地球儀ベースで見る世界の関係と立ち位置は時代と共に大きく変遷していくのですが、トランプ2.0でその関係地図は更に変わったと考えています。アメリカ=トランプ氏と考えたくないのですが、一定の経済的効果をもたらす氏の政策に文句を言うアメリカ人の声はかき消されています。
ギャラップ社によるアメリカ人が共和党と民主党、どちら寄りかという世論調査を歴史的に見るとリーマンショック前後の2006-08年が転換期になっています。その頃は共和党派が40%に対して民主党派は50-52%と圧倒的に民主党時代でありました。その後、今日に至るまで毎年少しずつながらも確実に民主党から共和党支持に変わっていきます。2024年時点では共和党が46%、民主党が45%となり、逆転をも許しているのです。多分、2025年度調査がこれに加わればこの傾向は更に拍車がかかっていることでしょう。
リーマンショックから今日までに何が起きたのでしょうか?その間の世論形成はもちろんトランプ氏が理由ではありません。彼は大きな地盤変動の中で踊る役者の一人でしかないのです。この15年程度の間にアメリカ社会、いや世界が経験した圧倒的変化とは何でしょうか?
複合理由であることは間違いありません。欧米では移民問題に大きな焦点が当たりました。人の移動の自由が必ずしも自国に良い結果をもたらすとは限らないと考えるようになりました。経済はK字経済で格差が歴然となり、労働者は虚無感を抱え、FIRE(経済的自立を伴う早期リタイア)を求める人も増えています。宗教心よりカネ。社会における人と人の結びつきは薄弱になり、助け合うという思想は「金にならない、意味がない、時間の無駄」という態度で切り捨てられます。そしてアメリカを含む多くの人たちはより個人主義で保守的になってしまったことが最大の変化ではないかと思います。
個人主義が促進された理由はいくらでもあります。サプライチェーンの発展でおひとり様でも生きていける様々なインフラの整備、株価の継続的な上昇で資産形成がしやすかった過去15年もあります。情報は昔は人づてに聞いたりしたことも多かったのですが、今やSNSに変わり、情報ソースそのものも大きく変貌しました。その間に襲ったコロナは個人主義をさらに助長したとも言えます。これらは民主、つまり「民衆が主体」という理念からは距離を置き、「個主=個人主義」となり、自分のメリットにより重きを置く時代になったとも言えないでしょうか?トランプ氏はたまたまそれを加速度的に推し進めているだけですが、世論の支持は得やすいとも言えます。
日本でも同じ理論である程度説明できると思います。過去17-8年のうち、安倍政権が保守政治の基盤と方向性を作り上げるも岸田、石破政権は一応、もう少し真ん中に引き戻そうとします。が、近年、新興政党が増え、目立つのは右派的政党。理由は当然、支持されるからであります。そんな中、先の政局では公明党という連立政権のブレーキ役が自ら「やーめた」と責任与党を放棄した時点で霧が晴れた状態となり、高市氏にとってはやりやすくなり、世論も狂喜乱舞したのです。後年、公明党の斉藤代表の判断が日本を変えたと言われるかもしれません。

日米首脳会談でのトランプ大統領と高市首相 首相官邸HPより
では世界の枠組みで見るとどうでしょうか?以前にも述べたと思いますが、国家レベルの個人主義、ミーイズムが進むと思想や伝統、それまでの枠組みを超えた連携が出来る可能性が出てくるとみています。言い換えると国家間の連携は主義主張よりも経済など明白なるメリットをもたらすかがより外交の主軸になる可能性があるのではないでしょうか?
トランプ外交はアメリカが儲かるか、これが判断における重要なポイントであり、儲かるとなればロシアでも中国でも手を結ぶことはあり得ます。ウクライナ支援をするのはウクライナへの武器供与を欧州経由で行うことで確実に代金をを払ってもらえる「武器商人」となるからであり、仮に欧州が買い手として介在しなければまたロシアとディールすると言いかねない気がします。
カナダのように正論でアメリカを説き伏せようとすれば跳ね返されてディール不調となります。もともとカナダ人はアメリカを好いている訳ではなく、経済的便益や地政学的利益を共有していた関係です。ところがトランプ氏の「51番目の州発言」はカナダ人の琴線に触れたわけです。よってカナダ人の正論が圧力となる中、首相をはじめ、政権や政治家ですら容易にトランプ氏とディールできない状態になったともいえます。一部から聞こえるカナダの交渉負けというシンプルなものではないと思います。
今般、カナダは中国とディール復活となるきっかけを作りましたが、カナダと中国が再度、接近する可能性はあり、アメリカとの伝統的関係がより希薄になりかねません。
世界の枠組みはかつては西側諸国とか東欧とか、新興国…といったグルーピングをしようとしました。あるいは民主主義と権威主義という仕切りもあるし、宗教的な色彩が強い中東や旧ソ連邦からの独立国という切り口もあります。今後はこれらの既存のグルーピングがより複雑になり、誰と手を組んだらよいのか、ゼロから見直す機運すら出てくる国もあるかもしれません。
日本の外交も伝統的外交だけではなく、新たな関係構築という動きも出てくるかもしれませんね。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年11月5日の記事より転載させていただきました。






