2024年12月雇用統計振り返り:底堅い労働市場と予想される下方修正

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2024年12月の雇用統計において、失業率は4.1%(事前予想4.2%)、非農業部門雇用者数は前月比25.6万人増(事前予想16.4万人)と発表された。米国労働市場の底堅さを示し、ソフトランディングへの期待を高めるものであった。

一方で、トランプ新政権の打ち出す減税、関税強化、移民規制などの政策がいまだ不透明であること、FRBによる利下げ期待の後退ならびに騰勢を強める米国長期金利、2月に発表される雇用統計年次改定などが、当面の懸念点だろう。カリフォルニア州で発生した山火事も経済への影響が大きくなりそうだ。

※ 市場参加者の見通しは、6月に一度の利下げを織り込んでいるだけである。

以下にデータをまとめていく。なお、今回の雇用統計で、家計調査における季節調整の係数が改定されたため、過去のデータからは細かな数字に変更がある。

【非農業部門雇用者数】

2カ月連続で前月比20万人を超える底堅さを示し、3ヶ月平均も前月比17万人増と堅調である。2024年は平均18.6万人/月の雇用を生み出し、非農業部門雇用者数(事業所調査)は約1億5,950万人となった。

【失業者数・失業率】

失業率は4.2%から4.1%へ低下。失業者は前月比23.5万人減り、約690万人。3カ月平均では700万人前後で推移。

【失業週数】

中央値は低下、平均はわずかに上昇。中央値10.4週、平均23.7週ということは、一部の長期失業者が全体の平均を押し上げていることが分かる。

※ 中央値:データを小さい順(大きい順)に並べたときの中央(真ん中)の値。例えば、3.5. 10.30.70というデータがある場合、中央値は10(平均は23.6)。

【週毎失業者数】

失業期間は5週未満、5-14週、15-26週、27週以上という4カテゴリがあるが、12月はすべてのカテゴリにおいて、失業者数の低下がみられた。

【労働力人口・労働参加率】

労働力人口が3カ月ぶりに増加に転じ、約1億6,850万人、労働参加率は62.5%となった。

【雇用者数(家計調査)】

最近では前月比マイナスを記録する月も多かったが、12月は前月比47.8万人増と力強さを示した。2024年は平均4.5万人/月の雇用を生み出し、家計調査による雇用者数は約1億6,170万人となった。

【平均時給】

前月比0.3%(市場予想0.3%)、前年比3.9%(市場予想4.0%)と、上昇基調がやや一服した。インフレ懸念が和らぐことを期待したい。なお、平均時給は$35.69(≒5,600円 ※157円/ドルで換算)と、日本とは桁違いの水準だ。

さて、話は変わるが、毎月発表される非農業部門雇用者数を過度に信頼するのは控えた方が良さそうだ。

非農業部門雇用者数は1回目が発表された後、翌月・翌々月に2回修正が行われ、以降、毎年の雇用統計年次改定で主に5年(5回)にわたり修正されていく。

お気づきの方も多いと思うが、最近の雇用統計は下方修正を繰り返すことが多い。以下は2023年以降、非農業部門雇用者数(前月比)の3回目から1回目の発表数字を引いた表となるが、22回の内、16回下方修正されている。また下方修正幅もそれなりに大きい(22カ月の上方修正の合計19万2千人、下方修正の合計89万4千人)。

※ 2024年9月は小さくて見えないが、+1,000人

過去が正確であったかというと、そうでもない。以下は2000年以降、非農業部門雇用者数の3回目と1回目を比較し、上方修正された回数を年毎に表しているが、2009年から2014年のように上方修正が繰り返された年も多い。

※ 2024年は比較可能な10月までのデータ。

多くの人が注目するのは主に1回目の数字だけのはずだ。しかし最近は2回目、3回目の発表を経るたびに下方修正がなされることが多く、しかも2025年2月に発表が予定される雇用統計年次改定でも大幅なマイナスは確実だ

景気拡大期に上方修正が繰り返され、経済が盛り上がっていくのはまだ良い。しかし、経済が踊り場にあるときに、下方修正が繰り返され、さらに年次改定で大幅な下方修正を知り、実は雇用は強くなかったのか…、と後で慌てるのは良くない。

このような最近の雇用統計の癖を知り、発表に臨むのが当面は得策に思う。冒頭に記載した非農業部門雇用者数のグラフも年次改定の大幅な下方修正によって、残念ながら来月にはまったく使えないグラフに変わっているだろう。

また雇用統計の回収率の低下傾向が毎年続いているのも信頼性の確保という点で気になる。