英国のスターマー首相は、今月初め、欧州各国がウクライナと協力して戦争を終わらせ、同国をロシアから守っていくための計画を発表した。この中で注目を浴びたのが、和平が成立した後の「有志連合」による平和維持隊の派遣だ。
15日にはウクライナのゼレンスキー大統領、欧州首脳など29カ国の指導者らが参加したオンライン会議を開き、停戦を守るための軍事的な計画が運用段階に移行していると述べた。
現時点では和平の見通しは立っておらず、平和維持活動がどのような形になるかは不明だ。
トランプ米政権がウクライナを含む欧州の安保体制の維持に消極的な姿勢を見せるようになった今、欧州諸国が防衛費を増やし、ウクライナ支援のためにより積極的な関与をせざるを得なくなった。
こうした中で生まれてきたのが、英国主導の有志連合の枠組みだが、どの国がどこまで関与するのかについては合意ができていない。
例えば、フィンランドのストゥブ大統領は、BBCの番組の中で、地上部隊の派遣について話すのは「時期尚早」としている。「停戦も和平プロセスもないなかで、地上部隊について話すのは早すぎる」。

ゼレンスキー大統領インスタグラムより
元英陸軍参謀総長はどう見る?
以前から、スターマー首相はウクライナへの英軍の派遣(和平後という条件付き)に言及してきた。しかし、英国が平和維持隊を派遣する話はどこまで実際的で、どんな影響があるのか。
BBCラジオの番組「PM」が元陸軍参謀総長リチャード・ダナット氏に見通しを聞いている(3月17日放送)。その一部を紹介してみたい。
「英陸軍の3分の1を拘束」
ダナット氏の分析によると、平和維持活動は長期にわたる可能性が高いため、派遣する兵士の数に対して3倍から4倍の兵力が必要になる。例えば、5000人の英兵を派遣する場合、ローテーションを考慮すると、実際には1万5000人から2万人、あるいは2万5000人の規模になる可能性がある。2万5000人を拘束するとなると、「現在の英陸軍の約3分の1にあたる」。
ちなみに、英国防省によると、昨年10月時点で英国の正規軍の人員は海軍・海兵隊が約3万1000人、陸軍が約7万4000人、空軍が約3万7000人である。
「英軍は現在、エストニアやポーランドへの前方展開など、他の重要な任務も遂行しているため、既存の任務に支障をきたさないように慎重に検討する必要がある」とダナット氏はいう。
過去にはイラクやアフガニスタンに約1万人の兵士をローテーションで派遣し、1990年代のボスニア紛争へも派遣したが、当時は現在よりもはるかに大規模な軍隊を保有していた。
「どんな活動をするのかが決まっていない」
想定される平和維持活動の具体的な性質が決まっていないようであることも懸念だ、とダナット氏は指摘する。
「地上部隊が実際に展開されるのか、あるいは衛星からの航空監視によって停戦を監視する形になるのかさえ決まっていない。平和維持活動の性質が定まっていない段階では、どのような交戦規定が必要になるのかを具体的に議論することができない」。
「ウクライナとロシアの最前線に国際部隊を配置することは非常に危険だ。ウクライナ国内でのより慎重な展開が求められる」。
平和維持活動の具体的な内容や目的が明確になるまでは、英国がどのような規模で、どのような役割を果たすことができるのかを判断することは困難であり、「米国の関与の意向も重要な要素となる」。
「過去の事例は、平和維持活動の規模、期間、そしてそれに伴う兵站や人員の維持が、派遣国の軍事力に大きな影響を与えることを示している。また、過去の成功例は、当時の軍隊の規模や国際的な状況といった特有の背景があった」。
「ウクライナへの潜在的な平和維持部隊の派遣を検討する際には、これらの過去の経験から得られた教訓を踏まえ、現在の英軍の能力、他の国際的な責務、そして想定される平和維持活動の性質と規模を慎重に評価する必要がある」。
昨年7月に発足した、スターマー労働党政権。「最終的に何を達成しようとしているのか、大きな政治目標が見えてこない」と政治家、学者、ジャーナリストらが指摘してきた。筆者も同様の思いを持つ。
欧州内の結束をアピールする効果はあるだろうし、理想を語るのはよいが、果たして実行できるのか。足取りをしっかりと固めることができるのか。私たちは注視していく必要があるだろう。
編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2025年3月22日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。