日米関税交渉に(外野から)思うこと:続「マールアラーゴ合意」論

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5月2日のニュースでは、赤澤大臣の対米交渉に関心が集中していたが、加藤・ベッセントの別トラック交渉もある。交渉を二手に分けたことが得になるか損になるか…

気になるのは、赤澤ルートで交渉されている中身が、日本にとっては重たい自動車関税等々であるのに対して、米側にとっては「どうでも良い」とは言わないが、「日本から獲得できないと政権の浮沈に関わる」ような重たいものではないことだ。囲碁に例えると「花見コウ」みたいなもん?

つまり、米側としては、赤澤ルートの交渉だけ見れば、まとまらなくても痛痒を感じないから「ノー」を言い続けることも可能と言えば可能ではないか?赤澤ルートでこれをやられると、日本は苦しむ。

埒が開かないと交渉を首脳レベルに上げる話になる。そこでトランプが登場する訳だが、そこで加藤ルートとの交渉合体が起きる。同時に、それまで赤澤ルートで事務方が積み上げてきた「論点」とかスコープとかは全然お構いなしになる。

昨日加藤大臣は民放TVインタビューで、次のようなやり取りをした(上掲朝日記事参照)。

日本として保有する米国債を「安易に売らない」と発信することが交渉手段としてあり得るか問われ、「カードとしてはあると思う」と話した。一方で「(カードを)切るか切らないかは別の判断」とも述べた。

日本がもつ米国債「(関税交渉の)カードとしてはある」 加藤財務相(2025/5/2 朝日)

「米国債をカードにする」と言っても、ドル離れで軟調が続く米国債市場で「大口保有者として『売らない』と明言する」という助け舟をカードにしたいというニュアンスに聞こえる。

「事と次第によっては、売っぱらうこともできるんだぞ」という言外の脅しでもあると強弁できなくはないが、米側は日本に米国債を売り払う度胸があるなんて、ハナから考えていないだろう。

でも「米国債」はとんでもない譲歩ダマにもなりうるので、僕は以前からこの日米交渉に「米国債」が登場することを危惧してきた。スティーブン・ミラン現CEA委員長が「マールアラーゴ合意」ペーパーでほのめかした、外国政府が保有する短期米国債を超長期米国債、しかも割引債に転換する案が、やり方によっては空前の規模の借金踏み倒しに化ける可能性があるからだ。

「マールアラーゴ合意」の狙いはドル高是正か?
米国がドル高を是正する「第2プラザ合意」に動くのではとの観測が、市場関係者の間で広がっている。 3月24日付けの日経がこう報じている。 ここで「第2プラザ合意」と呼ばれているのは、トランプ政権が策を練っていると噂されている「...

このアイデアは米国でも為替や国債のプロが強く反対する「トンデモ」な中身だが、相互関税だってトンデモな中身だったのだから、トランプが乗らないという保証はない。むしろ、「まず高関税をぶつけて、『下げて欲しければ、この案に同意しろ』と同盟国を説得する、応じなければ、安全保障の傘も提供しない」云々というミラン委員長の書きぶりは、就任以来トランプがやってきたまんまで、「これがタネ本だったか!」という気さえする。

以上のように、予測不能のトランプが相手だと、首脳交渉という最終局面で「そのお化けは出ない」という保証はない。

万一ホントにこのお化けが出てきた時に、国益を守るために日本ができることを考えたのだが、強いて言うと、トランプのゴリ押しを石破総理が応じずに首脳会談が決裂しても、日本で大騒ぎしたり、まして機に乗じて「石破降ろし」の政局にしようとしたりしないことだ。

そこで一致団結、日本が踏ん張れれば、今度は米国内に「相互関税」の成果を売りたいトランプが困って苦しむことになる。「一度くらい首脳会談が決裂してもどうってことない、ゼレンスキーを見習おうぜ」と嘯くことができれば日本に勝機が生まれると思う。


編集部より:この記事は現代中国研究家の津上俊哉氏のnote 2025年5月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は津上俊哉氏のnoteをご覧ください。