「ドイツは独自の戦術核兵器が必要だ」ードイツ軍准将のフランク・ピーパー氏は雑誌「シュテルン」(1月29日)のインタビュー(見出し「ドイツの原子爆弾への道筋はどうなるか」)で述べた。戦術核兵器とは、射程距離が短く爆発力が低い核弾頭で、戦場で敵軍に直接使用することを目的としたものだ。

ピーパー准将、ドイツ連邦軍公式サイトから
ピーパー准将は、「通常兵器では、欧州諸国に対して繰り返し核の棍棒を振りかざすロシアのプーチン大統領を抑止することはできない」と主張する。ドイツ軍指揮幕僚大学の戦略部長も務めるピーパー氏は、この問題の機微を踏まえ、一市民としてこれらの発言をしている。
同氏の主張の背景には、米国との緊張関係がある。現在、北大西洋条約機構(NATO)の抑止力の一環として、米国の核兵器がドイツ領土に配備されているが、トランプ政権は核兵器を撤退させる可能性を何度か示唆していることがある。
ピーパー准将だけではない。「核問題は国家主権の核心に関わる問題だ。ドイツもこの問題に取り組まなければならない」と、ボンにある財団歴史館のハラルド・ビーアマン理事長は訴え、「これはドイツ連邦共和国の存亡に関わる問題だ」と断言する。また、長年キール大学安全保障政策研究所で教鞭を執ってきたヨアヒム・クラウゼ氏は、「ドイツ自身の、あるいは欧州の核兵器によるドイツ防衛について、早急に議論する必要がある」と警告している。
ドイツ軍は十分な兵器級物質を入手することは可能だ。ユーリッヒ原子力技術研究所で30年以上核技術の研究に携わってきた化学者ライナー・モーアマン氏はシュテルン誌に、「技術的に言えば、ドイツ製の原子爆弾の製造は問題ないだろう。グローナウ濃縮工場で既にウランが濃縮されている。そこで兵器級物質を製造するには、施設をある程度改造するだけで済む。必要なのは十分な数の遠心分離機だけだ。ドイツにはこの分野で十分な専門知識があるから、3年以内に原子爆弾を製造できるだろう」と予測している。
ドイツでは核保有問題は久しくタブーだった。ドイツの場合、過去、核の保有を断念することを宣言してきた。1954年、NATO加盟の際、核・生物・化学兵器の自国領土内での製造を放棄すると宣言している。そして1975年に核不拡散条約(NPT)に加盟し、核兵器の所有、取得、管理を正式に断念した。また、ドイツ最終規定条約(1990年)ドイツの再統一時、ドイツが核兵器を保有・製造・管理しないことを国際的に改めて確約している。
そして今日まで、自国で核は持たないものの、NATOの枠組みで米国の核兵器をドイツ国内に配備し、有事にはドイツ軍の航空機で運搬・運用する仕組み(ニュークリア・シェアリング)を維持してきたわけだ。
それが2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻で状況は激変した。実際、侵攻前は米国の核兵器維持に賛成する人は約14%に過ぎなかったが、侵攻後には52%にまで急増している。ショルツ首相は当時、「時代の転換(Zeitenwende)」を宣言。核共有を継続するため、核搭載可能な最新鋭戦闘機F-35の導入を決定した。
ドイツの核論争に火をつけたのは、トランプ大統領の出現、米国の核共有、そして米国を信頼できるかといった論争が浮上してきたからだ。すなわち、米国の核の傘への不安だ。トランプ氏がNATO加盟国への防衛義務を軽視する発言を繰り返したことで、ドイツ国内では「米国が守ってくれない場合に備えるべき」との危機感が強まったきたわけだ。これまで極右や一部の専門家に限られていた「ドイツ自前の核保有」や「欧州独自の核抑止」という選択肢が、主要政党の間でも公然と議論されるようになってきた経緯がある。
ドイツには現在、3つの選択肢が考えられる。①米国の「核の傘」に留まる,②英国とフランスの核戦力を欧州全域の抑止力に再編する、③ドイツ独自の核保有だ。
シヴィー研究所(Instituts Civey)が昨年実施した調査では、回答者5,000人のうち48%がドイツの核兵器に反対し、38%が賛成した。この調査では、東西ドイツ間の顕著な違いが明らかになった。旧西独では意見がほぼ二分され、ドイツの核兵器に賛成が42%、反対が43%。一方、旧東独では反対の声が著しく強く、約66%がドイツの核武装に反対した。

ドイツ・メルツ首相インスタグラムより
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年1月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






