「トランプ発の金融危機」を輸入する国民民主の消費減税要求

池田 信夫

トランプ関税が一部撤回されて落ち着いていた債券市場が、半導体に新たな関税をかけるというラトニック商務長官の発言で、また荒れてきた。けさ(東部時間13日12時)の長期金利(国債10年物)は、一時4.5%を抜いた。

株安・ドル安・債券安の「トリプル安」は危険信号

1ドルはまた142円台になった。通常はアメリカの長期金利が上がって日米の金利差が開くとドル高になるはずだが、今は株安・債券安・ドル安のトリプル安になっている。これは2022年のトラス・ショックと同じ危険なパターンである。

金利差だけでみるとドルを買う動きが出るはずだが、逆に今は米国債の入札で買い手がつかない。朝令暮改のトランプ政権が次に何をするかわからないので、政府の信認が失われ、そのリスクプレミアムが上がっているのだ。

政府が信認を失って「第三世界」化するアメリカ

日本や中国の投資家が売っているだけでなく、ヘッジファンドもドルから円やユーロに避難するキャピタルフライトが起こっている。それはアメリカ政府が「第三世界」と同じ扱いになっているからだ、とクルーグマンはいう。

いま問題なのは関税によるインフレだけではなく、アメリカ政府への不信による国債の暴落だ。これは金融政策ではどうにもならないが、おそらくトランプはFRBに国債の買い取りを要求するだろう。

パウエル議長がそれに屈服してドルを大量に発行すると金融不安が拡大し、ドルはさらに下がる。ドル安はトランプの望むところなので、1ドルは130円ぐらいまで下がるのではないか。

消費減税で金融危機を輸入しろと求める国民民主党

こんな状況で、国民民主党は消費税の5%への減税を政府に申し入れた。今は完全雇用で消費者物価上昇率は3.7%、需給ギャップはプラスなので、これは景気対策ではなく間近に迫った参議院選挙対策である。

いま日本が消費税を減税して毎年13兆円も財政赤字を増やしたら、日本国債に海外ファンドの空売りが殺到するだろう。日銀がそれに買い向かうと大量のマネーが市場に出て、インフレが加速する。

そして最大の問題は、日本国債を大量に保有している地方銀行に大きな評価損が出ることだ。1997年の山一証券倒産の後のように取り付けが起こり、全面的な金融危機になる。

あのときは担保が不動産だったから、長信銀がつぶれて100兆円をドブに捨てる程度ですんだが、今度の不良債権は国債である。日本政府は統合政府でみても約700兆円の債務超過だが、国債が消化できるのは政府の信認が強いからだ。

その信認がゆらぐと国債バブルが崩壊し、金利が上がる。国債を日銀が引き受けると大量のマネーが市中に出て、物価と金利がスパイラル状に上がる。インフレが5%になると年26兆円(消費税10%分)のインフレ税がかかり、5%の消費減税なんか吹っ飛んでしまう。

こんな状況で目先の票ほしさに財政赤字を増やせと要求する国民民主党は、アメリカの金融危機を輸入して日本を第三世界に堕落させる減税ポピュリストである。

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