日本が全面負担する国連大学に米国が背を向けた(古森 義久)

青山通りの対岸から見た国連大学本部ビル。左はかつてのこどもの城、右は青山オーバルビル
Wikipediaより

顧問・麗澤大学特別教授 古森 義久

米国のトランプ政権はこの1月、合計31の国連機関からの脱退を発表した。その中には日本が東京に誘致し、その後も全面支援を続けてきた国連大学が含まれていた。

歴史的には国際連合の最大の推進役だった米国が「国際的な公正にも米国の国益にも反する」として絶縁した国連大学はいまも東京都内の一等地に堂々たる高層ビルを構えている。本来、この国連大学は学生も教授も講義もなく、日本が公的資金で支えることへの疑問が提起されてきた。その経緯に加えての同盟国の米国からの絶縁状はこの奇妙な大学の存在に改めて再考の光を当てるべき機会だと言えるようだ。

トランプ大統領は1月7日に合計66の国際機関からの米国政府の脱退を発表した。これら機関のうち31が直接に国際連合に帰属していた。

同大統領は特に国連機関からの脱退の理由として「米国の優先事項よりもグローバリズムの議題を推進する機関、あるいは重要な課題を非効率的・非効果的に扱う機関への米国納税者の資金提供と関与を終了する」と言明した。その背景には米国の歴代政権が国連の多数派に反発され、特に米国の積年の友邦イスラエルへの敵意が極端だとして「国連は反米、かつ反ユダヤ主義」と断じてきた経緯があった。

だからトランプ大統領は今回の脱退措置の説明として「米国納税者の資金は他の方法でより適切に配分される」と強調した。その排除する国連機関の1つに国連大学が含まれていたわけだ。要するに米国にとっても国連大学は何の価値もない、という思考の表明だった。

確かに国連大学はその創設時から「何のために」という疑念が絶えなかった。とにかく日本だけが何がなんでも、という態度でプッシュして、日本国内に誘致したという経緯は異様だと言えた。この辺の経緯は既にこの連載でも報告してきた。

1969年に当時の国連事務総長のウ・タント氏が国連主体の教育機関としての大学を創設するという案を提示した。だが米国やソ連などの主要加盟諸国がこぞって反対した。全世界の主権国家が国益をぶつけあう国連に総合的な教育の機能は不要、不適という判断からだった。

だが国連への関与を国際社会への復帰の主要手段として使うことに熱意を燃やしていた日本政府は国連大学の用地や経費をすべて自国で負担するからと主張して、誘致を熱望した。その結果、総会でも大学ではなく、研究所としてなら、しかも一切の負担は日本が引き受けるという条件で開設を認めた。そもそも大学ではなかったのだ。

日本政府は東京都心の青山通りの時価20億ドルの一等地を無償で提供し、運営経費もまず1億ドルを出して、1975年の開設へとこぎつけた。当時の国連大学の活動は公式には「人類の存続、発展、福祉の世界的な問題の研究と知識普及にかかわる研究者たちの国際的共同体」と定義づけられていた。あまりに抽象的な定義だった。現実にはその定義にあてはまるような各種活動は既に国連の他の多様な機関が手をつけていたのだ。だから国連の主要メンバーの賛成は得られず、日本が勝手に進めるならば黙認という反応が大方だったのだ。

しかし官民ともに「国連中心主義」なる題目を唱え、国連への過大な期待を抱いていた日本側は大喜びだった。だがその国連大学のあり方には創設から23年後の1998年に国連の合同監察機関から重大な欠陥を指摘されていた。

「国連大学の活動が他の国連機関により既に推進され、同大学は国連自体に貢献していない」、「同大学の理事などの人数が多すぎる上に、出身諸国の選抜が偏っている」という批判が具体的な事例を挙げて表明された。その上に国連大学に直接かかわる数万ドル単位の資金不正流用のケースが2件、摘発された。

国連大学は2026年の現在も青山通りに14階の威容を示している。その必要経費の年間11億ドルほども主要部分は日本政府からの拠出金と呼ばれる寄付金で賄われている。大学の看板を掲げながら、講義も学生も教授も存在しないという奇異な特徴はいまも変わらない。

この特殊な国連大学についての再考はまず、この施設が日本の国益にどれだけ寄与しているかが主眼となるべきだろう。この点では日本にとっての負の面が目立っている。

近年は国連大学の施設は国連側の一部の研究者が時おり来訪して使っているだけだが、その利用に明らかに日本の国益を害するような事例が指摘できるのだ。古くは1996年にクマラスワミというスリランカ出身の国連特別報告者が日本の慰安婦問題について虚偽の証言をした際にも、この国連大学をその調査活動の拠点にしていた。この国連報告者は「日本政府による集団的な女性の強制連行があった」と虚偽の断定をしていたのだ。

その他にも同様の国連特別報告者と称する人物たちが短期間、訪日して、国連大学などを拠点に使い、「日本には報道の自由がない」とか「日本の女子高校生の13%が援助交際をしている」と決めつけた事例があった。

2024年には国連人権理事会の委員会が日本政府に対して皇室典範を変えるよう求めてきた。現行の典範が男系の継承を決めているのは女性への差別だというのだ。国連大学はこの種の人たちにとっても日本での主要拠点となっていたのだ。

以上のような現実を見ると、日本が国民の血税で国連大学なる存在の不透明な活動を支援し続けることへの公開論議が起きても自然だろう。戦後の日本の国連幻想とも呼べる過度の国連崇拝の再点検を含めて、そんな幻想の象徴とも言える国連大学支援の国策を改めて考えることを提案したい。

古森 義久(Komori  Yoshihisa)
1963年、慶應義塾大学卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。著書に『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす』『米中激突と日本の針路』ほか多数。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2026年2月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。

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