日本では日本国債が話題になっており、国の国債や社会保障をどうするかということが最近話題になっていますが、そこでたびたび取り上げられるのが、かつてのイギリスの構造改革です。
つまり国の経営のやり方の大幅な変化です。
2025年12月9日発売の私の最新書籍である『世界のニュースを日本人は何も知らない7』でも触れていますが、様々な研究所や記事で、何々の政策が行われたとか、サッチャーさんは何をしたということは書かれますが、では実際、現地ではどうしてそんな大胆なことが可能だったのか、そして当時はどんな状況だったのかということは語られることがありません。
実はイギリス人であるうちの家人やその友人たち、親類や近所の人々は、サッチャー改革を実際に現地で体験した人々です。
しかも当時は、採算事業だらけだった北部の炭鉱や重工業地帯の人々なのです。
それまでのイギリスは、日本の皆さんが映画やドラマで見ればわかるように、大変保守的で階級による縛りが強い国でした。
戦時中はドイツに空襲され、ミサイルを持ち込まれ、四面楚歌の状態で、イギリスが占領されるかという状況でしたが、何とか反撃してアメリカの支援も得て、戦争に勝つことができました。
しかし戦争により国は荒廃し、孤児や障害者なども多く出たために、戦後のイギリスは国民皆保険や福祉を充実させ、組合によって人々の仕事を保護し、社会民主主義的な国になりました。ところが福祉国家になりすぎたので生産性は失われ、人々は何でももらえるのは当たり前だと思うようになっていました。
そして国全体として今よりもずっと貧しかったのです。一般の人の家ではトイレは家の外にある粗末なものが当たり前で、セントラルヒーティングもありませんでした。
手に入る食材も限られていたのです。
海外に旅行に行くことは、夢のまた夢でした。
ところがそのような状況が悪化しすぎてしまい、工場では車を作れば作るほど赤字、鉄工所も炭鉱も赤字、組合が強すぎて改革や解雇は無理、そして公務員も、人を始め墓場の墓掘りまで仕事をしなくなり、墓場には死体が積み上がり、ゴミも収集されなくなりました。
うちの家人は、墓場の横を通って学校に通っていたので、積み上がる死体を見たそうです。
1978年には大規模なストが起きて国中が麻痺。ちなみにその前年にリリースされたのが、パンクバンドのセックス・ピストルズの「God Save the Queen」で、「女王は人間じゃねえ。俺には将来はねえ。」と歌われており、イギリスのレコードチャートで2位。当時の社会のやぐされた空気を表しています。女王を揶揄することは絶対に許されないことだったので、これは大変な事件となり、学校でも聴いてはいけないと注意があり、家人の実家の近所では、怒った親が子供の目の前でレコードに火を付ける騒ぎがありました。
仕事はなく、家人の学校の同級生の親の半分は失業していました。家で十分に食事を取ることができなかったので、学校で配られる牛乳が重要な栄養源だったのです。
仕事もなく、ものもなく、寒くてどこもボロボロ。夢も希望もない。イギリスにとって最悪の時代でした。戦時中も悲惨でしたが、この時代のことは話したがらない人が多いです。
その頃の日本は昭和50年代後半。イケイケどんどんの時代でした。
イギリスがそんなに貧しかったということを知っている日本人は、あまり多くはないでしょう。
そのような、あまりにもひどい状況の時に登場し、「労働党は機能していない!」(Labour Isn’t Working)と選挙運動を展開して勝利したのは、マーガレット・サッチャー元首相でした。
つまり社会民主主義的だったイギリスの人々は、極限まで追い詰められて、ゴミや死体や失業者が溢れる中で、改革を望んだのです。
日本ではイギリスのような改革を進めるべきだとか、サッチャーのような強いリーダーが必要だということが言われることもありますが、しかし日本はそこまで追い詰められている状況ではないので、改革が進まないのです。街はどこも清潔で、莫大な金額の公的な資金を継ぎ込まれた公的なホールや図書館が整備されています。鉄道も補助金で安全性が確保され、市役所はよくわからないイベントをやっています。

高市首相(自民党HP)とマーガレット・サッチャー首相(Wikipedia)
誰もがそれが当たり前だと思っているのです。
イギリスも、状況が相当悪化するまでは、そのように悠長な状態だったのです。そして政治家は、危機が起きているとは考えていませんでした。
当時の労働党政権は危機が起きているとは捉えず、Out of Touch(現実離れしている、世間知らず)と批判され、それをSunは “Crisis? What crisis?”(危機?何の危機?)と見出しにしました。
私には、当時のイギリスの労働党政権が、今の日本に重なる部分があるように思えてならないのです。
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