トランプ米政権のベネズエラ軍事介入はロシアと中国両国に大きな打撃を与えている。ロシアは南米ベネズエラとは軍事的な結びつきが強く、ベネズエラとは2025年5月に一種の包括的戦略パートナーシップ条約を批准し、米国の影響力を排除する「反覇権主義」の同志として結束を固めてきた。一方、中国は経済・外交の両面で極めて強固なパートナーシップを築いている。それが1月3日の米軍の軍事介入でマドッロ大統領が拘束され、米国に移送されてしまったことから、両国は南米の重要な拠点を失う恐れが出てきたのだ。

国民に新年のあいさつをするロシアのプーチン大統領 クレムリン公式サイトから
米軍のベネズエラ軍事介入はロシアにとって大きな軍事的敗北をもたらしたことは間違いない。ベネズエラは長年、中南米におけるロシア製武器の最大級の購入国だ。戦闘機(スホーイ30)、戦車、防空システムに加え、ロシア軍事顧問の派遣や共同軍事演習を通じてマドゥロ政権の防衛を支えてきた。しかし、ベネズエラが数十億ドルをかけて導入したロシア製の高性能防空システム(S-300VMなど)は今回の米軍による電撃的な特殊作戦(Operation Absolute Resolve=絶対的な決意作戦)を防ぐことが出来なかった。
それだけではない。プーチン大統領は先月、マドゥロ大統領との電話会談でベネズエラを無条件で支援すると確約していたのだ。モスクワでは「わが軍はウクライナへの軍事侵攻に4年以上を費やしながらもその目標を達成できないでいる一方、米軍は迅速に軍事目標を達成した」と指摘する声が既に聞かれる。ロシア軍関係者に一種の敗北感が漂っているという。
独民間放送ニュース専門局NTVのモスクワ特派員によると、ロシアではベネズエラ政変について公式には余り報じられていないという。ただ、そのような中でも、「米国の力による現状変更」を、自国のウクライナ侵攻を正当化する論理に利用すべきだという強硬派のメドヴェージェフ安全保障会議副議長の意見が報じられている。また、米国がベネズエラの石油利権を完全に掌握すれば、世界の石油市場で価格下落を招き、その結果、ロシアの戦費調達にも打撃を与える、という悲観的な予測も聞かれる。
一方、中国はベネズエラを重要な「エネルギー供給源」および「融資先」と見ている。ベネズエラは世界最大の原油埋蔵量を誇り、中国にとって重要なエネルギー供給源だ。2025年12月時点で、ベネズエラ産原油の輸出先の大半(約80%)を中国が占めている。中国は過去数十年でベネズエラに数百億ドル規模の融資を行っており、インフラ整備や鉄道建設を支援してきた。
中国企業はベネズエラの主要港湾の拡張プロジェクトに技術提供や融資の形で深く関与しており、石油関連の海上施設も運営している。ベネズエラ最大の港であるプエルトカベージョ港の拡張プロジェクトは、中国港湾工程(China Harbour Engineering Company, CHEC)によって請け負われた。中国の民間企業であるChina Concord Resources Corp (CCRC) は、ベネズエラ国営石油会社PDVSAとの20年間の生産分与契約に基づき、マラカイボ湖の油田開発に投資している、といった具合だ。
米国のベネズエラ軍事介入について、中国はロシアと同様、「国際法違反」と批判しているが、トランプ大統領への批判は避けている。中国はベネズエラに巨額の融資をしてきたこともあって、融資の回収不能を恐れ、ポスト・マドッロを想定し、新たな政府とも交渉の余地を残す姿勢を見せている。
実利を優先する中国が懸念することは、米軍によるマドゥロ大統領拘束や制裁の強化を受け、ベネズエラ産原油の輸出ルートに不確実性が生じることだ。
いずれにしても、米国のベネズエラ軍事介入はロシアに「地政学的敗北」をもたらし、実利優先の中国には、南米のエネルギー供給源の喪失という経済的なダメージとなることが予想されるわけだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年1月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






