燃え尽きる兵器庫:米国とイランの「在庫戦争」

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開戦から数日で見えてきた消耗戦の構図

2月28日、米国とイスラエルによるイランへの攻撃が始まって以来、中東では前例のない速度で兵器が消費されている。

イスラエル・テルアビブに本部を置く国家安全保障研究所(INSS)の試算によれば、米・イスラエル両軍はすでに2,000回以上の攻撃を実施し、イランは571発の弾道ミサイルと1,391機のドローンを発射したという。

多くは迎撃されたとみられるものの、双方にとって、この規模の戦闘を長期間維持することは容易ではない。BBCフィナンシャル・タイムズ紙(有料講読制)、ブルームバーグなどの最新報道をもとに、関連情報を整理してみた。

イラン:在庫は急速に減少

欧米当局者によると、イランが発射するミサイルの数はすでに著しく減少している。

開戦初日には数百発に上っていたミサイルも、現在は数十発の水準まで落ち込んでいるという。

米統合参謀本部議長のダン・ケイン将軍は、イランの弾道ミサイル発射数が開戦初日から86%減少したと述べ、直近24時間だけでも23%減少していると、米中央軍(セントコム=United States Central Command)のデータを示した。ドローンについても同様で、発射数は開戦初日から73%減少している。

セントコムは米軍の地域統合軍の一つで、中東、中央アジア、東アフリカの21か国を担当している。イランやイラク、サウジアラビア、アフガニスタン、パキスタンなど、紛争の多い地域を管轄しており、米軍内でも特に重要な司令部とされる。

開戦前、イランは2,000発以上の短距離弾道ミサイルと、数万機規模の「シャヘド一方向攻撃ドローン」を備蓄していたと推定されていた。

シャヘド(ペルシャ語で「殉教者の証人」)は帰還せず目標に突入して爆発するドローン、いわば「飛ぶ爆弾」だ。1機あたり約3万ドル(約470万円)と高額な迎撃ミサイルよりも低コストで量産が容易なのが強みで、イランはこの技術をロシアにも輸出し、ウクライナで甚大な被害をもたらした。

しかし現在、状況は変わりつつある。米国とイスラエルの航空機がイランの制空権を掌握し、防空システムの大部分を破壊したためだ。

セントコムは次の作戦局面として、ミサイル・ドローン発射台の追跡と破壊、兵器備蓄の壊滅、製造工場の破壊に重点を置くとしている。生産拠点を直接狙うことで、イランの補充能力を根本から断つ狙いだ。

もっとも、こうした戦略には限界もある。イスラエルはガザへの2年間の集中爆撃を経ても武装組織ハマスを壊滅させられなかった。イランはフランスの3倍の面積を持ち、兵器を地下や山岳地帯に隠すことも可能である。シャヘドはどこからでも発射でき、発射前に地上の発射台を破壊する戦術に対しても脆弱性が低い。

イランはシャヘドを主に湾岸諸国に向け、防空ミサイルを消耗させる戦術を採っている。

ペルシャ湾に面したバーレーンの首都マナーマには、ペルシャ湾・紅海・アラビア海・インド洋西部を管轄する米海軍第5艦隊の司令部がある。公開された映像では、基地の衛星アンテナがシャヘドによって破壊される様子が確認された。「中東全体の作戦拠点である基地に、白昼堂々と侵入を許したのだから、衝撃は計り知れない」と、第5艦隊勤務経験者は語る。

急激なミサイル・ドローン発射数の減少は、在庫温存を意図した戦略的判断の可能性もある。しかし、生産拠点への攻撃が続く中、補充を維持するのはますます困難になっているのは確かだ。

米国:高額兵器から安価な爆弾へ、苦しい転換

米国は依然として世界最強の軍事力を誇り、通常兵器の在庫は他国を大きく上回る。

トランプ米大統領はソーシャルメディアで「中級および中上級クラスの弾薬は事実上無制限に供給できる」と述べつつ、「最上級の兵器については十分な備蓄があるが、望む水準には達していない」とも認めている。

開戦当初、米軍は長距離巡航ミサイル「トマホーク」を大量に投入した。射程は1,600キロ超で、厳重に防御された目標を精密に攻撃できるが、1発あたり数百万ドルを要する高価な兵器だ。

米シンクタンク「スティムソン・センター」の推計によれば、今回の作戦「エピック・フューリ(壮絶な怒り)」ですでに数百発が使用され、残存数は約4,000発にとどまる。さらに、年間の生産数が100発未満とされるため、消耗ペースとのギャップは深刻だ。

ほかにも米軍は、レーダーに探知されにくいステルス巡航ミサイル「JASSM(ジャズム)」や、射程約500キロの短距離精密攻撃ミサイル「PrSM(プリズム)」を使用したとみられる。PrSMは1発約160万ドル(約2億円)で小型目標を狙い撃ちできる新型兵器だ。これらも限られた在庫から消費されている。

こうした状況を受け、米軍は当初、安全な遠距離から攻撃できる高価な長距離ミサイル(スタンドオフ兵器)を使用していたが、制空権を確保した現在は、目標上空から投下する安価な爆弾(スタンドイン兵器)へと切り替えつつある。

ケイン将軍によれば、現在はJDAM爆弾の使用に軸足を移している。制空権を握り地対空ミサイルの脅威がほぼ排除された今、1発約2万5,000ドルのJDAMや誘導爆弾の使用が可能となり、在庫への負担は大幅に軽減される。

米国はJDAMを数万発保有しており、米シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」のマーク・キャンシアン氏は、このレベルの戦闘を「ほぼ無期限に継続できる」とみている。

スティムソン・センターの専門家も「米国はより安価な兵器の使用へ軸足を移しており、2001年のアフガニスタンや2003年のイラク戦争と似た状況だ」と指摘する。

しかし、問題は攻撃側だけではない。より深刻なのは、防空側の消耗である。

防空ミサイルの逼迫:最大のアキレス腱

イランの主な攻撃手段は弾道ミサイルとシャヘドドローンであるため、米国と同盟国はパトリオット(PAC-3)、高高度防衛ミサイル(THAAD)、SM-3ブロックIIAなどの防空兵器を大量に消費している。なかでもSM-3は1発約1,400万ドル(約21億円)と突出して高価だ。

PAC-3は1発約400万ドル(約6億円)で、米国の年間生産数は約700発にとどまる。CSISのマーク・キャンシアン氏は米国の在庫を約1,600発と推定しており、ここ数日でさらに減少していると指摘する。現在の使用ペースが続けば、在庫は数日から数週間のうちに危険な水準まで減少するとの試算もある。

さらに、パトリオットの需要は米国だけに限らない。アラブ諸国やウクライナも切実に必要としており、今回の紛争でインド太平洋軍など他地域からの転用を余儀なくされる可能性も現実味を帯びている。

キャンシアン氏はこう述べる。「もしトランプ大統領がパトリオットの数を減らすことを受け入れるなら、イランに対してより長く持ちこたえられると思う。ただし、その代償として太平洋での潜在的な紛争リスクが高まる」。

地上目標への攻撃(対地攻撃)については「長期にわたって継続できる」と楽観的な見通しを示すキャンシアン氏も、防空戦については「先行きが不透明だ」と認める。

オーストラリア戦略政策研究所のユアン・グラハム氏も「トマホークの使用は弾薬庫の枯渇を象徴する典型例だ。中央軍がインド太平洋軍のリソースを活用してきたのは以前からだが、今回は規模が桁違いだ」と警鐘を鳴らす。

ウクライナ製迎撃ドローン:新たな解決策として浮上

フィナンシャル・タイムズ紙によると、防空ミサイルの逼迫への対応策として注目されているのが、ウクライナ製の安価な迎撃ドローンだ。米国防総省および少なくとも1つの湾岸諸国が、ウクライナ製迎撃機の購入に向けた交渉を進めているという。

ウクライナは2022年のロシアによる全面侵攻以来、シャヘドのロシア版を迎撃するための低コスト手段を独自に開発してきた。時速250キロに達する高速迎撃ドローンは、シャヘド(最高時速185キロ)を追跡・撃墜でき、1機数千ドルという製造コストは、数百万ドルのPAC-3ミサイルとは比べものにならない。

ゼレンスキー大統領は「シャヘドへの対処におけるウクライナの専門知識は世界で最も高度なものだ」と述べ、カタールやアラブ首長国連邦との協力協議を進めていることも明らかにした。

実戦配備されている迎撃ドローンには、元グーグルCEOエリック・シュミット氏が出資する企業が製造する飛行機型の固定翼ドローン「メロプス」、弾丸型の4プロペラ小型ドローン「スティング」、そして高速迎撃機「シャヘドハンター」などがある。

ウクライナ国内では「文字通り十数社」がこの種の迎撃機を製造しており、中東諸国がパトリオットの代替として採用すれば、PAC-3の世界的供給にも余裕が生まれるとみられている。

ただし課題もある。ウクライナはロシアが独自に開発したジェット推進ドローン「ゲラン3」(最高時速550キロ超)に対して、いまだ有効な迎撃手段を確立できていない。技術的な限界は残る。

生産拡大への圧力と将来への懸念

トランプ大統領は今週後半、主要防衛企業の幹部を集め、生産の加速を求める方針だと報じられている。

すでにロッキード・マーチン社とは、PAC-3の生産を2030年までに現在の約3倍となる年間2,000発に引き上げる契約を締結。RTX社とも巡航ミサイルや防空ミサイルの増産で合意している。

しかし、生産能力の拡大には時間がかかる。目の前の消耗に追いつくには、まず現有在庫をいかに守り抜くかが問われる。

比較的弱い敵に対して高性能兵器を大量消費することは、中国のような超大国との将来の紛争における対応能力を損なう恐れがあり、専門家の間でも懸念が広く共有されている。

今回の紛争は、米国の軍事力の圧倒的優位性を示すと同時に、その優位が脆弱な供給基盤の上に成り立っていることを白日の下にさらしている。

ヘグセス米国防長官は「イランは我々より長くは持ちこたえられない」と断言する。

しかし、消耗戦の帰趨は兵器の数だけでなく、誰がより賢く、より安く、より長く戦えるかにかかっているのではないか。

改めて登場した兵器の価格を並べると、その高額さに驚かされる。トマホーク1発は数百万ドル、PAC-3迎撃ミサイルは1発約400万ドル、SM-3に至っては1発約1,400万ドル。それが数百発、数千発と消費される。

戦争とは、莫大な富を灰にする行為であることを実感させられる。

そして必ず、人命といういかなる金額にも換算できない代償を伴うのである。


編集部より:この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2026年3月9日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。

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