高額療養費の今年度引き上げ案が撤回されました。国会で野党から「人の生死にかかわる」と言われたら石破首相もなす術がなかったのでしょう。医療費の考え方は世界では様々でアメリカのようにバカ高のところもあればカナダや英国のように無料のところもあります。日本がどこを目指すかです。問題は社会保障費の増大との兼ね合いですが、カナダは無料の代わりに治療できる範囲があり、クスリも公的保険の適用外。ところがこれが効果的なのです。日本でこの案を出せば猛反発がありそうですが、クスリについては対策を講じるべきでしょう。例えば花粉症のクスリは医者に掛かって処方箋にしてもらったほうが市販薬よりはるかに安いなんておかしいでしょう。
では今週のつぶやきをお送りいたします。
トランプ政策に激しく抵抗する株式市場
誰がどんな文句や苦情を言うよりも関税の発表をするたびに株式市場が溶けるように崩れていくのにトランプ大統領は「それでも俺の言うことは正しい」と言い切れるのでしょうか?カナダメキシコ中国向け関税の適用をした3月4日以降も緩和策を打ち出すなど二転三転しています。カナダのトルドー氏は首相としては最後となるトランプ氏との電話交渉後、関税問題は「予見可能な将来」まで続くと述べました。来週から首相が変わる中でカナダはどう攻めるのでしょうか?どんな形で関税が撤廃、撤回、修正されようがトランプ氏はこの関税策でこんな改善ができたと自慢するのでしょう。どうぞご自由に。
次は3月12日の鉄鋼とアルミ、そして4月2日が本丸の「相互関税」でここが山場になります。よって株式市場はあとひと月は激しい値動きで基調としては下向きの展開になりやすいと思います。また昨年後半から年始ぐらいまで盛り上がっていたAI、半導体関連がさっぱりとなりました。これがNASDAQの不振の主因。こちらは金食い虫のAIが企業の収益にどれだけ結び付くか不透明な点が気がかりです。またAIが社会一般にどのような影響を及ぼすのか学者レベルでの研究も待ちたいところです。
本日発表になったアメリカ2月度の雇用統計は事前予想の16万人を下回る15.1万人。この先、数か月は売り上げ減に伴う企業の解雇が進むとみられ雇用統計は冴えない展開となり、失業率の行方次第ではパウエル氏の金利政策にも影響しそうです。ただスタグフレーション化すれば物価は上がる一方、雇用は悪化するので金利がすぐに下がるかは微妙です。次回はせいぜい6月ぐらいではないかと推測します。いずれにせよトランプ政策が経済界とのハーモニーを演出できるかが勝負です。現在は指揮者のトランプ氏と楽団である経済界は、きーきーという不協和音だと申し上げておきましょう。
日本人は外国人経営者がお好き
セブンイレブンが井坂社長の退任とスティーブン デイカス氏の社長就任を発表しました。買収に関する特別委員会の委員長が社長になるなら初めからカナダのクシュタール社に買収をさせないための伏線だったのか、と思われても仕方がないでしょう。買収防衛策の一環、あるいはうがった見方をすれば伊藤興業による買収案は可能性が低いもののそれを模索させる時間稼ぎをし、その間、井坂氏からデイカス氏にバトンタッチする出来レースであったような気がしないでもありません。一方、アメリカ人経営になると経営会議で日本的な紛糾がしにくくなるのも特徴で外国人経営者にはやりやすい環境だと言えます。
同様に日産は11日に取締役会が開催されますが、内田誠氏の退任ありきというよりも、候補者が議論され、役員会で賛同を得られるかというシナリオの状況です。現CFOのジェレミー・パパン氏が最有力候補ですが、仮にパパン氏が暫定ではなく、正式な社長となればホンダとの合流を再度探るのは目に見えているのでパパン氏の社長就任賛同=ホンダ傘下での合流再交渉とも言えます。ただし、ホンダ日産の合流話はホンダ側ももろ手を挙げて賛成という雰囲気ではなく、「相乗効果」期待ではホンダの本心は親より娘の三菱自動車が欲しいということでしょう。親はいらぬが、勝手についてくる感じだと思います。一方、娘はイヤイヤしているので結局、ホンダ日産の話は難しい気がします。

カルロス・ゴーン氏とスティーブン・デイカス氏
日本でも外国人経営者は確かに増えてきたと思います。彼らの考え方はドライであり、社内派閥のようなギトギトした部分よりも会社経営そのものにフォーカスするのが特徴です。また株価は経営者の通信簿ですのでそれが四半期決算ごとに評価され、株価上昇=ストックオプションなどを通じた報酬の上昇となり、外国人経営者は「孤高の人」となりやすいのでしょう。六本木ヒルズあたりでランチタイムに行くと外国人ビジネスマンが器用にお箸を使っておひとり様ランチしているのを見かけます。あの孤独感がある意味、外国人経営者の強みとも言えます。
THE「日本の安保」
このブログでは時折日米安保に関して「いざという時、アメリカが本当に日本を守ってくれるのかね?」と再三にわたって述べてきました。当時の読者のコメントには日米安全保障条約はそんな薄っぺらいものではないという意見もありましたが、日米関係も時代と共に変わるのです。そして時の指導者次第ではもっと変わるのです。トランプ大統領がここに来て日米安保に一石を投じました。以下産経新聞のトランプ氏の発言の記事の一部です。
「日本とは非常に興味深いディール(取引)を結んでいる。私は日本が大好きだ。われわれは日本と素晴らしい関係を持っている。しかし、米国は日本を防衛しなければならないが、日本は米国を防衛する必要はない。知っているか? そういう内容になっている。ところで、日本はわれわれと組んで大もうけしている。だが、米国は日本を守らなければならないが、いかなる環境下でも日本は米国を守らなくてもいいのだ。私が聞きたいのは、誰がこういうディールを結んだのかだ」。
誰がこういうディールをしたか、その一人はトランプ氏の大好きな安倍氏の祖父、岸信介氏がカラダを張って国会を通したのですよ。安保のあった時代背景は共産勢力の拡大に対する恐怖とその防衛でありましたが、91年にソ連が崩壊した時点でその本質的意義は一旦消えたはずです。ただ、私には「日本はアメリカ大好き。戦闘機も国債もいっぱい買うから今後もいろいろよろしくね」が今日まで続いているのではないかと思うのです。そのために日本の政治家はアメリカに足を向けて寝られない流れができたのです。憲法改正ができないのもここに一つの要因があるのです。トランプ氏の安保に対するこの一言はさて、日本を覚醒させるのでしょうか?
後記
私の仕事の1/3は膨大な量のEmailに対する返事書き。カナダ人とやり取りする際、論理的説明をしないと主張も説得も反論もできません。時として1-2行のメールの時もあれば20行のメールの時もあります。その20行をわかりやすく濃縮された表現で相手に有無を言わせないようにすることをこの34年心がけてきました。幸いに英文は日本語の文章を書くのとほぼ同じスピードで書けます。気をつけているのは単語1つ使い方を誤るとそれが揚げ足取りになり、後で「あの時こう言った」という証拠として指摘される点です。これがEmailの最も怖いところ。特に最近はライアビリティを問われるケースが増えており、慣れた仕事でも実は細心の注意が必要とも言えます。難しい世の中です。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年3月8日の記事より転載させていただきました。