自民党総裁選の決選投票で高市早苗氏が総裁に選ばれました。4日のYouTubeなどのSNSをみていましたら、小泉進次郎氏の勝利は90%と公言していた「選挙ドットコム」の選挙プロらが「お詫びを申しあげます」と懺悔していました。やはり小泉氏の勝利を確信していた朝日新聞政治記者OBは「大逆転、大波乱です。日本政治史に残る予想外の展開です」と、詫びるどころか「予想外の展開、大波乱」と、他人のせいする人物でした。

高市早苗新総裁 自民党HPより
新聞、テレビのオールドメディアは世論調査の結果をもとに、「自民党議員票は小泉氏にあつまり、小泉総裁の誕生」を色濃く予告していました。要するに総裁選で敗北したのは小泉氏のほか、新聞、テレビ、選挙プロ、さらに世論調査による分析でもあったのです。世論調査がつかみきれない世論の流動化にメディアはどう対応するつもりなのでしょうか。
舞台裏であれこれ動き、高市氏に勝利の決定打をもたらした麻生・最高顧問が「してやったり」と言わんばかりに、笑みをかみ殺していました。日本の政治は裏舞台で決まる。さらに5人の候補も麻生氏らの実力者に頼み込む光景が続き、「自民党の解党的出直し」は虚構だという印象を持ちました。
新聞は「保守回帰が地方からうねり」(朝日)、「党員票が議員を動かす」(日経)との解説記事です。党員、党友票は決選投票前に判明していましたから、この分析は「後講釈」で、事前にそうした予想もしておかなければなりませんでした。
オールドメディア、世論調査の負け
要するに、「初の女性総裁」、「保守回帰というか保守化の進行」をオールドメディア、選挙専門家も予想できなかった。世論の流動化、民意の変化についていけない時代になったようです。欧米各国で進む「右傾化の波」、「極右化」が日本にも押し寄せているということでしょうか。
高市氏の「積極財政」は懸念材料です。高市氏は安倍晋三・元首相の路線継承を訴えてきました。安倍氏は異次元金融緩和・財政膨張政策が成果も出ないのに10年も続け、財政や金融を泥沼状態に落とし込んだ。そこから抜けだすのに何十年、かかるかわかりません。金融史上に残る歴史的失敗です。
高市氏は積極財政派で、「金利を名目経済成長率を上回っていれば、財政は徐々に均衡を回復していく」という政治的には都合のいい財政、金融論の信奉者です。名目成長率を高くするということは、「2、3%のインフレを長期化させる=名目成長率の引き上げ」、「日銀の金融政策を牽制する=低金利の長期化」を意味していると考えます。
日銀が金利を低水準に抑圧してきたのと、外部要因で物価が上がり始め、インフレ状態になり、インフレによる企業の売り上げ増(利益増加)で「金利水準を上回る名目成長率」という現象が起きているのだと思います。しかも税収増(上振れ分)を国債償還(国債減額)に充てず、歳出増に回そうとしています。これではなかなか国債残高は減りません。税収の上振れがいつまで続くのか。それが分からないのに恒久財源にしてはいけない。
海外市場とリンクする国内市場
さらに国内市場は海外市場とリンクしていますから、国内市場だけを見ていてはいけません。日本の金融機関、投資家は日本円が年1%程度の超低金利をしめしめと考えているはずです。円をドルに換えて、米国市場で米国債(年4,5%)を運用して、儲けています。日本で売る金融証券の多くが米国債で運用されています。
つまり日本円が海外市場に流出し、円安となり、輸入物価が上がり、つれて国内物価が上がり、国民生活を圧迫する。日本の低金利がインフレ要因になっている。高市氏らのグループのように、もっぱら国内市場だけをみていると、国民生活が被害者であることが分からない。
さらに高市氏は、「女性の閣僚、議員をどんどん増やす」といいながら、女性天皇は反対で、男系男子による天皇制の維持の論者です。「万世一系の男性天皇」(過去例外的に女性天皇が存在)は伝説、神話の類で、史実ではありません。保守・右翼、国家主義者らが国家の権威付けになると思い込むことにしているのが「万世一系の男性天皇」でしょう。
また、高市氏は総務相の時、免許制のテレビの報道が偏っていたら、放送法に触れ、停波もありうるとの発言をしました。メディアに対する規制は言論の自由を侵害してはならない。トランプ米大統領のメディアに対する介入といい、政治権力者は自らを批判するメディアを目の敵にしており、高市氏がそうならないことを願っています。
編集部より:この記事は中村仁氏のnote(2025年10月5日の記事)を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は中村仁氏のnoteをご覧ください。






