国会は「大きな政治」に取り組め
連日、「令和のコメ騒動」対策に走り回る小泉進次郎・農相の報道が流れています。決意満ちた表情、歯切れのいい語り口に接して「やる気だね」とは感じます。その反面、「コメ」が政治、経済、社会の最大の焦点になっているのをみて、政治はもっと大きな問題にこそ取り組んでほしいと思っています。
日本を含め多くの国は「三重苦」の時代に直面しています。①少子化による人口減、働き手の減少による税収減が招く財政悪化②国防費、社会保障費、環境対策費、反グローバリズムなどによる高コスト、高負担の世紀③選挙がポピュリズムに走り、票稼ぎのために財政が犠牲になり、民主主義の基盤を支えきれるのかという悪循環です。この時代が直面する「三重苦」なのだと思います。

石破首相 首相官邸HPより
国会審議は「コメ騒動、減税、年金」に集中し、政府はトランプ米大統領の高関税対策に走り回っています。ひとつひとつは大切な「政治」です。私が思うのは、もっと「大きな政治」、つまり三重苦にどう取り組むかという政治課題を直視してほしいということです。
参院選を前に、与野党は票集めのためのポピュリズムに走って、政府債務を膨張させようとしています。少子化・人口減が進めば、働き手が減り、納税者が減り、税収減となります。少子化と政府債務の膨張(借金、国債増)は「正反対のベクトル(方向性)」の関係にあり、少子化・人口減に有効な手段がないならば、政府債務を膨張させてはいけないのです。
野党は消費税の減税・縮小を、与党は「コメ対策」の代償に農家・農業に対する巨額の財政措置を検討しているようです。財源を示さず、政策だけ公表し、選挙後に国債などの発行で辻褄を合わせる。結局、少子化世代に国債償還を先送りすることになります。
米国でも、選挙を意識しているトランプ大統領の大規模減税案に対し、盟友だった起業家のイーロン・マスク氏が「米国を破綻させることは許されない」、「債務奴隷の道を一気に突き進んでいる」と激しい言葉を投げつけ、批判しました。米国よりもっと悪い財政状態の日本には、いまだに「財政拡張による経済成長で財政を再建する」という政治家、論者が少なくありません。
GDP比で250%も財政赤字を増やしても、25年度の実質経済成長率は0.5%、26年度は0.7%(日銀)という有様です。実現できそうにない経済見通しを掲げ、財政再建に取り組むポーズだけはとる。そんな虚勢ははらないでほしいのです。
少子化は韓国、中国でも進み、韓国の出生率は日本より低い0.7ですし、中国は一人っ子政策の結末として人口減に向い、高齢化のスピードは日本より速いそうです。社会が成熟していくと、あれこれ手を打っても少子化は止められない国が増えていく。そんな時代に入っているのですから、政府債務の膨張は避けなければなりません。
政府債務の膨張は世界的な傾向です。債務残高は324兆㌦で、そのうち政府債務は92兆㌦です。各国が経済的な行き詰まりを打開するために、財政を膨張させ、債務(借金)が増えているのです。出回ったカネは最終的にはマネー市場に流れ込み、株高、資産高を演出し、政治家にとっては都合のいい状態となります。株価が不調に陥ると、また財政膨張、金融緩和に駆け込み、債務が増え続けるという循環の繰り返しです。
こうした問題に加え、世界全体として「高コスト、高負担」の時代に入り、三重苦に苦しむことになってきました。ウクライナ戦争にみるように、多くの国は軍拡競争に巻き込まれ、国防費が膨張しています。トランプ米大統領は「自国の防衛は自国が負担せよ。米国に頼るな」と、強調しています。各国が高齢化していけば、社会保障費(年金、医療、介護)が増えていくのは必然です。
脱炭素などの地球環境対策は巨額のコストがかかります。グリーンフレーション(環境対策コスト、物価上昇)という新語も生まれています。理想を追うあまり、政府も社会も費用対効果を軽視する流れに乗っています。トランプ氏に見られるような反グローバリゼーション、製造業の国内回帰は高コスト構造を招く。トランプ氏が仕掛ける相殺関税、追加関税も結局は自国や相手国が負担することになります。
こうした問題のツケは、次世代の人たちに回ってきます。次世代の人口構造は少子化です。2024年に生まれた日本の70万人が成人して、社会にでていく時の日本の姿はどうなっているのでしょうか。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2025年6月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。