構造から変える:新時代の組織マネジメント論

尾藤 克之

peshkov/iStock

「識学」とは、組織内の誤解や錯覚がどのように発生し、どのように解決できるか、その方法を明らかにした学問です。

2025年4月1日に識学にて安藤社長と対談をしました。本稿は対談時のやり取りを記事化したものですが、読みやすいようにアレンジを加えています。

【対談者】
安藤広大氏(株式会社識学・代表取締役社長)
尾藤克之(アゴラ・コラムニスト)

株式会社識学

マネジメントコンサルティングの識学
株式会社識学は、独自のマネジメント理論『識学』で、経営者・マネージャー・部下、すべての社員が無駄なストレスなく、自らの役割に集中できる組織を作り上げ、よりよい未来と成長をもたらします。組織運営上の課題解決は株式会社識学にお任せください。

右:安藤社長、左:筆者 於:株式会社識学にて

時間軸で考えるマネジメント

尾藤克之(以下、尾藤):今日は安藤さんにマネジメントについてのお考えをうかがいます。まず、マネジメントの本質とは何だとお考えですか?

安藤広大氏(以下、安藤):マネジメントのあり方は、会社の規模や置かれている状況によってかなり違ってくると思います。ただ、私の場合は「人との出会い」が最も大きな影響を与えました。

以前は一般社員として働いていましたが、その後別の会社に移り、そこでマネジメントの立場を経験しました。うまくいくこともあれば、うまくいかないこともありました。しかし、マネジメントのロジックを学んだとき、「ああ、これがうまくいかなかった理由だったんだ」と気づくことができました。これが私にとって最大の学びでしたね。

尾藤:会社を立ち上げる際は、最初から上場を目指していたのですか?

安藤:会社設立時に「上場を目指します」と言うのは、誰でもできることです。ただ、私の経営スタイルは時に「社員思いではない」と誤解されることがあります。しかし、本当の意味での「社員思い」とは、社員が一人で生きていける力を身につけさせることだと考えています。

尾藤:興味深い視点ですね。話はかわります。上司の褒める行為についてはどのようにお考えですか?

安藤:褒めるという行為には注意が必要です。褒めると、その基準が「求められるレベル」として定着してしまう傾向があります。例えば100点の成果を褒めると、「自分に求められているのは90点レベルなんだ」と認識されてしまう。

さらに、褒めるとインフレーションを起こします。一度褒めたら、次はもっと褒めなければならなくなる。そのため、よほどのことがない限り褒めない方が良いと考えています。

何より重要なのは、「成長」の定義です。成長とは「できないことができるようになること」です。できないことを指摘しなければ人は成長しません。褒めるだけでは真の成長は見込めないのです。

尾藤:その考え方、もう少し詳しく教えていただけますか?

安藤:上司の重要な仕事は、部下が現在の経験や知識では理解できないことにチャレンジさせることです。部下は最初は腹落ちしなくても、「上司に言われたからやらざるを得ない」と取り組み、実際にやってみて初めて「こういうことだったのか」と理解できるようになる。

問題は、現代のマネジメントには「時間軸」の概念が欠けていることです。

尾藤:なるほど。それはあらゆる場面に当てはまるということですか?

安藤:そうです。褒める行為も同じです。その場の瞬間だけを考えれば、褒め合うのは気持ちいいことです。しかし、時間軸で考えると、褒められたレベルが基準となり、期待値が下がってしまう。そして、一度褒めたら次も褒め続けなければならなくなり、結果的に褒めること自体がマイナスに作用します。

コミュニケーションも同様です。その場で納得できなくても、時間の経過とともに理解できればいいのです。モチベーションについても「モチベーションを高めなければ頑張れない」「社員のためにモチベーションを上げよう」という発想は、「他者にモチベーションを上げてもらわないと頑張れない」という依存的な思考を生み出します。

こうした発想は全て「迎合型」です。短期的な満足を追求するあまり、長期的な成長や自立を妨げているのです。政治で言えば、本来、国力をどう上げるかを考えるのがリーダーの仕事なのに、この瞬間の民衆を喜ばせればいいという発想になる。これが民主主義の成れの果てであり、今の日本のマネジメントの状況で、だからどんどん弱くなっているんです。

会社の方針と権限委譲

尾藤:会社の方針については、どのようにして社員に伝えられているのですか?

安藤:私たちは「こういう会社です」ということを最初にしっかり伝えます。そして、その方針に賛同する人材を受け入れるというスタイルを取っています。実は私自身、面接にはほとんど関わっていないんですよ。

尾藤:面接に参加されないのですか?それは意外ですね。

安藤:はい。現場に全て権限委譲しているんです。新卒採用は会社設立から3年ほどは私も関わっていましたが、中途採用については2年目以降は一度も面接していません。最近は新卒も現場に完全に任せています。この考え方は会社全体に浸透していて、自然な流れになっているんです。雨と同じようなものですね。

尾藤:雨と同じ、というのはどういう意味でしょうか?

安藤:雨が降ることを嫌がっても仕方がないでしょう?それと同じで、自然な流れとして受け入れるということです。権限委譲は私たちの組織文化として定着しています。

尾藤:他のコンサルティング手法と比較して、安藤さんのアプローチの違いはどこにあるのでしょうか?

安藤:30数名の組織に対して従来型のアプローチを取るのは、正直かなり非効率です。私たちの最大の違いは、「個人の属性を変える」という発想ではなく、「組織の枠組みを変える」という発想を持っていることです。

つまり、個人にあまり焦点を当てていないんです。組織内で問題が発生した場合、個人の問題点を探すのではなく、「なぜその問題が組織として発生したのか」という構造的な原因を探ります。それが私たちのアプローチの独自性だと思います。

尾藤:「構造は戦略に従う」という考え方がありますが、多くのコンサルティング会社は組織設計から入る傾向がありますよね。

安藤:その通りです。大半のコンサルファームはそうですね。ただ、特に人事系のコンサルティングでは、その構造的な考え方が弱いと感じています。

私たちは構造に重点を置き、「人のやる気」や「共感力」といった要素にはほとんど触れません。代わりに、仕組み作りに注力しているんです。

人材配置についても同様で、「人の特性」をあまり重視しません。「適材適所」より「適職適材」という考え方です。もちろん、「この人はこの役職に向いている」という判断をゼロにしているわけではありませんが、基本的には「この役割が必要だから、誰が担当するか」という順序で考えます。会社の戦略との整合性を最優先に、組織の仕組みを設計していくのが私たちのアプローチです。

(次回に続く)

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