まともな連立の大義は「選挙制度改革」しかない

下野危機まで囁かれた高市早苗総裁の自民党が10/15、こともあろうに「N国」と統一会派を組み、波紋を呼んでいる。N国は政党要件を満たさない政治団体なので、表現は微妙だが、実質的には閣外協力となろう。

自民党、NHK党と参院会派 多数派形成へ取り込み - 日本経済新聞
自民党は15日、政治団体「NHKから国民を守る党」の斉藤健一郎参院議員との参院会派「自民党・無所属の会」を結成したと発表した。同日、参院に届け出た。自民党が少数与党の現状を踏まえた参院での多数派形成の一環で、取り込みを図った形。副党首の斉藤氏はN党のただ一人の国会議員で、どの会派にも属していない。2024年10月の臨時...

なんとも情けない “連立もどき” だが、数合わせだけを考えれば合理的な行動である。公明党の与党離脱後、連立の組み換えをめぐり台風の目だった国民民主党の榛葉幹事長は、前日にこう語った。

国民・榛葉幹事長「共産党やれいわ新選組が入って安定した政権になる? その神輿に玉木乗れっていうの?」自・国の幹事長会談後にコメント | 政治 | ABEMA TIMES | アベマタイムズ
14日午後、国民民主党の榛葉賀津也幹事長が自民党の鈴木俊一幹事長と会談し、終了後に取材に応じた。 記者から「国民民主党は首班指名に玉木代表の名前書く方針だが、鈴木幹事長と会談してその考えに影響はあったか?」と聞かれた榛葉幹事長は以下のように…

「皆さんは衆議院の数ばかり見ているが、参議院は自民党=101議席〔ママ〕、野党第1党は50議席もない。……では共産党やれいわ新選組が入ってくるのか? 安定した政権になるか? その神輿に玉木乗れっていうの?」

2025.10.14(強調を付与)

そうなのだ。以下は参議院の公式サイトから採ったが、過半数が125なのに対し、自民党(とN国)だけで101。もし “非自民” の枠組みで過半数を狙うとなると、参院では、ほぼ全野党連立でないと不可能になってしまう。

逆にいうと、自民党とN国(しつこい)にとっては、公明に代えて維新と連立した場合、参院の過半数までは残り5議席。各派に属しない議員のうち野党色の薄い人と、日本保守党の有名なお二人を足せば、ギリ届く。

もし実現すれば、待望の “ネ申連立” だと狂喜する人も一定数いるだろうが、みんながそうではないだろう。次の選挙を、その面子の「ウヨウヨ」路線で勝ち抜けるかも、微妙すぎる。

参院で自民党が「過半数ちょい下」の規模をキープするかぎり、連立の自由度はあまり上がらない。自民党が左右で半々に割れてくれれば、組み合わせは増えるし、そうなりかけた時代もあったが、いまは難しそうだ。

公明党の連立離脱をどう見るか: プレイバックする1970年代|與那覇潤の論説Bistro
ご存じのとおり10/10、公明党の斉藤鉄夫代表は自民党の高市早苗・新総裁との会談後に「連立離脱」を発表した。 興味深いのは、外野の多くが高市氏と公明党とで溝になると見ていた、靖国神社参拝などのいわゆる "右傾化" ではなく、「政治とカネへの対策」が離脱の決定打になったことだ。 【速報】公明党が自民党との連立離...

もし、単なる数合わせでない新連立があり得るなら、衆参にわたる “選挙制度の大改訂” をめざす場合のみではないか。改革の実現後は速やかに、衆院を解散し(新制度で)リセットする、ミッション型の時限政権として。

1994年に非自民連立政権の下で、衆議院に導入された小選挙区比例代表並立制は、日本の二大政党化をめざしたものだった。だが30年が経ったいまは、むしろ「多党化」が進んでおり、主要政党が二つに収斂する芽はない。

令和に「二大政党制」はなぜ終焉したのか|與那覇潤の論説Bistro
参院選後の「日本はどうなる?」でも蚊帳の外で、もう誰も相手にしない立憲民主党だが、『平成史』の著者として、小沢一郎氏の発言は心にしみた。将来、令和史を描く歴史家は、時代の象徴として必ず引用するだろう。 立憲・小沢氏「次の衆院選で全滅しかねない。執行部に大いなる責任」:朝日新聞 ■立憲民主党・小沢一郎衆院議員...

今回の「自公決裂」を、こうしたミスマッチを修正する好機にしてはどうか。現行の制度のままでは、次回から小選挙区で創価学会の票を失い、戦略の抜本見直しが必須の自民党にとっても、悪い話ではないと思う。

以下は自民党に厳しめの試算だが、記事を読むとこれでも「公明票は……他の政党にも流れないことを前提」とした数字だ。ふつうに考えて、実際には野党候補に流れるだろうから、どこまでいくか想像もつかない。

【4割減】公明党の連立離脱で“最大”50選挙区でさらに自民が敗北? 去年の衆院選のデータから日本テレビが試算(2025年10月14日掲載)|日テレNEWS NNN
公明党が連立政権からの離脱を決定、斉藤代表は「選挙協力は白紙」と明言した。長年にわたって、公明党と選挙協力を行ってきた自民党だが、選挙協力がなかった場合、選挙戦にどんな影響が出るのか。日本テレビは、独自に去年の衆院選のデータから試算した。

結果、自民党が〔2024年に〕小選挙区で勝った132選挙区のうち、最大50選挙区で敗北する可能性があることがわかった。これは自民党の小選挙区当選者の約4割にあたる数字で、比例代表での獲得議席などを考慮すると総獲得議席はさらに減ることが予想される。

日本テレビ、2025.10.14

そして、ここからが本当に書きたいことなのだが、実は平成に多党制を捨てて二大政党化をめざしたのは、連立にともなうハプニングだった。歴史の必然とか、そういうものじゃなかったのだ。

平成のことならなんでも書いてる本に、いわく――

平成育ちによるはじめての決定版平成史『平成史―昨日の世界のすべて』與那覇潤 | 単行本 - 文藝春秋
平成育ちによるはじめての決定版平成史 『知性は死なない』『中国化する日本』で知られる歴史学者による、小泉純一郎から安室奈美恵まで網羅した30年間の見取り図。『平成史―昨日の世界のすべて』與那覇潤

細川・香山・佐藤らが55年体制への代替案としたのは「穏健な多党制」でした。

つまり細川政権下で、むしろ党執行部が公認権を握る「集権的な二大政党制」と相性のよい小選挙区制(=当選者が1名のみの、直接対決)が導入されたとき、実は180度逆の方向へのビジョンのすり替えが起きていたのです。
(中 略)
宮澤喜一政権下で政治改革が議論された第126回国会では、単純小選挙区制をもちだした自民党に対し、社会党・公明党が〔小選挙区と比例代表の〕併用制を共同提案して対抗しています。

宮澤内閣不信任案が(小沢氏らの造反により)可決した後の93年総選挙でも、小選挙区と比例代表の並立制を公約として明記する政党は限られていました。

81・83-4頁(段落を改変)

1993年に最初の非自民連立を率いた、日本新党の細川護熙氏の持論は、中選挙区制の連記化(複数の候補に投票できる)による多党化の促進。解散前に有力野党が掲げていたのも、比例代表をベースに連立を組み換えながら運用する、ドイツ型の併用制だった。

それを覆したのは誰か。首班を細川氏に譲って “非自民” をまとめ、剛腕と呼ばれた小沢一郎氏である。当時ベストセラーとなった彼の『日本改造計画』には、ずばりこうある。

日本改造計画 - Wikipedia

急激な変化を避け、小選挙区制の欠点を補う意味で、比例代表制的な要素を加味した小選挙区比例代表並立制の採用を考慮してもいいだろう。
(中 略)
しかし、比例代表制に小選挙区制を「併用」するという案には必ずしも賛成できない。何よりも、その案の基本は比例代表制であり、現行の比例代表制的な中選挙区制の原理をそのまま引きずっているからだ。

70-1頁

この小沢ビジョンが、細川擁立を決めた彼の剛腕が連立を主導する中で、政権の方針となり実現していった。にもかかわらず、ふたたび多党制に戻ってしまったいま、”ボタンの掛け違い” を直してみるのもいいと思う。

先の自民党総裁選で3位だった林芳正氏も、かねてから選挙制度の見直し論者として知られる。高市氏が彼を他党との調整役に「要職起用」すれば、連立するかとは別に、共産やれいわまでの全党が窓口に並ぶのは確実だ。

林氏、中選挙区制の再導入を公約に 「連立組みやすく」 自民総裁選 | 毎日新聞
 林芳正官房長官(64)は18日、国会内で記者会見し、石破茂首相(自民党総裁)の退陣表明に伴う党総裁選(22日告示、10月4日投開票)への立候補を正式に表明した。現行の衆院小選挙区制度の見直しが必要だと訴え、公約に「中選挙区制度の再導入」を盛り込んだ。

ころころ変わる報道では、昨日からは副首都なるものを “大義” とした「自維連立」が本命のようだが、大阪府民以外には意味がわからない。地元で維新と争ってきた自民党大阪府連には、もっとイミフで泣きたいだろう。

なにより結果として(国政上の)維新が自民党に吸収され、消滅するリスクは代表者が認めている。せっかくの多党化の政局を、歴史に残る転機に活かすには、組み合わせを問わず “選挙改革連立” の他はないように思う。

【速報】維新・吉村代表 自民との連立で「党が消滅するリスクある」も「構造改革のため挑戦すべき」(2025年10月16日掲載)|YTV NEWS NNN
 日本維新の会の吉村洋文代表は、16日正午すぎ取材に応じ、自民党との政策協議を前に「まずは政策協議で合意ができるのかが重要だ。その先のことは,、合意がまとまれば首班指名で高市総裁の名前を書き、連立をどうするのかも判断する」と語りました。
維新・藤田共同代表 街頭演説で熱弁「消え去ってもいい」「自民党の至らないところを叩き直す」 | 東スポWEB
日本維新の会の藤田文武共同代表が16日、JR新橋駅のSL広場前で街頭演説を行った...

参考記事:

自民党総裁選につき、ぼくも『正論』で組閣してみました。|與那覇潤の論説Bistro
10/4に迫る自民党総裁選ですが、今日発売の『正論』11月号の特集は「私が考える "救国" 内閣」。企画が立った際は、石破茂首相の進退は未定だったはずですが、ピッタリの刊行となりました。 月刊正論11月号  ❝救国❞内閣 識者39人が考える! - 月刊正論オンライン 自民党総裁選の投開票日が近づき、世の中で...
ふたたびの「真空総理」が、分断の時代を救うのかもしれない。|與那覇潤の論説Bistro
歴史の流れを正しく見通すのは、難しい。 いま「二大政党制」がなぜ振るわないか、という記事を先月書いたが、若い人はそんなのそもそもあったんすか? と感じただろう。長い安倍晋三時代(2012-20)のあいだ、自民党に対抗できる規模の野党など、想像もできなかったからだ。 だけど平成のなかばまでは、「日本の二大政党化」こそ...

(ヘッダーは、10/15のABEMA Newsより)


編集部より:この記事は與那覇潤氏のnote 2025年10月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は與那覇潤氏のnoteをご覧ください。