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先進国と異なり4~5%の経済成長を続ける中国は、必然的にエネルギー消費量が増加します。CO2排出量を減少に転じるには、エネルギー消費の増加を帳消しにするCO2削減策の実施が必要になります。
2030年までに効果的なCO2削減策は、再生可能エネルギーの導入拡大と、石炭から天然ガスへの燃料転換です。前者は化石燃料消費を低減し、後者は消費化石燃料の低炭素化につながります。
エネルギー消費が増加する状況で、継続的にCO2排出量を減少させるには、毎年、エネルギー消費の増加分を帳消しにする新たなCO2削減策の追加を続けることが必要になります。
エネルギー消費の増加と、継続的なCO2排出減少の両立は思いの外難しい問題です。それでも、2030年までにCO2ピークアウトは、習近平主席が公表した目標ですから達成されるでしょう。
困難が伴うのは、GDP当たりのCO2排出量(carbon intensity)の目標達成です。中国の2021年更新NDC(気候変動に関して国が決定する貢献)には、2030年のGDP当りCO2排出量を2005年レベルから65%以上削減することが表明されています。
その達成が難しくなったのは、更新NDC提出以降、エネルギー消費量が想定以上に増大したためです。
本稿は、2030年までのCO2削減目標の達成を、簡易化シミュレーションで検討したものです。
シミュレーションは、今後のGDP成長率と総エネルギー消費量を想定し、非化石燃料発電と天然ガス消費を増加させる条件でCO2排出量を算出したものです。詳しくは本文に示しました。
同シミュレーションに依れば、2030年目標の達成には、2024年実績に比べ2030年の風力と太陽光発電の合計電力量と、天然ガス消費量を2.7倍前後に増やすことが必要になります。
天候次第で出力が変動する風力と太陽光発電の合計電力量は総電力量の40%前後になり、2030年までに送電網の増強に多額の投資が必要になり、電力の安定供給のため系統運用の高度化が求められると考えます。
また、現状中国は天然ガス消費の約40%を輸入に依存しており、増加分の大半は輸入量の増加になります。中国にとって輸入額の負担増、世界にとって天然ガス需給のひっ迫が予測されます。
気候変動に係わる主な目標
表-1に、パリ協定に関して中国が2021年に提出した更新NDCを示しました。2030年までにCO2排出量をピークにするとともに、GDP当りCO2排出量を2005年レベルから65%以上削減する目標としています。

GHGとCO2の排出実績
中国の温室効果ガス(GHG)やCO2の排出概要を示すため、図-1、図-2に2021年の内訳を示しました。パリ協定に基づき中国が提出した ”First Biennial Transparency Report on Climate Change(December 2024)” に記載されたデータです。
図-1のGHGはCO2、CH4、N2O、F-ガスの内訳を示しており、排出量はCO2相当量(CO2eq)の比率で、土地利用・土地利用変化及び林業分野(LULUCF)の排出量を含まない値です。CO2排出量は、GHG排出量の81%を占めています。
LULUCF分野の排出量はマイナス1,315 MtCO2eq(吸収量)で、ほとんどがCO2によるものです。

図-2にはCO2排出量を少し詳しい分類で示しました。同図の排出源名の頭についている1.A.1などは、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のGHG排出量報告で定められている番号で、1.A.1~1.A.4は1.A 燃料の燃焼、2.A~2.Cは2.工業プロセス及び製品の使用分野(IPPU)の排出量です。
燃料燃焼CO2が、CO2排出量全体の87%を占めています。

図-3は、図-2に示したIPPU分野について、産業部門の代わりに、排出量の多い具体的な製品プロセスを示したものです。セメント製造プロセスがCO2総排出量の6.9%、石灰製造の1.6%、石油化学の1.4%、アンモニア製造の1.2%などが排出量の多いプロセスです。

化石燃料を燃料として使用して排出されるCO2は、燃料燃焼CO2に分類されています。一方、セメントや石灰の生産プロセスのように石灰石由来のCO2や、プラスチック製造などの原料として使用される化石燃料から排出されるCO2は、IPPU分野のCO2に分類されています。
図-4に、中国が公式に報告しているGHGとCO2の排出量の推移を、LULUCF考慮の有無両者について示しました。なお、2005年は中国のGHG排出削減の基準年です。2005年に対する2021年の排出量の増加率は、LULUCFの有無に係わらずGHGは約1.7倍、CO2は約1.8倍です。

図-4で2010年代半ばに、排出量の増加率が低い期間が見られます。これは石炭使用による深刻な大気汚染の対策として、中小設備を中心に石炭利用を規制したことで、CO2排出量の増加が抑制されたものです。
エネルギー消費量の実績
中国のCO2排出量が増加するのは、経済成長によりエネルギー消費が増加するためです。図-5に総エネルギー消費量の実績を示しました。中国国家統計局(NBS)が公表しているデータです。本稿では、できるだけ中国の公的機関が公表しているデータを使用しました。

中国の総エネルギー消費量は、国際エネルギー機関(IEA)の総エネルギー供給量(TES)に相当するデータです。中国の総エネルギー消費量は、石炭、石油、天然ガス、一次電力とその他エネルギー、の4分類で示されています。
エネルギー単位には、一般に標準石炭換算トン(tce)が用いられています。1tce = 7Gcalで換算されるエネルギー単位です。一般炭の発熱量と少し違うので注意が必要です。国内で多量に産出する石炭を主要燃料としていることを反映したものと思います。
「一次電力とその他エネルギー」は化石燃料以外のエネルギーです。その内の「一次電力」は、原子力、水力、風力、太陽光発電による電力量を、石炭火力で発電した場合の投入エネルギーで表したものです。その算出には、石炭火力の平均発電効率が使用され、例えば2022年の石炭火力の発電効率(Gross)は42.8%とされます。
なお、「一次電力とその他エネルギー」の内の「その他エネルギー」は、電力以外での再生可能エネルギー消費量のようですが、本稿では、「一次電力とその他エネルギー」の統計データから、一次電力量の計算値を差し引いた残りとしており、総エネルギー消費量の2%程度です。
石炭消費量の比率は一貫して低減していますが、2024年でも総エネルギー消費量の53%、化石燃料消費量の66%を占めています。
CO2の低減手段
CO2排出低減の手段には大別して、エネルギー消費低減(省エネ)、消費エネルギー当たりCO2排出量低減(低炭素化)、CO2の回収貯留(CCS)があります。
2030年までの実施で効果的な手段は、低炭素化の一部で、風力や太陽光発電の導入拡大と、石炭から天然ガスへの燃料転換です。なお、原子力や水力発電を短期間に大幅に拡大することは難しいでしょう。
電力貯蔵や水素エネギーは、出力が変動する風力発電などによる余剰電力を有効利用することが主な目的で、本格導入は少し先のことです。CCSはもっと将来のことでしょう。また、省エネはこれまでも努めていたことで、2030年までに大幅に増やすことは困難です。
しかし、それらのCO2の低減手段は、幾らでも増やせる訳ではありません。風力や太陽光発電は天候次第で出力が変動するため、電力不足時の対応とともに、余剰電力の有効利用対策が不可欠です。
また、中国はエネルギー自給率の維持を重視していますが、現状で天然ガス消費量の約40%を輸入に依存しており、天然ガスの増加は輸入額の増大につながります。
簡易化シミュレーション
筆者の簡易化シミュレーションは、87%前後を占める燃料燃焼CO2、12%前後の工業プロセスと製品分野(IPPU)のCO2、0.1%程度の廃棄物分野のCO2と、LULUCF分野のCO2吸収量を集計するものです。
今後のCO2排出量に関する意図的な低減検討は燃料燃焼CO2のみで、その他のCO2排出・吸収量は、成り行き見通しを推定したものです。
なお、廃棄分野のCO2排出量は僅かであること、LULUCF分野のCO2吸収量の増加率は小さいことから、それらは過去のトレンドを基に想定しています。
燃料燃焼CO2の計算
基準年である2005年のCO2排出量は、関連のエネルギーデータ等の不確さも考慮し、中国が国連気候変動枠組条約に報告した値を用いることにしました。
2015年から2024年までの燃料燃焼CO2排出量の計算は、中国全体の石炭、石油、天然ガスの各々について、国家統計局が報告しているエネルギー消費量から「非エネルギー使用分」と「石炭洗浄・選鉱損失分」を除き、CO2排出係数を用いて積算しています。
非エネルギー使用分に関し中国機関による報告が見つからなかったため、IEAのエネルギーバランスに示される同データの比率を使用しました。
また、石炭洗浄・選鉱損失分は、国家統計局の総エネルギー消費量に含まれていると考えられますが、CO2排出量に寄与しないため除いたものです。その値には国家統計局の石炭バランスシートの比率を用いており、石炭消費量に対する比率は年により異なりますが1~5%を占めています。
CO2排出係数に係わる石炭、石油、天然ガスの炭素含有量は、GHG排出量に関する2006 IPCCガイドラインに示される瀝青炭、原油、天然ガスのデフォルト値を用い、炭素酸化係数は同じくデフォルト値の1としました。
2025、2026年のGDP成長率はIMFの2025年7月見通しを用い、その後は2026年の4.2%から2030年の3.4%に低下する想定としました。2030年の成長率の想定は少し低めかもしれませんが、それによるCO2排出量の過小評価はそれほど大きくないと考えています。
2025年のエネルギー消費量と発電電力量は、下記に記載された見通しを参考にしました。発電電力量は、発電容量見通しを基に想定したものです。
China Energy Transformation Program (CET), Summary of China’s energy and power sector statistics in 2024
2026年以降のシミュレーションでは、前述したCO2排出削減の考え方に倣い、風力や太陽光発電の導入拡大と、石炭から天然ガスへの転換により、最大のCO2排出源である石炭消費量の抑制を予測することが中心になります。以下に概要を示します。
先ず、今後の経済成長による総エネルギー消費量の増加を想定します。これまでも、エネルギー消費の低減に努めてきたことから、今後2030年までにその傾向が大きく変わらないと考え、後述するように過去のトレンドを基に想定しました。
シミュレーションの基本ケースでは、風力と太陽光発電の発電量を、中国風力エネルギー協会(CWEA)と中国太陽光発電産業協会(CPIA)による発電容量の設置見通しを基に想定しました。同見通しは、2030年のCO2削減目標に沿うものと考えています。
石炭から天然ガスへの転換は遅れ気味で、総エネルギー消費量に対する2024年の天然ガス比率は8.8%ですが、2016年に出された「エネルギー生産・消費革命戦略(2016-2030)」の指針を参考に、2030年には15%に増加すると仮定しました。
その他のエネルギー量は基本ケース、ケーススタディともに同じ値としています。中国の石油消費量の増加は低下しており、IEAの「Oil 2025」は2028年にピークを迎えると想定しており、その見通しを用いました。
原子力と水力の発電量の増加率は比較的小さく、過去のトレンドを基に各々の年増加率を4%と2%に設定しています。
これらにより、前述した「一次電力とその他エネルギー」のエネルギー消費量のうち、「一次電力」のエネルギー消費量が決まります。なお、「その他エネルギー」は比率が小さいため、過去のトレンドと同じ一定の増加率で想定しました。
石炭エネルギー消費量は、総エネルギー消費量から石油、天然ガス、一次電力とその他エネルギーを差し引いた残りとして算出されます。
化石燃料のエネルギー消費量に占める「非エネルギー使用分」と「石炭洗浄・選鉱損失分」の比率は過去のトレンドを基に想定し、CO2排出係数は2024年までと同じ値を用いてCO2排出量を積算しています。
CO2の増加要因である総エネルギー消費量は、具体的には次のように想定しました。図-6に、GDP成長率に対する総エネルギー消費量と総発電電力量の増加率を示しました。2024年までは実績値、それ以降はシミュレーションの基本ケースで用いた値です。

新型コロナによる景気後退によりグラフは大きく変動していますが、GDPとエネルギー消費量の実績には相関関係があると考えます。
簡易化シミュレーションの基本ケースでは、GDP成長率×0.8を総エネルギー消費量の年増加率と仮定しています。2025年から2030年までの総エネルギー消費量の平均の年増加率は約3.2%です。
なお、総エネルギー消費量の年増加率をGDP成長率×0.7と×0.9とした場合をケーススタディで示しました。
IPPU分野のCO2計算
IPPU分野のCO2排出量は、図-3に示したセメント、石灰、アンモニア、石油化学、その他、の5部門に分け集計しています。
IPPU分野のCO2排出量は、全体の約13%と相対的に少ないため、積算報告がある直近の2020年と2021年のデータを基に、各部門の生産量に比例する仮定でCO2排出量を概算しました。なお、石油化学部門については、代表的生産物としてエチレンとメタノールの生産量で評価しています。
図-7に、2015年の生産量を100として生産量の推移を示しました。2025年以降の想定が難しいのは、近年の生産量変化が大きいセメントと石油化学です。その他の生産量は、過去のトレンドを参考に想定しました。

図-7で2021年以降、セメント生産量が減少に転じたのは、中国の不動産バブルが崩壊したためです。不動産不況は深刻で、その解消にはかなりの期間を要すると考えられています。
しかし、2020年比で2024年の中国のセメント生産量は既に約77%に減少しており、この先それほど減少しないと想定しました。
石油化学部門の代表的な中間製品のエチレンとメタノールの生産量が急増しているのは、運輸分野の石油消費の減少を補うため、石油関連企業が石油化学部門の生産設備を拡大したためです。中国は石油化学部門で世界最大の生産国で、今後も生産増加は続くと考えられており、CO2排出量も増加が続く想定としています。
【追記】
本年2月末に国家統計局から「統計コミュニケ」が報告されました。予備的推計ですが、2025年のCO2/GDPは前年比マイナス5%、GDP成長率は5%でしたので、CO2排出量は誤差範囲で前年並みということになります。
(中国の2030年CO2削減目標は達成できるか②につづく)
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田中 雄三
早稲田大学機械工学科、修士。1970年に鉄鋼会社に入社、エンジニアリング部門で、主にエネルギー分野での設計業務、技術開発に従事。本稿に関連し、筆者ウェブページと、アマゾンkindle版「常識的に考える日本の温暖化防止の長期戦略」もご参照下さい。







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