「安楽死」をテーマにした映画・テレビ番組の紹介(後編)

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安楽死の映画・テレビ番組を紹介します。前編の続きです。なお、ネタバレを含みますので御注意ください。

(前回:「安楽死」をテーマにした映画・テレビ番組の紹介(前編)

5.映画「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」(2020年、日本)

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サスペンスドラマとしては、それなりに面白いですが、安楽死の映画としては全く評価できません。

映画の後半では、ドクター・デスは、安楽死を依頼した後に気が変わって「死にたくない」と意思表示している少女を強制的に安楽死させようとしました。これでは、単なる殺人鬼です。安楽死では「本人の意思」が最も重視されます。この基本が無視されている以上、安楽死の映画とは言えません。

6.映画「ロストケア」(2023年、日本)

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病気で苦しむ42人の高齢者を殺害した介護士が、「これは殺人ではなく救いだ」と主張する話です。 犯人の正義と検事の正義が激突します。

この映画では安楽死という言葉が語られることは全くありません。したがって、映画制作者は、安楽死の映画とは考えていないのかもしれません。しかし、多くの人がこの映画から連想するのは安楽死です。そのため、安楽死の映画として適切かどうかという観点より論評することにします。

安楽死の映画として見た場合、その描き方は適切ではありません。まず、犯人は死亡した41人の本人の意思を全く確認しておりません。例外は、犯人の父親の安楽死です(これを加えて42人)。また、父親以外では、死亡した41人が安楽死を望んでいたという描写も全くありません。安楽死の場合、本人の意思確認は基本中の基本です。したがって、これらは安楽死とは言えません。

次に、殺害を行った犯人の動機は安楽死としては不適切です。動機は、患者の苦痛や尊厳の喪失ではなく、「家族の介護が大変だから」に重点が置かれて描かれています。そのため、いかに介護が大変かを示す描写が多く見られます。犯人は、「自分がやらなければ、家族が介護殺人を犯していた」と主張しました。

介護が大変な場合の基本的な対策は、低所得でも施設介護を可能にするなどの介護制度の充実であり、安楽死ではありません。現実はそんなに甘くないとの反論があるかもしれません。財源がないため、今以上の介護制度の充実は難しいのかもしれません。しかし、それならば財源確保のために消費税を更に上げるなどを検討するべきです。基本的には、お金で解決できる話なのです。綺麗事と批判されるかもしれませんが、お金がないから安楽死を推進するという考え方は容認できません。

一方、安楽死を希望する人が抱える耐えがたい苦痛、人間としての尊厳の喪失といった問題は、お金では解決できません。このような問題では、社会的弱者とか強者とか、高所得とか低所得とか、あまり関係がありません。欧米で安楽死を希望する人は、高学歴で裕福な人が多いとされています。

この映画は、視聴した人に、「介護が大変だから安楽死が必要」という不適切な印象を与えてしまいます。そのように安楽死をとらえる人が増加してしまいますと、安楽死法の成立がより困難となってきます。なぜならば、安楽死反対派に絶好の反対の根拠を与えてしまうからです。つまり、「介護施設に入所することのできない社会的弱者が安楽死に誘導されてしまう」という彼らの主張が説得力を持ってしまうのです。

7.映画「世界一キライなあなたに」(2016年、イギリス)

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交通事故で重度の脊髄損傷を負って四肢麻痺となった青年がスイスに行き安楽死を遂げる話です。イギリスでは安楽死が合法化されていないため、安楽死するためにはスイスまで行く必要がありました。青年は親を説得するために、安楽死までの猶予期間として6か月間を設定しました。青年は、この期間に介護のために雇われた若い女性と恋に落ちました。しかし、それでも青年の安楽死の決意は変わりませんでした。

青年は裕福でした。介護が家族の負担になっていることもありませんでした。しかし、身体的苦痛に加えて、人間としての尊厳が失われたことに青年は耐えられませんでした。そのため、安楽死を選択しました。そして恋も、その決意を変えることはできませんでした。青年が抱えていた苦悩は、スピリチュアルペインとも表現できます。十分なお金も、充実した介護や医療も、恋人も、彼のスピリチュアルペインを解消することはできなかったということです。

「どのように生きるか」が大切なのではなく、「どのように生き、どのように死ぬかを選択できること」が大切なのです。どの選択をするかについては正解はありません。どの選択が正しいかについて議論しても、誰もが納得できる結論に至ることはありません。本人の死生観に他人が干渉するべきではありません。この映画では、安楽死の概念が適切に表現されています。

8.映画「ブラックバード 家族が家族であるうちに」(2019年、アメリカ)

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ALSに罹患した女性を、不正に致死薬を入手した夫(医師)が自殺幇助するという話です。女性の娘が父親の不倫に気づき、母親の安楽死が父親により不正に誘導されているのではないかと疑問を抱き、安楽死に反対しました。女性は、「夫の不倫は、自分が望んだ不倫なのだ」と告白しました。自分の病気のことや自分の死後の夫の生活のことを考えて、夫の不倫を容認したわけです。告白により、家族のわだかまりは解消し、娘に抱かれながら女性は安楽死を遂げました。

問題なのは、この安楽死が法律に違反した自殺幇助である点です。法律に基づいた安楽死であれば、2人の独立した医師の診察を受ける必要があります。2人の医師の診察を受けていれば、女性の娘のような疑問を抱くことはありません。この映画では、悪意を持つ人は登場しないため問題は生じませんでした。しかし、もし悪意を持つ人が安楽死を誘導するようなことがあれば、それは単なる殺人です。

この映画は、安楽死は法律に基づいて実施するべきであることを暗に示しています。日本でも安楽死に類似した医療行為が実際には密かに行われているという真偽不明の話を聞いたことがあります。秘密裏に行われる悪意のある安楽死を防ぐという観点からも、安楽死の法制化は必要なのです。

9.映画「安楽死のススメ」(2025年3月公開予定、日本)

日本人男性の平均寿命が81.4歳
今の俺が27歳、てことは残り54年てこと
ちょうど三分の一にきたってこと、 もう三分の一が終わったってこと
で、残り三分の二が、これまでの三分の一より楽しい確率なんてかなり低いと思うんだ
だって、最初の三分の一面白くない小説その後最後まで読まないでしょ?
大体の人がもうそこでやめるよ、「あ、もうこれ読まなくていいや」って
じゃあもう、そこでやめた方がいいなって思って、早いうちに閉じちゃった方がいいなって思って

──だから僕は、死んでみることにした──

公開前に、映画を視聴せず論評することには問題があるかもしれませんが、安楽死の映画として私はあまり期待していません。

主人公は、27歳と若く、特に病気や障害もないようであり、安楽死の要件を満たしていません。トリップコメディと宣伝されていますので、肩の力を抜いて安楽死について考えてみようという趣旨なのかもしれません。安楽死の話というよりは、「安易な思いつきでの自殺はよくない」という話なのかもしれません。

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