欧州で核保有国は英国とフランスの2国だけだ。ドイツ、イタリア、ベルギーなどには米軍の核兵器が保管され、北大西洋条約機構(NATO)加盟国への核抑止力の役割を果たしている。ここでは、米国が欧州からその核兵器を撤去した場合について考えてみる。

スターマー首相インスタグラムより
マクロン大統領はいち早く「米軍の欧州撤去」というシナリオを考え、欧州独自の核の抑止論の議論を呼び掛けてきた。英国も核保有国としてウクライナの安全問題ではウクライナでロシアとの間で停戦で合意されれば、フランスと共にウクライナへの平和維持軍の派遣を前向きに検討しているが、マクロン大統領の欧州独自の核抑止という問題では慎重な姿勢を崩していない。その背後には、同じ核保有国といっても、英国とフランスではその実情が大きく違っているからだ。
英国の核抑止力は、すべて海上発射型のトライデントIID5弾道ミサイル(SLBM)に依存している。ヴァンガード級原子力潜水艦(4隻)がこれを運用。最低1隻が常に哨戒(CASD:Continuous At-Sea Deterrence)に就いている。トライデントミサイルは米国(ロッキード・マーティン)製であり、定期的なメンテナンスやアップグレードも米国の協力のもと行われる。そのため、米国の技術支援が停止した場合、英国の核戦力維持に支障が出る可能性がある。核弾頭は英国独自設計のものだが、米国のW76核弾頭をベースに開発されている。
1958年の米英相互防衛協定(Mutual Defense Agreement)により、英国は米国の核技術へのアクセスを許され、米国製の兵器を使うことが可能となった。1962年のナッソー協定(Nassau Agreement)で、英国は米国製のポラリス・ミサイルを購入し、以後SLBM型の核抑止力へ一本化した。米国との特別な関係もあって、英国は核開発では独自開発を止めて米国に依存する関係となっていった。
一方、フランスは英国とは異なり、核抑止力を2つの方式で維持している。海洋核戦力と空中核戦力だ。前者ではル・トリオンファン級原子力潜水艦(4隻)がM51SLBMを搭載。ミサイルと弾頭(TNO)は完全にフランス独自開発。後者では、ラファール戦闘機に搭載可能なASMPA巡航ミサイルを運用し、核攻撃能力を持つ。核ミサイル・弾頭・潜水艦・航空機すべてフランス国内で開発・製造・運用。米国の支援なしに完全な運用が可能だ。
フランスは自前で核弾頭を開発・製造。現在のフランスの核弾頭はM51SLBMやASMPA巡航ミサイル用に最適化され、高い信頼性を持つ。コンピューターシミュレーション(Tera100スーパーコンピューター)とレーザー核融合技術(Laser Megajoule)を活用し、実験なしでの高度な核弾頭設計が可能だ。
英国が核技術で米国に依存している一方、フランスは核ミサイルから弾頭まで独自に製造、設計されている。また、英国の場合、空中核戦力は存在しない。その結果、英国は米国の技術支援がなければ、長期的な核戦力維持が難しい。フフランスは技術的に完全自立し、海上・航空の二重の抑止力を持つため、柔軟性が高い。米国の支援なしでも独自の核戦略を遂行できる。フランスは「完全な戦略的独立性を確保した核戦力」と言える。現時点で欧州独自の核抑止力を完全に自立した形で運用できるのはフランスのみだ。
フランスの核戦力はNATOの枠組みには含まれておらず、「欧州のための核抑止力」としての役割を果たせる唯一の存在だ。フランスの核技術のレベルは、ロシア・米国には及ばないものの、世界でもトップクラスであり、中国の核戦力と同等かそれ以上の能力を持つと評価されている。
以上、外電とチャットGPTの情報からまとめた。
現時点では、フランスだけが欧州独自の核抑止力を持つ国であると結論できる。今後、フランスの核抑止力が欧州全体の安全保障の一部として機能するかは、EU内の政治的合意と安全保障政策に依存する。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年3月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。