
衝撃の結果だった2/8の総選挙だが、腰を落ち着けた分析が出揃ってきた。来月刊の月刊誌が本命で、自分もふたつ原稿を入れたけど、いまあるべき視座について、ここでもまとめておこう。
前回の2024年衆院選で、自民党(石破茂総裁)が得た比例票は1458万票だった。それが今回は2102万票だから、実に1.5倍。ここだけ見ると超高市旋風で、サナ活パワーすっげーと思う。
ところが、である。話はそう単純ではない。

高市フィーバーが起きたとは言えないと思う。名目(議席数)で圧勝であっても、実質(投票率、得票率)は低人気の岸田首相並みに過ぎなかった。その差が大きく出たのは、上位候補が有利になる選挙制度(小選挙区289、比例176)の下で、野党の多党化・分散化が高市首相が圧倒的に有利な状況を作り出したのだと考えます。
中村仁氏、2026.2.12
そうなのだ。2021年衆院選でも、自民党(岸田文雄総裁)は比例で1991万票を取っている。これと比べると、SANAEパワーはFUMIOパワーの5%増しでしかない。「熱狂なき大勝」だと感じた記者さんたちの直観が正しい。
今回の衆院選で最も特徴的な点は、世論調査の数字と実際に現場取材で得た体感が乖離していることだ。2月8日夜には、どのような結果が出てくるのか。クライマックスはこれからだ。
安積明子氏、2026.2.6
せっかくだし、『平成史』でも使った手法を再利用して、大学入試風のクイズにしてみよう。

問い 2026年2月の衆院選で3分の2の議席を占め、圧勝した高市自民党が得た比例票は2102万票だった。以下の選挙における比例票のうち、これと最も票数が近いものを選べ。
① 2005年「郵政解散」の勝者(小泉自民党)
② 同じ選挙の敗者(岡田民主党)
③ 2009年「政権交代」の勝者(鳩山民主党)
④ 同じ選挙の敗者(麻生自民党)
⑤ 2012年「政権奪還」の勝者(安倍自民党)
意外かもしれないが、正解は②である(2103万票でほぼ同じ)。①は2588万票、③は2984万票で、文字どおりのフィーバーだった。ちなみに、④は1881万票でそう悪い数字でもなく、実は⑤の1662万票より多い。
郵政選挙で惨敗した民主党は当時「オワコン」扱いされたが、初の女性総理で底上げしても、いまや自民党がその票数しか行けない。要は国民が政治をあきらめ切っていて、とりわけ野党が魅力ゼロすぎなのが問題なのだ。
……といった入口から、日本の将来を考える宇野常寛さんとの動画が、2/19から配信されている。
高市政権の下でこれから日本は「トルコになる」というのが、ふたりが合意した(暗い)予測だけど、補足しておこう。同国のエルドアン大統領は、2014年からの超長期政権(首相時代も入れると、さらに10年ほど長い)。
通貨リラの暴落に対して長年まともな対策を取らず、インフレが長期化して国民生活はボロボロだが、しかし「世界の中心で咲き誇る」外交には熱心である(笑)。公平に言って、日本よりは成果を出しているかもしれない。
北大西洋条約機構(NATO)加盟国ながら、西側諸国に対抗する枠組みとされるBRICSの場に姿を現すのは異例であるが、エルドアン大統領としては国際政治のあらゆる場でトルコの存在感を示し、得意な外交分野で独自色を出したいという思惑であろう。
(中 略)
インフレ抑制に向け政策金利を引き上げるのが常套手段だが、エルドアン大統領の「利下げでインフレ率が下がる」という独特な意向を受け、……為替減価に伴う輸入物価上昇がインフレを加速。将来にわたって高インフレが継続するとの観測からリラへの信認が低下し、為替が減価するという悪循環が続いた。
谷村真氏、2025.1.6
…ご存じのとおり、ウチの首相も「独特な意向」の持ち主らしい(泣)。

先の引用のとおり、冷戦時代からトルコはNATO加盟国で、日米安保を結ぶ日本と同じ “西側・親米” だが、ウクライナ戦争では主体的に和平を仲介した。脳の中まで「欧米化」してたのは、実は日本人だけだった(泣笑)。

とはいえ “独自外交” さえしていれば、自主性があってけっこうというわけにもいかない。革命で共和国となって以来の国是だった世俗主義を軽視し、イスラーム回帰との抱き合わせで愛国主義を煽る手法は、危うさもある。
以下は10年以上前の記事だけど、欧米的な世俗主義を “リベラル”、イスラムの教えをそれぞれの国の “オルトライト” に置き換えれば、エスタブリッシュメントの失墜後に「トルコ化」はどこでも起きていることがわかる。
世俗主義のエリート層は、イスラムに従うのは無知であり、自分たちの方が欧米的で進んでいると主張する。しかし庶民は、欧米的な世俗主義よりも、イスラムの教えにしたがって、公正な社会にしてくれた方がいいと考えている。
(中 略)
エリート層や軍、大財閥などかつて体制側だった世俗主義勢力から国民の心はとっくに離れており、公正発展党に代わってトルコをけん引できる野党は、現状では存在しない。
内藤正典氏、2013.8.23
そんな視点も踏まえつつ、2/25のプライムニュースでは、浜崎洋介さんと刺激的な議論ができた。公式のダイジェストが、早速公開されている。
しかしまぁ、アジアで唯一の “近代国家” と呼ばれた時代はどこへ、である。
宇野さんと話したように、政治活動の自由が十分にないトルコでも、いま野党はちゃんと頑張っている。2023年の大統領選では統一候補を立て、決選投票でわずか4%差まで、政権を追い詰めた。
国民が民主主義に飽き、野党も内ゲバしかせず、与党でないと小選挙区で勝てない “なんちゃって権威主義” へと進む国を、トルコ化と呼ぶのも実はおこがましくて、前からその下を低空飛行で飛ぶのが、日本の政治だろうか。
いずれにせよ、機能する選択肢が「一択」になった国は、もはや健全な意味での民主主義を名乗れない。他のオプションを考えるヒントとして、両方の番組が見られるなら嬉しい。
参考記事:
(ヘッダーは2025年11月、G20サミットでのエルドアンと高市首相。トルコ国営放送より)
編集部より:この記事は與那覇潤氏のnote 2026年2月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は與那覇潤氏のnoteをご覧ください。







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