独ブランデンブルク州の州都ポツダム市にある美術館でパレスチナのスカーフを巻いたアンネ・フランクの肖像画が展示され、論争を巻き起こしている。美術館側は「芸術の自由」を主張する一方、ユダヤ人コミュニティは憤慨している。

アンネ・フランク(1942年) Wikipediaより
ユダヤ人の少女アンネ・フランク(1929年~1945年)は第2次世界大戦中、2年間余り隠れ家に住み、そこで書き綴った日記「アンネの日記」が世界的に有名になったことで知られている。アンネは1945年、ナチス軍に発見され、ベルゲン・ベルゼン強制収容所で亡くなった。
イタリア人アーティスト、コスタンティーノ・チエルヴォによる展覧会「COMUNE―中東紛争における相似性のパラドックス」は来年2月1日まで開かれているが、私立美術館とポツダム市のユダヤ人コミュニティの間で数週間にわたり「アンネ・フランクの肖像画」で対立が続いてきた。
ポツダムの展覧会では、アンネ・フランクはパレスチナのスカーフであるクーフィーヤを身に着け、板に文字を書いている姿で描かれている。ベルリン在住で物議を醸す作品で知られるチエルヴォ氏は「この作品を通してジェノサイドの問題に言及しようとしている」と説明し、「紛争や、一見異なる文化を結びつける共通点について、批判的な考察を促すことをテーマとしている」という。
(パレスチナのクーフィーヤ(Keffiyeh)とは、パレスチナの文化とアイデンティティ、そして抵抗の象徴として知られる伝統的な白黒のスカーフ)
駐独イスラエル大使館は、パレスチナのスカーフを巻いたアンネ・フランクの肖像画を「イスラエルの正当性を否定し、ホロコーストを相対化する」と非難し、「少女アンネの記憶を冒涜し、反ユダヤ主義的行動だ」と指摘。美術館側は「単に芸術の自由を行使したものに過ぎない」と主張し、ユダヤ人団体が要求する肖像画の撤去を拒否してきた。
ポツダム検察庁は現在、刑事告発を受けて捜査を行っている。独イスラエル協会のフォルカー・ベック会長は「展覧会の主催者がホロコーストを矮小化している」と非難すると、美術館側は、「刑事告発は私たちとアーティストを脅迫する試みだ」と逆に攻撃している。
ユダヤ人団体の批判を受け、美術館側は11月末、アンネ・フランクの肖像画の横に声明を掲載し、「ホロコーストの犠牲者である彼女の記憶は、ショア(ホロコースト)の記憶を象徴するだけでなく、暴力への非難の普遍的な象徴だ」と明記している。
それに対して、イスラエル大使館はXプラットフォーム上で、美術館の決定を批判し、「残念ながら、これは文化シーンの潮流の典型的な例だ。芸術の自由という名の下に、歴史修正主義、反ユダヤ主義、そして最終的にはテロが常態化している」と強調する。
ブランデンブルク州反ユダヤ主義対策委員のアンドレアス・ビュットナー氏は、「最も簡単な解決策は、この肖像を撤去することだ。ユダヤ人コミュニティの感情を害している」と述べているが、美術館は引き続き肖像画の撤去を拒否している。一方、フルクサス・プラス美術館のマネージングディレクター、タマス・ブレネシー氏は「展示内容への介入や、展示品の撤去は論外だ」と述べ、反ユダヤ主義という非難を一蹴している、といった具合だ(以上、独週刊誌シュテルンを参考)。
パレスチナ自治区を実質的に支配してきたイスラム過激派テロ組織「ハマス」のイスラエルへの奇襲テロ事件(2023年10月7日)以来、世界各地で反ユダヤ主義的襲撃や蛮行が急増している。
オーストラリアのシドニー近郊のボンダイビーチで今月14日夕、付近でユダヤ教の祭典ハヌカの行事が行われていたが、2人のテロリストが15人のユダヤ人を銃殺したばかりだ。オーストラリアのアルバニージー首相は記者会見し、「破壊的なテロで、ユダヤ教徒を狙った攻撃だ。憎悪や暴力は受け入れられない」と述べている。
ちなみに、オランダの首都アムステルダムで昨年、アンネ・フランクの像が「ガザの解放のために」と落書きされるという出来事があった。残念ながら、ポツダムのアンネ・フランクの肖像画問題は反ユダヤ主義の憎悪の火に油を注ぐ危険性がある。
参考までに、ウィーンのミュージアム・クォーター(MQ)で2019年9月26日から11月24日まで、「Japan Unlimited」(仮題・日本、無制限な世界、空間)と呼ばれる芸術展が開催されたことがあった。同展示会は日本とオーストリアの外交関係150年を祝賀する記念イベントの一環として開催され、日本側も支援した。ただ、同展示会を実際に見た日本人から「これは反日オンパレードの展示だ」という苦情が聞かれるほど、展示された作品は典型的な左翼思想に凝り固まった芸術家によるもので、安倍政権批判から天皇陛下への中傷まで表現した作品だけだった。日本大使館関係者は慌てて150年修好記念ロゴの使用禁止を要請した、という不祥事があった(「日本大使館の35日目の『改心』劇」2019年11月10日参照)。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年12月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






