児」とは、「医学の進歩を背景として、NICU(新生児特定集中治療室)等に長期入院した後、引き続き 人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な児童のこと」とある。
わかりやすく言うと、「医療的ケア児」とは、かつては救命できなかった新生児が、医学の進歩によってNICUで救命できるようになったが、後遺症が残って、自分で息ができなくなったり、自分で食事摂取ができなくなったために、そして、病院で長期間療養ができないために、呼吸器をつけたり、チューブで胃から栄養を供給して、家族が自宅でケアをしている児童のことを指す。
成育医療研究センターの知人たちによると、定期的に痰などを吸引を必要とするために、家族、主に母親は、長時間熟睡することができないケースが多いそうだ。読売新聞によると、亡くなった7歳の女児は「先天性の疾患で体を動かせない」とある。呼吸器の補助が必要なので、腕や脚が動かせないだけでなく、自発呼吸ができない状態であると推測される。特別支援学校2年生とあったので、学校には通っていたようだ。
想像してみて欲しい。7歳になるまで、自宅でこの子供さんをケアして支えてきたお母さんの姿を。お母さんは大量の薬剤を服用して体調不良を起こし、入院し治療を受けているようだ。もちろん、この母親は呼吸器を外せば、子供さんが死に至ることはわかっていたはずだ。7年間ケアをしてきた母親が、どんな気持ちでこの子供さんの呼吸器を外したのか、その瞬間を想像すると、胸が張り裂けそうに痛む。
多くのメディアが、「呼吸器を外して殺害」と見出しを付けている。だから、オールドメディは馬鹿なのだと今更ながら思わざるを得ない。事実を伝える見出しには違いないが、母親を悪者にする前に、日本社会の貧困さを伝えるべきなのだ。本来は社会全体で支えるべきことができず、家族(母親)の犠牲で成り立っていることの問題を直視すべきなのだ。
心が傷ついているに違いない母親に、石を投げつけるような、馬鹿メディアが日本を崩壊させている。日本の悲劇をしっかりと伝えて欲しい。
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編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2025年1月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。