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昨日、「日本のイスラエルとの安全保障協力は本当に賢い選択か」という題名の記事を書いた。

そこでも触れたが、現在日本は、事実上、世界有数の複数の軍事大国と敵対関係を持つ「二正面作戦」の状態に陥っている。これに対して、特に高市政権と、政権の路線を強く支持する軍事評論家・国際政治学者の層が、この「二正面作戦」を勝ち抜く正面突破の路線を強く主張してきている。私自身は、この状態に懸念を持っている。
日本は、ロシアのウクライナ全面侵攻以降、欧米諸国と同調して、ロシアに対して制裁を科した。欧米諸国以外でも、一部の諸国が制裁に参加してはいるが、韓国やオーストラリアなど、他のアメリカの軍事同盟国が中心である。
さらに日本は、ロシアと戦争をするウクライナの継戦努力を支援する目的で、2022年以降に1.8兆円以上の資金を投入している。来年度予算でも、1兆円近くの予算がウクライナ支援に計上されているようだ。これは大多数の欧州諸国を上回る関与であり、非欧米諸国としては際立っている。
ロシアは当然、強烈とまでは言えないものの、日本に対して敵対的な姿勢を取っている。日本を欧州諸国に次ぐ敵性国家とみなし、経済活動に関する各種の制約を導入し始めている。「ウクライナはロシアに勝たなければならない」という主張を持つ学者や評論家に対しては、入国禁止措置などをとっている。
もう一つの軍事大国は中国である。高市首相の「台湾有事」発言以降、中国が日本に敵対的な態度を取ってきていることは周知の通りである。そしてついに、半導体や電気自動車(EV)などに不可欠なレアアース(希土類)の全般的な対日輸出を停止する措置を取ってきた。これまで中国が講じてきた一連の措置とあわせて、日本経済が無傷で済むことはないだろう。
今、日本は、軍事衝突にまで至っていないだけで、ロシアと中国という、世界有数の軍事大国の隣国との間で、厳しい敵対関係に陥っているわけである。軍事安全保障政策のみならず、経済政策に至るまでの全般的な領域で、「二正面作戦」を前提にした対応を取らなければならない状況に陥っている。
この状況で高市首相が追求しているのは、アメリカにすがり、アメリカの介入を懇願するような対応である。就任直後に来日したトランプ大統領の横で飛び跳ねるなどのパフォーマンスで痛烈な印象を与えた高市首相だが、あらためて早期に訪米したいとの意向を繰り返し表明している。
高市首相は、ASEANサミット、APECサミット、G20サミットといった日程が定められている多国間会議には参加したが、それ以外の外国訪問はまだ行っていない。G20サミットの際には、会合に大幅に遅刻するなどの振る舞いがニュースとなった。外国要人と異様に接近してみたりする行動も話題を呼んだが、特に政策的に意図のある外交を行った形跡はない。
高市外交は、今のところ、いわばアメリカ一点集中主義である。
あえて言えば、アメリカの同盟国である欧州のNATO諸国やイスラエルについては、準同盟国的な位置づけとして心を許しているのかもしれない。しかし、それ以外の諸国への関心は、今のところ、ほぼまったく見られていない。
この背景には、「二正面作戦」がもたらす「焦り」のような感情があると、他者からは見えてしまうだろう。苦しいからこそ、アメリカだけを見つめ、アメリカに頼ることだけに突破口を見出そうとしている。そして、アメリカさえ本気でロシアを撃退しようとしてくれたら、アメリカさえ真剣に日本を守って中国と対峙する決意を固めてくれたら、日本は後景に退いた上で、勝ち馬に乗ることだけを考えておけばよくなる、という発想である。
しかし、トランプ大統領の側は、そのような高市首相の態度を見抜いたかのように、中国の行動に対して高市首相を擁護するような発言はせず、そもそも安全保障上の関与を示唆するような発言は一切せず、日本はアメリカから巨額の貿易黒字を稼いできた、ということだけを言ってみたりしている。
日本は、5,500億ドル(約86兆円以上)に及ぶ巨額投資の約束に加えて、増税してまで達成しようとしているGDP比2%の防衛費をつぎ込み、アメリカの高額兵器を購入せざるをえなくなっている。日本の側は、苦境にあることを完全に見透かされている状態だ。トランプ政権は、徹底的に日本の財政資源を収奪する行動を取り続けるだろう。
日本が、ロシアと中国との「二正面作戦」の重荷に耐えかねて、アメリカに貢ぎ続ける構図は、国際情勢に新しい展開が生まれるまで、止まることがないだろう。
果たして日本は、この「二正面作戦」状態で、アメリカからの財政資源提供圧力にさらされ続けながら、持続可能性のある国家運営をしていくことができるだろうか。私はかなり悲観的になり始めている。
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