経産省「2040年にGDP980兆円・時給5366円」の皮算用と隠された意図

経済産業省は2040年に向けた産業構造のビジョンを発表し、官民で現在の約2倍の200兆円の設備投資を目指すとしました。200兆円の国内設備投資を前提とした場合、名目GDPは現在の1.6倍、約980兆円に拡大し、名目賃金は年間3.3%のペースで上昇し、2040年には1時間あたり5,366円に達すると見込まれるそうです。

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名目賃金は1時間あたり5366円(現状の約1.9倍)となる見通しですが、実質賃金は28%伸びるとされています。

重点分野としては、省力化やデジタル化(DX)が挙げられており、これにより生産性の向上と賃金の増加を目指しています。特に観光、医療、小売などのサービス業において賃金上昇が期待され、個人消費を下支えするとされています。

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また、これは名目値の試算であるため、実現しても物価も同様に上昇する可能性があり、お米やジュースの価格が大幅に上がることが想定されます。そのため、インフレへの備えが必要になってきます。

GDPや時給の計算は皮算用ですが、2040年までに社会保険料などはさらに増加することは確実です。その頃に年収2000万円なっても可処分所得は意外に少ないのかもしれません。

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また、2040年には住宅問題は解決されているかもしれませんが、そもそもインフラの維持がままなりません。

現状ではエネルギー政策の混乱が見られますが、2040年にはエネルギー問題も完全に決着がついているかもしれません。

一方で、日本は解雇規制の弊害で、時給の「平均」よりも正規/非正規の格差のほうがはるかに大きな問題です。こちらの問題には政治も行政も頬かむりです。

ところで、たった1年前には経済産業省が2040年には「日本が新興国並みになる」との見通しを示しており、今回の楽観的な試算との間に大きなギャップが感じられます。現状維持だとこちらのほうが現実的なシナリオのようです。

最終的に誰も責任を取ろうとせず、責任を負いたくないという風潮がある日本においては、インフレや円安による「リセット」が唯一の解決策となってしまうのかもしれません。

そういう意味では今回の経産省の産業構造ビジョンは「インフレに備えよ」という親切な警告なのかもしれません。