物価高なのに過去最大の予算でインフレ促進、日銀はインフレ抑制の利上げという矛盾を高市首相は知っている

政府は26日、122兆円という巨額の26年度予算案を決めました。高市首相の「責任ある積極財政」は政治的なスローガンですから、何が日本の財政問題か矛盾かについては語っていません。

市場は日本の財政の先行きに懸念を持っていますから、金利高、円安になっています。積極財政を続けるならば、主要国の中では日本だけにない財政独立機関を設け、政権、政治とは距離を置いた財政政策の提言、検証、チェックをしていくことにしなかったのか。高市首相の一存で財政政策をやっていくのではないというメッセージを市場に送るべき時でした。

新聞社説は「歳入面はインフレ頼み、歳出面も与野党による要求丸のみが目立つ」(日経)、「利払い費は2.5兆円増え、13兆円となり、予算全体の増加分7.1兆円の3分の1を占める」(朝日)、「税収は過去最高の83.7兆円を見込んだ。その反面、国債の元本返済、利払いを含む国債費は過去最大の31.2兆円に膨らんだ」(読売)と指摘しています。

インフレ税となぜ言わぬメディア

そこまで指摘するのなら、「物価高によるインフレ税がまさに導入されているに等しい」と、主張してほしいものです。インフレ税とは俗称で、正式の税制用語ではありません。政府はそう言わないから、メディアはインフレ税という言葉を使って高市財政の問題点を洗い出すべきなのです。

税収は7.6%増はインフレ下でモノ、サービス価格が上昇し、消費税が4.5%増の26.7兆円に増えたことが大きい。法人税も企業の価格引き上げなど売り上げ増などで7.1%増の20.7兆円になりました。

国債残高は1100兆円をこえているのですから、税収増は国債の償還(返済)にあてることを最優先しなければなりません。それを積極財政の名のもとに税収増をバラマキに使い、それでも足りないので新規国債を29.6兆円も覇発行しているのです。

ケインズ主義に疑念を持ったブキャナン氏

米国の経済.財政学者のブキャナン氏(1986年、ノーベル経済学賞)の学説を紹介しましょう。「不況期の財政赤字(国債発行)には反対がない。好況期になったら財政を黒字になるように増税、歳出抑制(国債償還)をしようとすると、有権者の抵抗が大きく、それができない」、「景気回復したら財政状態を改善しようは無理で、最初から均衡財政に努めるべきだ」と。伝統的な財政政策であるケインズ主義に批判的な主張でした。

まして好況期に財政拡張(積極財政)をすべきではないです。現在、企業業績は改善し、名目賃金は上がる好況期です。それなのに高市首相は「積極財政で経済を強くする」と、繰り返し発言しています。ブキャナン氏いうあるべき財政政策と真逆のことをしているのです。

徒党を組んで動くリフレ学者に失望

こともあろうに、経済財政諮問会議の民間議員の学者、専門家4人が連名で「名目GDPの国債残高比を下げることを求める」などと提言しました。アベノミクスの不成功で消えたはずのリフレ派(超金融緩和、財政拡張)の人たちです。学者、識者は徒党をくんではいけません。あくまで個人として発言して責任を負い、間違ったら検証、釈明することです。

アベノミクスを後押しした人達でしょう。日銀自身が一年前、アベノミクスに否定的な検証報告を公表しました。それに対する見解をまず明らかにして、提言するのが学者としての筋道です。懲りない人たちです。

インフレを後押しする高市氏の真意

高市政権は国家債務(国債残高)の名目GDP(26年度691兆円)比を下げていけば、財政は健全化に向うと主張しています。名目GDPはインフレ下では増加し、その比率は下がるでしょう。高市氏は2,3%程度のインフレの継続を望んでいると、私は推測します。インフレのほうが税収も増え、財政運営がやりやすくなる。ですから、「景気回復とインフレ期に財政膨張させるべきではない」という経済理論とは真逆のことをやっているのです。

国債利払い費は26年度は13兆円です。それが28年度には16兆円、34年度には25兆円と急速に増えていきます。26年度の国債費(元本の償還、利払い費)は31.2兆円で、社会保障費(39.3兆円)に接近し、利払い費だけでもすでに防衛費(8.9兆円)を超えています。

インフレで税収が増えると、瞬時に使ってしまう。その後から国債費がどんどん増えていく。時間差がある。どうやって将来、予算を組めばいいのかを想像すると、恐ろしくなる。現在の税収増に喜んでいてはいけない。

日本はどこの先進国にもある財政独立機関(政権から独立し、財政展望を持ち、持続可能な財政政策を提言する)を設立すべきです。このままでは、どこぎかの時点で消費税率引き上げ(26年度の消費税収は26.7兆円)が不可避になるでしょう。そうでもしないと、市場が納得しない。国債償還の60年ルール(60年で完済)を80年ルールとかに変更しようと、だれかが言い出すかもしれません。単なる国債償還の先のばしにすぎません。

高市首相 首相官邸HPより


編集部より:この記事は中村仁氏のnote(2025年12月27日の記事)を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は中村仁氏のnoteをご覧ください。