黒坂岳央です。
長らく続いてきた「持ち家 vs 賃貸」論争。
「多額のローンを背負う持ち家はリスク」
「震災などで家の損壊するかも」
「離婚や転勤を考えると身軽な賃貸一択」
こうした意見をよく見る。そして自分自身がずっとこの考えを持っていて、会社員の頃はずっと賃貸を貫いていた。だが、近年の市場変化でこの意見の風向きも変化したと感じる。
今後も長期マクロトレンドでインフレ懸念が燻り続ける令和の日本において、旧来の賃貸派の論理を信じ続けることは、資産防衛の観点からリスクが高まっているように思える。
結論として「あくまで経済的合理性の観点で見れば、買える人は買うべき」というのが現在の考えだ。筆者は直近で家の購入をし、多面的に調べこんだことで本原稿で取り上げる結論に至った。筆者は不動産屋ではないので、フラットな立場で論じたい。

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自宅不動産投資の強み
なぜ、居住用不動産(持ち家)が最強の投資なのか。市場のバグとも言える「2つの優位性」が存在するからだ。
1つ目は金利の歪み(アービトラージ)だ。 昨今、日銀の政策変更により「変動金利の上昇トレンド」が指摘されている。実際、かつてのような一律低金利ではなく、現在は属性や銀行によって0.3%台〜0.7%台以上と幅が出てきている。 しかし、冷静に数字を比較してほしい。
S&P500や全世界株式などのインデックス投資による期待リターンが年率4〜7%であるのに対し、変動金利は上昇基調にあるといっても、まだ1%未満の水準で借りられるケースが多い。 つまり、「借りた金利」と「運用の期待リターン」の間には、依然として「利回り差(スプレッド)」が存在する。このアービトラージを利用できるのは、個人の住宅ローン特有のメリットだ。
2つ目は税金の歪みだ。投資で得た利益には通常約20%の税金がかかる。しかし、自宅(居住用財産)の売却益には「3,000万円の特別控除」が適用される。 もちろん、「自らが居住していたこと」「前年・前々年にこの特例を受けていないこと」「親子間の売買でないこと」などの適用要件はあるが、これらを満たせば売却益が3,000万円まで税金はゼロになる。国が用意したこの合法的なボーナスステージを使わない手はない。
これらを総合すると、「良い場所に、良い条件で住む」。ただそれだけで、実はプロの不動産投資家よりも、遥かに有利なポジションを取れていることになる。
住宅ローンとは「円の空売り」である
「借金=悪」という感情論もまた、デフレ時代の遺物だ。今の時代、住宅ローンという借金の強みは大きい。
金融的なメタファー(比喩)として言えば、1億円を変動金利で借りてマンションを買うことは、「1億円分の日本円をショート(空売り)し、1億円分の実物資産をロング(買い持ち)した」状態に近い。
今後、インフレが進み日本円の価値が下がれば、 借金(日本円)の実質的な負担価値は希薄化し、相対的にモノ(不動産)の価格は上昇する。つまり、借金をしているだけで資産が増える構図になる。これがインフレに対する順張りだ。
もちろん、未来は不確実であり、「円高・デフレ」に揺り戻す可能性や、不動産市況が調整局面に入るリスクもゼロではない。だが、日本の巨額な財政赤字を考慮すれば、米国のような急激な利上げ(5%超など)が行われるハードルは高く、長期的には低金利環境が続く蓋然性は高いと見るのが合理的だろう。
金利上昇にも対策が可能
「今後、金利が上がったら変動金利の人は破綻するのでは?」という懸念があるだろう。 確かに、手元の現金をすべて頭金に突っ込み、カツカツの状態でローンを組めばそうなる。
理想的なバランスシートは、例えば「1億円の借金(持ち家)」に対し、手元に株や債券などの金融資産を温存している状態だ。可能な限り頭金を抑え、手元のキャッシュを厚くするフルローン戦略が有効になる。
万が一、金利が急騰したなら、手元の流動資産を取り崩して繰り上げ返済すればいい。 「金利上昇時には株価や債券価格も下落しているのでは?」という指摘もあるだろう。確かにそのリスクはある。
しかし、「資産価値が目減りしても、売却して返済に充てられる選択肢がある状態」と「そもそも返す原資がない状態」では、生存確率は雲泥の差だ。 この「いつでも返せるが、あえて返さない(運用して差益を取る)」というオプションを持っていることこそが、最大のリスクヘッジとなる。
災害リスクと「命のコスト」
最後に、「日本は災害大国だから持ち家はリスクだ」という意見について。 これは「経済合理性」と「生存コスト」を混同している。
もし災害リスクを懸念するなら、ハザードマップを精査し、液状化リスクの低い地盤の強固なエリアにある堅牢なマンションを選べばいい。これらは古い木造賃貸よりも遥かに耐震性・耐久性に優れ、生存確率を高める。
もちろん、水害や広域被災など、構造だけでは防げないリスクもある。しかし、「いつか壊れるかもしれないから」と、安価で構造の弱いアパートに住み続けることは、資産以前に自らの「命(人的資本)」をリスクに晒していることにならないだろうか。
◇
令和の時代において、家を買うという行為は、単なるマイホームの購入ではない。インフレリスクをヘッジし、国の優遇税制をフル活用するための「金融ポジション」を取る行為である。
ただし、全ての持ち家を推奨するわけではない。 駅から遠い、管理状態が悪い、供給過多のエリアにあるような「中途半端な物件」は、流動性が低く、将来的に負債化するリスクが高い。 だからこそ、少し背伸びをしてでも、資産価値が落ちにくい一等地の物件を選ぶ必要がある。「良い家に住み、賢く借りて、時期が来たら売る」。この動的な戦略こそが、不確実な時代を生き抜くための最適解である。
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