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あなたの子どもは現実でちゃんと居場所をつくれているだろうか。
オーバードーズ(以下OD)というと新宿歌舞伎町のTOHOシネマズ横の通称「トー横」や道頓堀グリコサイン下の通称「グリ下」などで見知らぬ誰かが行い、私たちはそれをニュースで眺めるような印象だが、実行するだけならドラッグストアに行って咳止め薬を買うだけでできるので、子どものいる家庭であれば決して他人事ではない。
さて、スマートフォンやパソコンで利用できるコミュニケーションツールのなかにDiscordというツールがある。
LINEのようにボイス、ビデオ、テキストで他人と会話を楽しむことができ、スマホとパソコンの両方から利用が可能なツールだ。
LINEオープンチャットのように「交流する場(以下サーバー)」を利用者が設け、そこに他の利用者を呼んで交流することができ、利用者は10代から40代が多いが50代60代の利用者もいる。
ものすごくざっくりいうなら「ネット上でテキストなりボイスなりで複数人が好きに会話ができる場」だ。
スマホでもパソコンでもブラウザを開いてDiscordと入力して検索すればすぐに始められる。
サーバーの種類はポータルのようなサイトで雑談、恋愛、ゲーム、趣味などカテゴリ別にまとめられていて、「雑談」系のサーバーであればそこからさらに誰でも歓迎、学生限定、独身限定、10代限定、20代限定、不登校&ニート限定、精神疾患持ち限定などタグによって細分化されている。
一見して健全な交流の場のように見えるだろう。実際、ほとんどのサーバーはのんびりと雑談に興じたりみんなでゲームしたり恋人探しをしたりと健全だ。
しかし、その一角には「どこにも居場所がない子どもたち」がひとつのサーバーに集まってODで現実逃避をしている。
年齢は13歳~18歳が中心でほぼ全員が「何らかの理由で不登校」「親から虐待を受けている」「自分の居場所がどこにもない」といったネガティブな属性を持っていて、日頃から強いストレスに晒されている。
彼らにとっての雑談は重めの愚痴から今度精神病棟に入院するという報告、現在家出中で泊まれる場所を探している、どの薬を何錠ぐらい飲むのがベストかなどといった会話が主だ。
学校でいじめを受けている、クラスで孤立して誰も友達がいないという段階を越えた先の八方塞がりの果てに自傷やODを行っている。
実際にあった会話の一例を書こう。脱字の修正や句点の追加は行っているが他はそのままだ。
登場人物は16歳女子で不登校のAと17歳男子で同じく不登校のBのふたりだ。細かい背景は不明である。
A「おすすめの薬ある?」
B「コスパ? 飛び重視?」
A「飛びかな」
B「いろんな人の話を聞くとやっぱりリリカがいいらしいんだけど個人的にはプレコールが好き。Xとか見てても皆リリカ良いって言ってるね」
A「リリカか」
B「でも安定はメジコンじゃない?」
A「やっぱりか」
といったようにODに適した薬の情報交換が「おすすめの音楽ある?」レベルの何気ない会話として行われていて、個々で行為にふけっている。なお、この会話の中に登場する「メジコン」はドラッグストアで販売されている咳止めの薬で、ODに使われる薬の中ではメジャーな存在だ。
中にはボイスチャットで実況しながら集団でODする子どもたちもいて、筆者も会話にだけ参加してみたことがあったが徐々に呂律がまわらなくなってやがて無反応になるというもので、そこは異様な空間だった。
何度か彼らに話を訊いてみたことがあったが、共通しているのは「世の中に絶望している」ということだ。
絶望の理由は「努力を笑われて常に否定される」「テストで高い点を取っても褒めてくれず、低い点を取れば罵倒される」「生まなければよかった、死んでほしいと存在を否定される」「母親から毎日のように怒鳴られてばかりで人の声が怖い」「母親が男を連れ込んで聞こえるところでいつも性行為が行われている」「母親の浮気相手から暴力を振るわれる」「親の機嫌が悪いだけで殴られる」「父親が仕事にかまけて何もしてくれない」「兄弟姉妹にだけ優しくして自分には優しくしてくれない」など人の数だけあり、「はやく死にたい」と彼らはそればかり願っている。
少数ではあるが中には一般的な家庭で育ち、両親からちゃんと愛されながらも「なんとなく」という言語化できない正体不明な漠然とした不安で始める子、知的好奇心で試してみたら抜け出せなくなった子、「みんなが楽しそう」「一緒にやれば自分もみんなの輪の中に入れる」といったコミュニティ内で自分の居場所をつくるためにODをする子もいる。
子どものODが世間を賑わしてから数年が経つが、そんな子どもたちに私たち大人は何ができるだろうか。
子は宝であり、未来を担う大事な存在を失わないためにも彼らの存在を認知ところから始めていきたい。
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地獄変
IT業界でQAとQAマネージャーを約20年経験し、早期リタイア。現在はネット上で生きづらさを感じている未成年が何をどう感じて生きているのかをデータとしてまとめながら見守っています。






