節税目的で海外移住するのはやっぱりやめた方が良い

内藤 忍

中東のドバイには日本人で移住している人も比較的多いと聞きます。ビジネスを立ち上げたり現地でビジネスを始めることを目的にしている人もいますが、中には節税目的の人も多いようです。

ドバイ RobertBreitpaul/iStock

ドバイは日本とは対照的に「所得税ゼロ」というのが大きなメリットです。特に高所得者は最高税率が住民税と合わせて55%になりますから、税メリットはかなり大きくなります。

特に暗号資産を保有している人は日本の居住者として売却すれば雑所得がかかり所得税と同じレベルの重い課税となりますが、ドバイに移住して日本の非居住者になれば税金はかかりません。数億円の暗号資産の含み益があるならドバイに移住して無税で現金化した方がオトクと考える人がいても不思議はありません。

「所得税ゼロ」というのは甘美な響きではありますが、実際に現地で暮らす人の生活を見ると節税額を上回る精神的・経済的な「重税」があることがわかります。これは移住前にはなかなか気づかないものです。

例えば生活コストという名の「見えない税金」です。ドバイの物価は年々高騰し、冷房なしでは生存不可能な気候ゆえの光熱費や、砂漠で緑を維持するための莫大な維持費が家計を圧迫します。教育費や医療費も日本のような手厚い公的補助がない中では負担が重くなります。

経済的に余裕のある人であれば高コストの生活費や医療・教育費用も賄うことは難しくないかもしれません。しかし節税を上回るコスト負担がかかるのは本末転倒と言えます。

さらに、ここにきてドバイ移住の新たな「コスト」が顕在化しました。

イラン情勢の緊迫化に伴う地政学リスクです。地図を見るとドバイはホルムズ海峡を挟んでイランの対岸にあります。アメリカのイラン攻撃によってもはやイランの混乱は文字通り「対岸の火事」ではなくなりました。

イランからのUAE諸国へのミサイル着弾、さらにはドバイ・アブダビ両空港の閉鎖といった事態が現実のものとなっています。かつては紛争の影響を受けない「安全な避難港」と目されていたドバイですが、一変して地政学リスクの最前線へと姿を変えてしまいました。

今後の展開は予想がつきませんが、最悪の場合イランからの攻撃で被害を受けたり、空路閉鎖が長期化して国外脱出が難しくなるリスクはゼロではありません。シェルターなどで長期の避難生活といった最悪の展開は避けたいものです。

今回の地政学リスクの問題以前に私は節税のために自分の生活環境を犠牲にして移住することには反対です。

灼熱の中東の国で過ごすのはせいぜい数日間あれば充分です。美味しいお寿司屋さんや町中華のお店、そして風情のある居酒屋は日本にしかありません。豪華なシャンデリアの馬鹿でかいお店で高級ワインを飲みながらフレンチやイタリアン(のようなもの)を食べても、満足は得られません。

本当にドバイが好きで住みたいのなら何も言いません。でも税金を減らすことが理由でドバイ行きを考えているのなら、よく考えるべきです。

「日本の文化と安全」こそお金に換算できない実は最も贅沢な環境なのです。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2026年3月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。

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