トランプのウクライナ問題の方針は合理的だ

ニューヨーク・タイムズ(電子版)は、プーチンは、ほぼ制圧しているルハンスク州とドネツク州全域(75%を掌握)を引き渡し、南部では現在の占領地域をもって停戦すること、ロシア語をウクライナで再び公用語とすること、ウクライナでのロシア正教会の安全を保証したら、ウクライナや欧州各国を再び攻撃しないという書面の約束をすると提案したという。

米ロ首脳会談 クレムリンHPより

だいたい妥当で現実的な案であろう。欧米のマスコミは、トランプが目標を停戦から和平に変えたと批判するが、和平の見通しなく停戦することにそもそも意味がありそうもなかったから、一歩前進だ。単純な停戦は私は戦争を長引かせるだけで意味はないと思う。

ロシアに甘いようにも見えるが、そもそも21世紀になってから、ヨーロッパ各国がロシアとウクライナの将来について結局どうしたいのか、私には理解不能だ。最終的な収まりのプランなしにロシアを追い込んだら、どこかで暴発するというのは予想すべきことだし、いまもヨーロッパ諸国が結局なにをしたいのか理解できない。

私が1990年代にソ連崩壊問題の調査をパリでしていたころのフランスの外交官らは、こんなに非現実的ではなかったから不思議だ。その場で正義らしきものを通しても、あとどうしたいのか分からないのでは困る。こういう将来像でかなり長期に安定するというものをめざすべきだ。

NHKは米国の世論は成果に否定的としてワシントン・ポストの評価を紹介していたが、ここで民主党系メディアが評価していないということにどれほど意味があるのか、私は疑問に思う。

私は他の人と少し違う提案をしたい。領土は譲らざるを得ないし、NATOやEU加盟も不可能だが、復興費用をロシアに出してもらいたい。債務保証したものも含めて日本が払うのはまっぴらだ。

ロシアへの経済制裁を解除して、普通に費用を捻出できるようにして、それを原資に復興したら誰も損はしない。最近、マリウポリの復興ぶりをフランスのテレビで報じていたが(日本のテレビは放送しない)、どうせ日本の企業は入れないだろうし、日本が金を出して欧米の企業を儲けさせるのも癪なだけだ。

ロシアの企業がロシアの金でウクライナを復興して、ウクライナの人々の信頼を取り戻せばよいことだ。ウクライナは16世紀ごろからポーランド、ドイツ、スウェーデンの口車に乗ってロシアと戦い、後で後悔してきた。出来の悪いリメイク映画を我々は見ているだけだ。

それでは法的正義がどうとかいう人がいるが、現実的妥当性を欠く目標はいかに法的に正しくとも好ましい結論ではない。

日本の終戦とウクライナを重ねたがる人がいるが、私のみるところ、この戦争の難しさは法的正義と実態的正義がかけ離れていることだ。

いわばNATOやEUに入りたがっているウクライナは、満洲国だ。ロシアの喉元に欧米の衛星国家をつくるのは無理がある。しかし、ロシアの侵攻は盧溝橋事件以降の日本軍の華北派兵と同じく国際法違反。このねじれが事態を複雑化している。

あるいは地上げ事件で言えば、自宅のまわりの土地を買い占められて追い込まれた側が、出口を求めて実力行使に出たようなもの。実力行使は違法だが、えげつない地上げが正当化されるべきでもない。

しょせんは、誰にとっても苦い解決しか存在しない。

追記:ニューヨーク・タイムズに続いてAFPも配信した。ドネツクとルガンスクはロシアに、その他は現状凍結で平和が訪れるのであれば、それでよいのではないか。塘沽停戦協定のようなもので、互いに我慢できるぎりぎりの線だ。このチャンスを逃したら、世界大戦のリスクが高まる。ザポリージャをウクライナに渡すことが、ゼレンスキー大統領の面子を保つための代償となるかもしれない。石破氏は、ゼレンスキー大統領やヨーロッパ首脳に対し、塘沽停戦協定で戦争を止められなかったことを昭和天皇がいかに悔いていたかを説くべきだ。

※塘沽(とうこ/タンクー)停戦協定は、1933年5月31日に日本軍と中国国民党軍の間で締結された、満州事変を終結させるための軍事協定。

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