右派右翼・リフレ派・経産省の三派連合が後押しする高市政権の危うい将来

高市政権はアベノミクスの継承者、安倍政権の継承者だそうです。経済財政政策ばかりでなく、安全保障政策、政治思想も継承しているようです。高市政治を骨組みを分析してみると、「三派連合」なるものでなり立っているように思います。

高市首相 首相官邸HPより

「三派連合」とは、①右寄りの思想的ネットワーク②アベノミクスで失権したリフレ派(拡張的な財政政策、超緩和的な金融政策の失敗)の逆襲③アイディア倒れが多く「千三つ官庁(1000うち3つしか実現しない)」と言われる経産省の三派です。

経産省グループは別として、全体としてみると、高市政権は「テクノクラート」(政治、経済、行政において専門的知識に基づいた意思決定をする集団)ではないでしょう。すでにいくつかの誤りを冒しています。

国会審議で高市氏は「台湾有事は日本の存立危機事態で、台湾の海上封鎖を解くために米軍が来援すれば、何らかの武力行使がありうる」と発言しました。日本が直接攻撃されていなくても、密接な関係にある他国への攻撃が日本の存立を脅かしたと判断され、日本も軍事出動する。

実態はその通りであっても、外交にははっきり発言していいことと、相手国(中国)を刺激しないために曖昧にしておくことの区別が必要です。先の米中首脳会談では、ずけずけ発言するトランプ米大統領も、台湾有事問題などでは、曖昧戦略に徹し、なにも触れませんでした。

高市氏は発言後、そのことを誰かに指摘されて、「具体的な事態に言及したのは反省点だ」と述べています。「存立危機事態」にまで言及していいかどうかの問題は、外交のイロハです。高市氏の政治的信条のほか、右寄りの思想的ネットワークがついていて、彼ら向けに発言したのかもしれません。

外交上の失言は取り消せない

長く外交交渉の現場にいた田中均・元外務審議官は「国会答弁の事前準備の段階で、外務省や首相官邸がOKを出したとは考えられない。台湾問題を米中首脳会談で触れなかったことは忘れてはならない」と指摘しています。つまり高市発言は本音あり、右寄りネットワーク向けだったのではないか。

それと読売、日経などの社説は「安全保障で政局をもてあそぶな」と、野党をけん制しています。田中均氏は「外交上の発言は、後で修正、取り消しても取り消しできない。後々、尾を引く。そこが国内問題と違う」とも述べています。全国紙の社説なのですから、その一点は触れなければならない。

失権したリフレ派、安倍派の逆襲

「三派連合」のもう一つは、安倍・元首相亡き後、冷や飯を食っていたリフレ派の逆襲です。経済政策諮問会議のメンバーに若田部昌澄・早大教授、永浜利広氏(第一生命経済研究所)らが入っています。

若田部氏は安倍政権当時に日銀副総裁(2018年ー2023年)を務め、異常すぎる異次元金融緩和策を主導した責任者の一人です。日銀の国債保有(500兆円超)は膨大になり、植田総裁はその「出口の入り口」にたどりついたものの、なかなか先に進めない、金融正常化に何十年もかかる。

さらに日銀は24年12月の異次元金融緩和策の検証を発表し、「想定していたほどの効果を発揮できなかった」、「大規模かつ長期間にわたって継続する場合は副作用がもたらされる」、「財政規律の低下、金利機能の低下、円安の進行(インフレ要因)などで苦しむ」などの総括をしています。要するに自省を込めて「アベノミクスは失敗だった」と言っているのです。

それにも関わらず、高市氏は、経済学者として失格したはずのリフレ派を経済諮問会議の委員に起用しました。さらにアベノミクスのデフレ脱却に対し、高市氏の目標はインフレ対策で、課題は同じではない。日銀による異次元緩和策の検証を読み直したほうがいい。その評価を考えたうえで、アベノミクスの継承とは何かを説明しなければならない。

高市氏はアベノミクスの継承者というより、安倍派の継承者という「称号」こそが欲しかったのかもしれません。

恐らく高市氏はデフレ脱却の後も、高めのインフレが継続することを願うインフレ促進論者なのでしょう。2%インフレが3年も続き、円安で輸入物価が上がっています。高市氏の「責任ある積極財政」は物価上昇を刺激し、インフレ定着を目指す。円安による通貨価値の低下も招きかねません。

そのことを承知しているのだろうと、私は考えます。少数与党に転落し、増税はできないため、インフレによる歳入増・税収増を目指し、財政拡張を続ける。インフレで苦しむのは国民です。国民の犠牲と同義語である「インフレ税」を続け、積極財政を実施する。

財政健全化目標として、新たに「債務残高のGDP比の低下」を尺度にするようです。そのためには、インフレ定着による名目成長率の引き上げ(GDPの増大)、日銀による低金利政策の継続が必要です。

植田総裁は「利上げで円安を食い止めたい」と考えているはずなのに、財政に与える影響(利払い費の増加など)を懸念し、「無理はできない」と観念しているし、首相から圧力がかかってくることを知っている。

経産省はアイディア倒れの「千三つ官庁」

「三派連合」の取りまとめ役は「千三つ官庁」の経産省です。アイディアは1000も出しても、いくつも実現しない。首相の筆頭秘書官は飯田裕二・元事務次官です。高市首相は成長戦略会議を設け、17もの戦略分野を定め大胆な投資を行うとしました。17もの戦略分野の設定は経産省が最も得意とする手法です。17という数は多すぎるし、優先順次もついていません。

しかも、「大胆な投資」の財源はどうするのか。民間がだすのか、政府がだすのかが曖昧です。各閣僚に一つづつ戦略分野を割り振るというのもどうかしています。会議を設けたなら、経産省が全体を束ねて、投資を調整していくというのが常識的なやり方です。風呂敷の広げすぎです。

そのほか対米投資も80兆円という巨額です。トランプ氏の要請に応じた金額で、実施すれば日本産業の空洞化が進むし、円安も加速する。さらに17の戦略分野の資金はどこから捻出するのでしょうか。


編集部より:この記事は中村仁氏のnote(2025年11月14日の記事)を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は中村仁氏のnoteをご覧ください。