増収と聞けばこの会社は成長しているのだな、と考えがちですが、必ずしもそうではないことをお話しします。
わかりやすく私のような不動産を生業とした会社のケースでお話ししましょう。仮に年間売り上げが1億円、利益が3000万円あったとします。物価高なので家賃を4%ほど値上げすると翌年の売り上げは単純計算で1億400万円です。一方、コストはいくら物価高とはいえ上がるもの、上がらないものがあるので実質2%の上昇で140万円(コスト7000万円x2%)の上昇だったとします。すると利益は3260万円になり、前年比8.7%の増益になります。毎年、これを繰り返していくと利益率がどんどん上昇し、極めて優良な会社になります。しかし、仮に上場していても株価はインフレ分程度しか上がらないでしょう。
今、日本の多くの会社は儲かっているはずです。理由はインフレになったからです。どこの企業も販売価格を引き上げています。当然、売り上げは爆上がりするケースも出てきます。一方、コストは上述のようにインフレ率と同じだけ上がるわけではないのです。ここが肝。すると「いいねぇ、この会社は」と思うのが普通だと思いますが、私は「そうかなあ」と思うのです。だってこの会社は何も努力していないのです。新たな売り上げの切り口を作ったわけでもないのです。天から利益が降って来ただけ。これを株主は評価しないのです。
今、輸出関連企業は確かに潤っています。円安だからです。しかし、円が安くて上げ底状態の企業利益はプロの投資家には見透かされているのです。そんなの本物じゃないって。少し前の日経に「増益サプライズ、株高生まず 円安だけで買えないトヨタ」とあります。この記事ではトヨタ株が上がらない理由を紐解いています。基本的な考え方は私が上に記載した内容と同じで、トヨタのような輸出関連会社の場合、円安が引き上げる利益水準は株主から見れば「真の利益ではない」というわけです。

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私は円安は果たして本当に日本のためになるのか、という疑問をこのブログを書き始めてからずっと言い続けていることです。国力という点では円安より円高がベターです。だけど、企業の甘い汁という点では円安の方がおいしいわけです。それこそ「私たち、輸出競争力がないし、商品の魅力もそんなにないから円安にして輸出ドライブをかけて頂くと嬉しいです」ってなもの。でもこれでは1950年代、60年代と何ら変わりがないのです。日本は60年間も70年間も成長していないんかい?という話です。
もちろん、我々がよく知る大企業は海外でめちゃくちゃ頑張っています。しかし、それはごく一部なんです。300万社ある中小企業にとって海外でモノを売るなんてあまりにも遠い夢のような話なのです。
先日もある日本の卸売業の方が私の会社を通じてあるモノを売ってほしいと依頼されました。確かに私どもは日本に輸出会社があるし、輸入プロセスは出来る限りほとんど直接的にハンドルできるうえに、面倒な貿易決済もないのです。なので小口の商品は輸出しやすいのです。
しかし、私が接点を持ったケースではたいがいの日本の企業は自社製品に大いなる自信を持っているのに、誰にどうアプローチしたらよいかわからない上に現地の人から見るとそれが言うほど価値あるかどうかは全く別次元なのです。
当地に日本の商品をベースにした百均があります。(価格は2-300円です。)商品構成を見ていてこれ、マジで売れると思って輸入したの?と思うようなものが豊富に揃っているのです。風呂のイス、「猛犬注意」の看板、ハエ叩き、手ぬぐい…。ハッキリ言って爆笑もの商品のオンパレード。客は入っています。だけどまるで物珍しさも手伝って見に来ているという感じで売れているように見えるのですが、廃棄ロスがものすごいことになっていると想像します。そして今、当地のある百均が廃業しようとしています。売り上げが立っても利益が全然でない典型的ケースなのでしょう。
お前のところは書籍卸売業をやっているな、と言われます。表向きは書店。だけど私どもが売っているのは「選書能力」と「顧客へ注文した書籍をスムーズに引き渡す」というなかばロジ的なサービスです。それがたまたま書籍なのです。つまり本はビジネスの媒介であって売っているのは能力なのです。ここが私のユニークビジネスの着想なのです。
以前、当地に典型的な日本の書店がありました。200㎡ぐらいの店舗にぎっしり書籍があったのですが、売れていませんでした。私も立ち読みする程度。あまりにも売れないのでビデオやDVDのレンタルをやって凌いでいましたが店を畳みました。そりゃそうです。海外書籍は実質返本できないのです。逆立ちしたって儲かるわけないのです。私のところのトロントの書店にはいわゆる日本の文庫や単行本は申し訳程度にしか置いていません。書籍の好みは千差万別で多少在庫を抱えたぐらいでは売れないからです。基本は顧客からの注文を受けて取次ぎをする「在庫なし型書店」なのです。
会社の成長とは今までやっていなかったことをやる、失敗を恐れず試行錯誤をする、そしてそのうち一つでも二つでも花が咲けばそれが成長というものなのです。日本はアジアで最も先行して経済発展を遂げたので一定の売り上げや利益を確保できており、規模的に好位置にあるも、そこからずっと同じビジネスを繰り返してきても現在に至る会社が多いのです。パナソニックなんてその典型だと思います。
自動車会社も海外進出をして販売先を増やして増収となっていますが、同じビジネスの枠組みからなかなか出られません。その中でホンダが二輪から飛行機まで事業を維持しているのは立派だと思います。トヨタはレクサスブランドでクルーザーを出していてこれも面白いと思いますが、まだ存在感が薄すぎて花が咲いた感じはしません。
世の中の変化が激しいということは今までの収益構造が大きく変わる可能性があるのです。その変化があった時の対応という意味ではコアになるビジネスを2,3育てていくことが大事だと思うし、それが成長につながるのではないでしょうか?インフレ円安で増収増益で喜んでいるのは社長さんだけだと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年12月19日の記事より転載させていただきました。






