ロシアがウクライナに軍事侵攻して以来、軍事目標のターゲットが軍事基地や関連施設から次第に発電所や石油・ガス輸送パイプラインなどエネルギー供給施設に移ってきた。米イスラエルのイラン戦闘でも世界の原油・ガス輸送の約20%が通過するホルムズ海峡をイラン革命防衛隊(IRGC)が海上封鎖を実施すると警告すると、世界の原油市場は大混乱し、原油価格が急騰、世界経済に大きな影響を与えている。IRGCの広報担当は「米国とその同盟国には1リットルの油もここを通過させない」と脅迫している。相手のエネルギー源をどれだけ破壊、ないしは麻痺させるかが、戦いの勝敗を分ける、といわんばかりだ。

イラン最高国家安全保障会議の新書記にモハマド・バゲル・ゾルカドル氏が任命された。同氏は、イスラエル軍の攻撃で17日殉教したアリ・ラリジャニ氏の後任者 Tasnim通信3月24日
トランプ米大統領によると、米国はイランの将来の指導部と交渉中という。交渉がうまくいかない場合、イランの主要な発電所を破壊するだけではなく、イランでは原油輸出の90%がハルク島を経由して輸送されているが、その島の占領も辞さない強い意向を示唆している。
外電によると、米国は海兵隊に続き、精鋭空挺部隊もイランに向けて派遣している。この派遣には第82空挺師団から3000人の空挺兵が参加するとみられている。これにより、米軍のハルク島占領計画が現実味を帯びてくる。
このコラム欄でも報じたが、ハンガリーやスロバキアは依然、ロシアから安価の原油、天然ガスをウクライナのドルジバ・パイプライン経由で輸入しているが、そのパイプラインがウクライナ戦争の被害で損壊。原油輸送が今年1月27日からストップになっている。ハンガリー政府は、キーウに対して、損傷箇所の早期修復と輸送再開を要求してきたが、ウクライナ側は「早急な修復は不可能だ」と一蹴。ウクライナ側の説明によると、「被害地域はリヴィウ州ブロディ近郊のウクライナ西部だ。1月末にロシアの無人機による攻撃でタンク基地が被災し、火災で地下パイプラインの制御システムも損傷した。この被害は外からは見えないが、大規模な修復が必要だ」というのだ。
ブリュッセルはハンガリーとウクライナ間のパイプライン問題を解決するために、ウクライナ側には「5月までにパイプラインの修復を実施するように」と要請、ハンガリー側にはその代わりに、ウクライナにとって極めて重要な、数百万ユーロ規模のEU融資の支払い阻止を止めるように、という調停案を提示している。
ウクライナ戦争のとばっちりを受けているにはモルドバも同じだ。モルドバ議会は24日、隣国ウクライナへのロシア軍の攻撃により、同国の電力需要の大部分を供給する送電線が麻痺したことを受け、60日間の「エネルギー非常事態」を宣言した。
旧ソ連構成国であるモルドバは、南ウクライナを通る送電線(イサチェア=ヴルカネシュティ線)を経由して電力を供給されているが、モルドバのマイア・サンドゥ大統領によると、「最も重要な電力接続」が途絶えたと発表し、停電の責任はロシアにあると非難している。状況は依然として危機的だという。首都キシナウをはじめとする都市は数時間にわたり停電に見舞われたばかりだ。
ロシア軍は昨年末から今年にかけ、ウクライナの発電所などエネルギー供給源の拠点を集中的にミサイルや無人機で攻撃。その結果、首都キーウばかりかウクライナ各地で電力不足から停電となり、零下20度の中、暖房のない冬を過ごしてきた。
エストニア情報機関(ISS)によると、ロシアのドローンがNATO加盟国であるエストニアの発電所を攻撃した。ISSは25日、「ドローンはオーヴェール発電所の煙突に命中した」と発表した。ドローンは「ロシア領空からエストニア領空に侵入した」とみられ、負傷者は出ていない。ロシアとエストニアは全長約300キロメートルに及ぶ国境を接している。
ところで、国際人道法(International Humanitarian Law)によると、発電所は本来、病院、水道、一般家庭の生活を支える「民用物」(民間施設)とみなされる。これらを意図的に攻撃することは戦争犯罪にあたる。例外は、その発電所が「軍事行動に実質的に寄与している」とみなされ、かつ破壊することで「明確な軍事的利益」が得られる場合に限り、「軍事目標」として攻撃対象になる可能性がある。ただし、軍事的に重要であっても、軍事的な利益よりも攻撃によって民間人に与える被害(飢え、病気、死など)が、過度に大きい場合は、国際法違反となる。特に原子力発電所については、放射性物質による甚大な被害を避けるため、より厳格な保護規定が設けられている。
ウクライナやイランなどの紛争におけるエネルギー施設への攻撃は、国際法(国際人道法)において原則として「民間施設(民用物)への攻撃」として禁止されている。 国際刑事裁判所(ICC)は2024年3月、ウクライナの電力インフラへのミサイル攻撃に関与したとして、ロシア軍の司令官2人に対して逮捕状を発行している。
米イスラエル軍のイラン空爆(2月28日)の場合、イラン国内の複数の燃料貯蔵・流通施設を標的にし、大規模な火災や民間サービスへの支障が出た。法律専門家は、1500万人が暮らすテヘラン近郊の石油施設などへの攻撃は、輸送や公共サービスを停止させ、民間人に甚大な被害を与えるため、国際法上の「比例性の原則」に抵触する可能性が高いと指摘している。
人類は石油や天然ガスのエネルギー埋蔵地を獲得するために戦争を繰り返してきた。そして現在、エネルギー供給源の拠点を破壊することで相手国を窮地に陥れようとする。年数をかけて作り上げた建物や橋を壊す一方、原油・ガスの産出拠点を破壊して周辺に住む人々を困らせている。
宇宙には無限のエネルギーがあるといわれているが、人類がそのエネルギーを利用できるまで地上でエネルギーを巡る戦いを繰り返すことになるのだろうか。「20世紀以降の戦争は、領土のためではなく、エネルギーのために戦われるだろう」といわれている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年3月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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