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先日、知人がぽつりと言った。「副業始めてから、まともに寝てない」。聞けば、平日は本業のあとに毎晩3時間、週末もフルで副業に充てているという。月の副業収入は8万円ほど。悪くない。でも顔色は明らかに悪かった。
『今さら聞けない 副業の超基本:知識ゼロ 経験ゼロから始める(今さら聞けない超基本シリーズ)』(大村信夫 監修、樫村周磨 監修)朝日新聞出版
副業の話になると、みんなメリットばかり語りたがる。収入アップ、スキル向上、人脈拡大。それは確かにそうだ。否定はしない。
ただ、その裏で何を差し出しているのか。時間、睡眠、家族との夕食、健康。差し出しているものの重さに、気づいていない人が多すぎる。
QOL——生活の質という言葉がある。副業で収入が月5万円増えても、毎朝起きるのが辛くなり、休日に子どもと遊ぶ気力もなくなったら、それは本当に「得」なのか。
厚労省も副業・兼業のガイドラインで労働時間の通算管理を求めているが、正直、自己申告に頼っている時点でザルだと思う(言い過ぎかもしれないが、実感としてはそうだ)。
じゃあどうすればいいのか。結局のところ、自分のキャパシティを冷静に見積もるしかない。「週に10時間まで」「月の副業収入は○万円を上限にする」。
こういうルールを最初に決めておくことだ。決めないと、人間は際限なくやってしまう。とくに成果報酬型の副業は危険で、「もう少しやれば、もう少し稼げる」の罠にはまる。パチンコと一緒だ(怒られるか、この比喩)。
JILPTの調査では、副業の就業形態で最も多いのが「パート・アルバイト」で46.9%。次が「フリーランス・個人請負」で21.2%。パート・アルバイト型は時間の上限が比較的はっきりしている分、まだ歯止めが利く。
厄介なのはフリーランス型だ。納期に追われ、単価を上げるために案件を詰め込み、気がつけば本業より働いている。本末転倒の典型である。
ライフスタイルに合った副業を選べ、とよく言われる。子育て中ならデータ入力やハンドメイド販売、シニアなら経験を活かした相談業務——そんな記事をよく目にする。
言ってることは正しい。でも、それだけでは足りない。「合っている」と思って始めても、半年後に生活を圧迫していることはざらにある。定期的に「この副業、自分の生活を壊していないか?」と点検する習慣が必要だ。
会社員なら、本業のスキルをそのまま転用できる副業がいい。営業なら営業代行、エンジニアなら開発受託。ゼロから学ぶ必要がない分、時間効率がまるで違う。
ポータブルスキルという言葉があるが、要するに「どこでも使える力」のことだ。これを持っている人は副業で無理をしなくて済む。持っていない人ほど、体力勝負の副業に走りがちで、結果的に体を壊す。
副業で一番大事なことは何か。稼ぐことじゃない。「続けられること」だ。月に30万稼いで3ヶ月で倒れるより、月3万でも3年続くほうが、トータルでは圧倒的に勝つ。そんなことは算数でわかる。わかっているのに、目の前の数字に引っ張られる。人間だから仕方ないが、だからこそ意識しておきたい。
あの知人には、「一回、副業やめてみたら」と言った。余計なお世話だったかもしれない。でも、8万円のために健康を売り渡すのは、どう考えても割に合わない。
【付記】
正直なところ、読んでいてシンクタンクのレポートを開いたかと錯覚した。ビジネス書としては固い。データが多く、グラフや統計が次から次へと出てくる。気軽にめくれる本ではない。ただ、私自身がシンクタンク出身ということもあり、このテイストは嫌いではなかった。
むしろ、安易に「副業で月収100万円!」と煽る類いの本が氾濫するなかで、ここまで地道にデータを積み上げた姿勢には好感が持てる。通常のビジネス書の倍以上の手間がかかっているはずだ。
気になったのは、ターゲットの設定である。一般の会社員が手に取るには、やや敷居が高い。むしろ、シンクタンクや研究機関、行政の政策担当者にこそ響く内容ではないか。
副業推進の施策を検討する立場の人間が、机の上に一冊置いておくべき本だと思う。販路をそちらにも広げたほうが、この本の真価はもっと伝わるのではないだろうか。力作であり、良著として評価したい。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
■ 採点結果
【基礎点】 39点/50点(テーマ10、論理構造10、完成度10、訴求力9)
【技術点】 20点/25点(文章技術10、構成技術10)
【内容点】 21点/25点(独創性10、説得性11)
■ 最終スコア 【80点/100点】
■ 評価ランク ★★★☆ 水準以上の良書
■ 評価の根拠
【高評価ポイント】
データの厚み:JILPT調査やエン・ジャパン調査など、公的機関・民間調査を丹念に引用し、主張に統計的裏付けを持たせている。感覚論に逃げないエビデンス重視の姿勢は、副業本としては異例の誠実さである。
網羅性:報酬形態、業種別の副業容認率、ライフスタイル別の適性比較など、副業を取り巻く論点を幅広くカバーしており、リファレンスとしての実用性が高い。また、メリットとリスクを並列し、QOL低下への警鐘まで踏み込んだ構成は、煽り系ビジネス書とは一線を画す良心的な設計である。
【課題・改善点】
読者ターゲットの曖昧さ:データの密度と文体の硬さが、一般会社員層には敷居を高くしている。シンクタンクレポートに近い質感は強みでもあるが、想定読者との間にミスマッチが生じている。
体験的エピソードの不足:データは豊富だが、副業実践者の生の声や具体的な成功・失敗事例がやや薄く、読者が自分ごととして引き込まれる場面が限られる。情報量に対して、読者の行動を後押しするような熱量や語りかけが控えめで、「読んで終わり」になりやすい構造がある。
■ 総評
副業をテーマにしたビジネス書が乱立するなかで、データと統計に裏打ちされた堅実な一冊である。煽りや誇張を排し、メリットだけでなくリスクやQOL低下にまで誠実に言及する構成は、著者の実務家としての矜持が感じられる。
一方で、その堅実さゆえに一般読者層にはやや取っつきにくく、シンクタンクや行政の政策担当者、研究機関など、データに基づいて副業施策を検討する層にこそ本領を発揮する内容といえる。共著での初出版ながら、通常の倍以上の手間をかけたであろう力作として、水準以上の良書と評価したい。








コメント
副業/ウェルビーイングの問題
副業にとって大切なのは神経(心)をすり減らさない、体力のキャパを超えない事だと思います。
私は過去の職歴の会社と関わりのある会社、大手企業を選びます。
過去にいた会社との関わりを間に人を入れて
また接触したいという思いがあります。副業で本業を持っているとそれが身分証になるし。過去にいた会社の取り引き先などは言いたい事も言いやすいし、すごくリラックスします。大手だと他の知り合いに遭遇することも。自分から連絡を取ってアプローチしなくても人との繋がりでお小遣いと福利厚生(社員購入など)が手に入ります。