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大企業に勤めていても副業が推奨される今、起業に興味を持つ人は増えています。そんな中、常に注目されているのが資格の取得。すでに資格を持っている人はもちろん、資格を取って独立したい人や資格に興味がある人に必読のQ&Aを、経営コンサルタントで士業(特定行政書士)でもある横須賀輝尚氏の著書『資格起業バイブル』から、再構成してお届けします。
不安だから受けないというのは、本末転倒
Q:未経験の仕事は失敗が怖いのであまり受けていませんが、どうすればいいでしょうか?
まだ20代ですが、横須賀先生のように行政書士で開業しています。内容証明や契約書などの仕事はしていますが、建設許可、産廃許可などまだ未経験の仕事が多く、問い合わせがあっても答えられないので敬遠してしまっています。その場合、先輩に仕事をお願いしているのですが、このままではいつ行政書士の仕事ができるようになるかとても不安です。
これは行政書士によくあるパターンです。行政書士の場合は事務所勤務を経て開業というケースが少ないため、ほぼ未経験のまま開業することになるのですが、そうなると未経験の仕事が多く、失敗というリスクを恐れて仕事を敬遠してしまうという悪い流れができてしまいます。
「仕事は欲しい。でも、わからない仕事が来たらどうしよう。だからあまり電話が鳴ってほしくない」というような矛盾に陥ってしまうのです。
もちろん、最初は不安もあるでしょう。しかし、どこかで自分自身の弱い心に終止符を打つ必要があります。自信は経験によってのみ作られます。行政書士で開業した以上は、仕事を受ける以外の選択は基本的にないのです。
私自身も不安の連続でした。わからないことを聞かれたらどうしよう。答えられなかったらどうしよう。相談には即答しなくても問題ないことは前述しましたが、本当に基本的なこともわからずに情けない思いも数え切れないほどしました。
私の場合、社会人経験すらないまま開業してしまったので、行政書士の実務だけでなく社会常識も知らないことがあったので、余計に自己嫌悪に陥りました。
たとえば、笑われるかもしれませんが宅配便の着払いと元払いの違いさえ知らなかったのです。しかし、重要なのは無知である自分を認めることです。行政書士で開業し、成功することを決意したのであれば、どのようなことでも仕事を受け、一つひとつ覚えていけばよいのです。
特に行政書士の仕事は、民事法務の仕事を除けば「答えがある」仕事です。建設業許可でも宅建業許可でも、役所に手引きもあれば、担当者に相談することができます。音楽や絵などの芸術の世界よりはるかに難易度の低い世界です。何も恐れることはないのです。
未経験でも、受けられるような体制をつくっておこう
とはいえ、なかにはイレギュラーな案件や難易度の高い業務もあります。そういった業務は報酬も比較的高く取れますので、こういった案件を受けることは余計にプレッシャーがかかります。そこで、最悪の場合に備えて準備だけはしておく必要があります。
準備とは、仕事をお願いできる同業者を確保しておくことです。特に行政書士は業務範囲が多岐にわたりますので、ひとりですべての業務を行うことは決して易しいことではありません。ですから、各分野に仕事をお願いできる人を探しておくのがよいでしょう。
行政書士であれば、法人設立系、介護系、外国人関連、医療系、民事系、運輸系、建設・産廃・宅建業許可系などの分野に知り合いをつくっておくべきです。
同様に他の資格の場合も考えておきましょう。社会保険労務士の場合は、給与計算などの事務系、就業規則、助成金、労働トラブル、人事コンサルティング系など。税理士の場合は、法人の規模、業種、報酬額が違う事務所などとつながりをつくっておくべきです。
このような体制をつくっておくことで、最悪自分にできそうにないということがわかったとしても、「適任者をご紹介します」という対応が可能になります。このようなリスクヘッジをしておくと自然と自信を持って仕事もできるものです。ぜひこういった体制をつくってください。
戦略的に仕事を受けないことは、将来的に必要になってくる
ところで、創業当初はどのような仕事でも受けるべきですが、徐々に事務所の方針を変えていくこともひとつの経営戦略です。特に行政書士や司法書士などその資格の名称だけで仕事の内容が世間的にあまり認知されていないような資格は、何かひとつ専門に特化したほうがお客様の印象にも残り、営業的にも楽になります。
私の場合は、開業から1年ほど経過した時、あるきっかけで「会社設立」を専門的に扱うようにしました。その結果、業務効率は高まり、紹介は増えていきました。一般の人は「行政書士の仕事をしている人」はいまひとつ理解できなくても、「会社をつくる人」はわかります。こうして仕事を増やしていったのです。
ただ、専門特化したからといって、他の仕事を受けないわけではありません。会社設立の仕事が完了した後、ほかの取り扱い業務も伝え、結果として多様な仕事を受注します。まずは入り口を絞るのです。創業から数年はこのようなスタンスでした。
その後、さらに仕事が増えてきてからは、設立の仕事のみというスタンスに変更し、基本的にはこの仕事のみでやっていくことにしました。結果として仕事は増え、効率も高まっています。
ところで、戦略的に業務方針を絞って成功している事務所は多数あります。しかし、そういった専門的事務所にも盲点があるのです。それは、専門外の仕事が来たときに断ってしまうということです。「絞ったのだから、断るのは当たり前では?」と思われるかもしれませんが、せっかくの問い合わせに対してお断りをすると、声をかけてくださったお客様はとても残念に思います。場合によってはあなたの印象が悪くなることもあるでしょう。
ですから、ただ単に断るのではなく、別の適任者を丁寧に紹介することが必要になります。このように専門外の仕事でも丁寧に接することによって、また仕事が入ってくる可能性が高まります。こうした積み重ねが重要なのです。
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横須賀 輝尚 パワーコンテンツジャパン(株)代表取締役 特定行政書士
1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ1,700人以上が参加。著書に『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、『士業を極める技術』(日本能率協会マネジメントセンター)、他多数。
会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業 | 横須賀輝尚 https://www.amazon.co.jp/dp/B08P53H1C9
公式サイト https://yokosukateruhisa.com/
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2025年3月10日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。