今年の正月は千葉県のローカル線に乗る旅をしました。
千葉県を選んだ大きな理由は、今回ご紹介するJR久留里線の一部(久留里駅~上総亀山駅)が近く廃止になることが発表されたためです。具体的な廃止時期は未定ですが、JR東日本ができるだけ早い時期に廃止したいと考えているようなので、乗れるうちにと思い今回の旅先に選びました。
久留里線の起点は木更津駅。内房地方の中心都市です。
木更津駅の前からは東京方面のバスがひっきりなしに出ています。東京へは鉄道を使って千葉、船橋を通って行くよりもCAと書かれている東京湾アクアラインを経由していく方が圧倒的に早く安いため多くの方がバスを使って移動します。このため内房線を走っていた特急さざなみは大きく減便されてしまいました。
起点の木更津駅でさえそのような状態なので、そこから奥房総に向かう久留里線の経営状況がいいわけもありません。
木更津駅に近い久留里駅までは、学生などの利用もあって営業係数は1153円(100円稼ぐのに必要な費用)とまだ健闘している方と言えるのですが、末端の久留里駅から上総亀山駅までは16821円と関東はおろかJR東日本全体でもワーストの数字となっています。2億の経費をかけながら収入はたったの100万円という有様です。
もともと久留里線は、木更津駅と外房の大原駅を結ぶ「木原線」として計画されていました。ところが大原駅から延びた木原線は上総中野駅(青線と緑線の境目部分)で私鉄の小湊鉄道と連絡することとなりそのまま延伸の計画はストップ。久留里線はぼっちとなってしまいました。
当初の目的を失った久留里線は、この段階で苦しい経営環境に置かれることとなりました。国鉄末期のローカル線廃止の嵐の中も生き抜いてきましたが、2024年11月27日、JR東日本により久留里駅から上総亀山駅の間について新たな公共交通への移管の申し入れがあり、事実上の廃線が決まりました。
正月で学校が休みということもあって、木更津駅を7時台に発車する列車は閑散としていました。車両は比較的新しくロングシートですが快適な車内環境です。
木更津駅から少し内陸に入ればこのような田園風景が広がります。久留里線の沿線はほとんどがこのような民家の少ない田園地帯です。
横田駅では上り列車と行き違いました。久留里線は平成24年までタブレット交換による閉塞が行われていました。関東のJR線としては最後まで残っていましたが、この新型車両の導入に合わせてその姿も見られなくなりました。
木更津駅から47分ほどで路線の名称にもなっている久留里駅に到着します。ここから先の区間が今回の廃止の対象となる区間です。
平山駅の周辺はそれなりに民家もあるエリアです。今回の廃止で公共輸送のネット枠から取り残されることがないように、しっかりと協議を進めてもらいたいものです。
上総松丘駅を過ぎ、ワンマン列車は終点の上総亀山駅を案内します。この表示ももうすぐ見られなくなると思うと寂しい気持ちになります。
木更津駅から列車に乗って1時間強で終点・上総亀山駅に到着しました。
朝早い便でしたが途中駅から乗ったと思われる鉄道ファンがここで降り、駅舎の写真を撮影していました。毎日これだけの人が乗っていたら先ほどのような営業係数にはなりません。普段は殆ど利用者もいない、閑散とした状態なのでしょう。
ここには1日9本の列車が来ていますが、朝夕のラッシュ時主体で日中は6時間弱列車が来ません。使いづらいから利用者が減る、利用者が減るから便数が減るという悪循環に陥っています。
とはいえ終着駅の駅前通りはこのような状況で、人っ子一人いません。こういう状況では廃止もやむを得ないのかなぁと思ってしまいます。
上総亀山駅からはほんの少しだけ線路が先に延びていました。そこから、折り返しの列車となるE130系が乗客を待っている姿を見ることができました。伸びた線路の先が他の線路と繋がることはもうありません。むしろ、今あるこの線路自体がなくなろうとしています。残念ですが今の利用状況を考えるとやむを得ないのかなと思ってしまいます。
JR各社が営業係数を公開してローカル線の窮状を訴えている昨今。モータリゼーションが進んで何十年も鉄道を利用したことがない人も多く、経営環境は厳しさを増すばかりです。それでも公共交通は車を運転できない交通弱者の大切な移動の足となります。単にノスタルジックな思いで鉄道を残してほしいとは思いません。
地方を中心に高齢化が進んでいく時代、どんな公共交通がサステナブルで地域にとって最も利便性が高いのか。自治体と公共交通事業者でしっかり話し合っていただき地域の明るい未来を気付いていってもらいたいと思いました。
編集部より:この記事はトラベルライターのミヤコカエデ氏のnote 2025年1月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はミヤコカエデ氏のnoteをご覧ください。