政府レベルで経済を動かす「手」は2本あります。1つは政権が経済政策を打ち出すこと、もう1つは中央銀行が金融政策を駆使するものです。私の長年の経験から実感としては政権が打ち出す経済政策は大きな動きを起こすのに対して金融政策は小刻みにそして頻繁に微調整を続けるのに長けていると考えています。
ただ、政権による経済政策はそう頻繁には出てこないので市場はニュースに飢えています。そこで年に8回ほど開催される金融政策決定会合にどうしても注目が集まることになります。特に株式市場が神経質な時ほど中央銀行総裁の一言ひとことで株価が大きくぶれるのは人々の心理やプログラム売買の繊細さを感じます。
FOMCの場合、議長の記者会見が市場が開いている午後2時半から開催され、小1時間続きます。テレビ画面ではパウエル氏と記者とのやり取りと共にダウ、ナスダック、S&Pの値動きがリアルで映し出されます。市場がハッと思うようなことを言えば株価は即座に反応し、時として激しいアップダウンを繰り返しながら金融政策の発表を消化していくという流れです。

植田総裁(日銀HPより)パウエルFRB議長(Board of Governors of the Federal Reserve System SNSより)
一方、経済政策を仕切るトップは日本なら首相、アメリカなら大統領であります。日本の場合、最近、大型のこれといった経済政策がなく、表現は悪いですが、「高齢者のゆっくりした動き」に感じてしまいます。若者がジャンプしたりサクサク動いたりするような気配はありません。そんなのは池田内閣の頃(国民所得倍増計画)の時代であってバブルの頃が人間の年齢でいう40代で最も華やかだったころのように感じます。2000年代になると子供たちの時代になるも親がそれを潰したりしたわけです。堀江さんと日枝さんの戦いなどその典型でしょう。20年代半ばとなる現代でも日本経済の手綱をいまだ親が握りたがるも歩行器を使って歩くような感じであります。子供や孫の代にバトンタッチできない日本ということでしょうか?
さて、日銀、FRB、それぞれが金融政策決定会合を開催したのですが、議長や総裁から聞こえてくる言葉は不確定とか不確実という言葉でした。政策を担う政権は司令塔、管制塔であり、経済をどのようにしたいのか、大枠の目標設定をするので目的地を決め、どの高度で飛行するのか決めます。中銀はパイロットでその方針を尊重しながら適度なインフレ率と適温の雇用状況が維持できるよう操縦するわけです。ところが今、操縦かんを握るパイロットが「視界不良、よく見えないぞ」と言っているわけで、特に今は「関税の嵐」を通過中というわけです。
トランプ関税というトリガーは確かにあります。特に4月2日の「相互関税」が最大のイベントとなります。それを受けてアメリカ経済をはじめ、世界経済にどのような影響が及ぶか金融、経済の頭脳たちでさえ読みにくいわけです。ただそれ以外に欧州へのエネルギー供給のかなめであるロシアの動き、このところ外向きの発言が少なくなった中国経済の動向は時代の変化を感じないわけにはいきません。
また新技術に対する市場の「吸収力」も踊り場を迎えています。EVの行方、海上風力発電の苦戦、小型原発(SMR)の普及の可能性、AIの功罪、更には低軌道衛星による技術革新があり、今後はITに革命的変化を及ぼす量子コンピューティングの開発が控えています。これら技術革新によって既存のビジネス体系が創造的破壊を繰り返すわけでどの分野にどのようなインパクトがあるのか、予見するのが困難なこともあるでしょう。
これらの動きに関して最も正直なのは投資家であり、その総体である株式市場の動きはある程度の方向性を示すと言えます。不思議にも3月4日にカナダ、メキシコ、中国にトランプ関税が発動され、その事実を市場が吸収した3月11-13日を底に市場の動きは比較的引き締まってきており、明らかにマネーが市場に戻ってきているように見えます。カナダの株式指標であるTSXは市場最高値まで3.6%まで戻しており、51番目の州とか、25%の関税というネガティブなイメージと市場の動きが正反対であることは特筆すべき点であります。
不確実で読めない経済ですが、すべての人は日々の生活が基本であり、その枠組みが壊れるほど影響があるのか、そこがポイントだと思います。雇用があるのか、給与は物価と能力に見合い妥当であり、順当に上昇しているのか、日々の生活をする上で一般生活物価は大丈夫か、家族を養えるか、といった基本を見るべきでしょう。私からみると日本はその基本からは崩れていないと思います。私が住むカナダは物価も下がりはるかに暮らしよくなったと思うし、アメリカも関税で浮ついた感じから地に足がつくようになれば案外、堅実な経済になるのかもしれません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年3月21日の記事より転載させていただきました。