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介護職があまりの待遇の低さから、減少を始めた。いよいよ団塊世代が後期高齢者となり、要介護者も介護需要も増えるにもかかわらずである。このままでは介護が受けられない、介護崩壊が始まる。既にホームヘルパー事業所は地方で廃業が相次ぎ、訪問介護を受けられない要介護者、自宅生活が困難な介護難民が発生しつつある。
少子化で特に若手労働力が必要な農林水産、土建、さらに医療・介護・飲食・宿泊まで、軒並み求人難となって久しい。国のリーダーたる政治家が「今だけ金だけ自分だけ」という悪いロールモデルだから、若い人がチート的な思想に冒され、汗を流すことを嫌がる。
さらに介護職養成校や看護学校まで、定員割れで閉校が相次いでいる。外国人労働者と言っても教育に年単位の時間がかかる。徴兵のような介護従事の義務付けでもしない限り、50万人不足するといわれる介護職の充足は困難だ。
しかし要介護者はこれから最大になる。どうするか。これまでと思考を変える変革しかない。筆者は90年代から介護職と協働し、介護保険制度発足時に若輩28歳にもかかわらず横浜市介護認定審査委員を拝命し、訪問看護ステーション所長や介護施設長を歴任してきた現場経験から、いくつかの可能性を考える。
1つ目は、地域内の廃校や団地などある程度の規模の施設を低廉な半公的老人ホームとすることだ。使命を終えた公的施設を改装から運営まで民間委託すれば、新規建設より安上がりだし施設活用にもなる。企業の所有物件なら固定資産税減免などで優遇し、拠出を得ても良い。有料老人ホームや問題のホスピス型住宅の一部は寮などを改装しているから、実現は容易だ。
施設介護のほうが少ない介護職でより多くの要介護者をケアできて効率が良い。小学校などは自宅徒歩圏内でもあり、入居の抵抗感も薄れるだろう。地域の元気な高齢者のスキマバイトや有償ボランティアなどを活用しタスクシフトすれば、有資格者が少なくても運営でき、近隣とのつながりも保てる。
自宅介護生活は、必ずしも好きでしているとは限らない。住み慣れた家が一番と言っても、自立生活がままならなくなれば話は変わる。しかし、安くとも月に20万円はかかる有料ホームには簡単には入居できない。半公的な廉価ホームなら安心して入居でき、徒歩圏内だから好きな時に自宅で過ごせる。まさに地域内で介護を完結する、地域包括ケアシステムである。
そのような半公的ホームの介護職員には補助金を投入し、待遇も準公務員としてある程度保障するべきだ。それにより安定職種として認知されれば、求人応募も増えるだろう。運営事業者は入札による更新制とすれば、コストダウンと質の担保も両立し得る。
2つ目は、民間の宅配・訪問サービスを規定の条件のもと、ホームヘルプ訪問介護に準じるサービスとして、部分的に介護保険の給付対象とすることだ。これは自治体独自でも可能だ。
ホームヘルパーは在宅生活全般、つまり衣食住をケアする。しかしヘルパー不足で、需要が特定時間、つまり食事時に集中する家事支援は、既に対応困難なケースも発生している。
ならば食事は宅配で対応し、配達・温め・配膳を給付対象とし、洗濯は宅配クリーニング、掃除は民間清掃を給付対象とすれば良い。食器は食べ残しも含め専用ボックスに入れて回収すれば、そこにヘルパーは不要になる。自己負担割合を1割以上に設定すれば、介護給付費の抑制もできる。
ホームヘルパーがいないのだから、施設入所できない、またはしたくないなら、ない物ねだりをする余地はない。むしろその道のプロが、時に自動化・機械化も駆使することで、より質の良いサービスをより多くに提供できる。これも入札による更新制とすれば、コストパフォーマンスの確保もできる。地域の事業者が地域のケアを担う、これぞ真の地域包括ケアシステムである。
家事援助を民間委託すれば、介護職は専門的な身体介護や認知症ケアに注力できる。地域の互助グループに委託しても良い。横浜市の一部や各地では、そのような地域内互助が立ち上がっている。
3つ目は、選定療養費を認めて自費で差別化された待遇や付加価値サービスを可能にすることだ。電球交換もできない、大掃除もできないなど、介護保険サービスには制限が多い。ならば自費を上乗せすることでオプションを認めれば良い。利用者はニーズを満たせて事業者は売上が増えるが、介護保険給付は増えない。ニーズを満たしつつ事業継続性を高められ、一石三鳥だ。
あるいは、介護保険適用外のハウスキーピングサービスを一定基準で認定業者としても良い。ただし悪質・粗悪なサービスが入り込めないような仕組み、許認可や認定・監視制度は、ホスピス型住宅の巨額不正の轍を踏まないためにも重要だ。この分野はインフラ各社もサービスを開始しているため、実現しやすい。
そして4つ目は、介護事業者の偏在是正と効率化のため、地域ごとに事業量の総枠を定め、過剰参入を防ぐことだ。また、地域外の業務の制限や、地域外利用は自己負担増とすることも考えるべきだ。これは既に地域密着型サービスとして一部制度化されている。既に実施されている報酬単価調整での積極的誘導もなすべきだ。介護保険事業は価格競争ができないため、供給量の調整が必要である。
訪問サービスは本来、自転車圏内を想定しているが、現実には自由競争のため非効率的な遠方への訪問や依頼が発生する。そのため自動車が必要になり、コストを押し上げている。地域内の介護リソース量を管理し、介護ニーズは地域内で充足することを制度的に前提とすれば、訪問事業所の収支も改善し、スタッフにも還元できる。
さらに、営利事業者、特に関連のない異業種からの参入規制も考えるべきだ。介護保険は市場化により介護インフラを民間資本で整備する意図だった。初期は目的を達したが、四半世紀が過ぎ、ホスピス型住宅などの問題事業者を看過してしまった。
悪質でなくても、大企業は管理部門の間接経費が大きい。ホームヘルプの単価は時給平均以上であり、本来は介護職に報いられるはずだが、管理部門や経営者が利益を吸い上げてしまう。中抜き・ピンハネとも言え、現場を知らず汗も流さない経営者や管理部門が介護を蝕んでいる。地域密着が必要な訪問サービスは、地域の事業者や介護職が立ち上げた経営効率の良い地域内の中堅事業者を育成するべきだ。特に介護職が立ち上げた事業者は、経営ノウハウや経験に乏しいことが経営難に結びつくため、経営支援も必要だ。
既存の制度はそのままでも、少しの工夫を追加し制度化すれば、介護崩壊を避け得るはずだ。専門的介護以外を小分けに切り出しタスクシフトすることで、地域住民の互助や外国人労働者の活用もしやすくなる。介護職は専門的対人ケアに集中でき、やりがいにもつながる。
介護は看護と共通する高度な対人ケアと、誰でも本来行っている衣食住の生活支援からなっている。この生活支援が家政婦程度と誤認され低待遇を招き、結果として介護職減少と介護崩壊を引き起こすのであれば、切り離して民間サービスに委ねるしかない。今後、認知症1000万人時代に向けて、介護専門職が認知症ケアにその専門性を集中して発揮できるようにしなければならない。
※ この投稿は橋本財団Opinions掲載投稿の原文を修正し掲載しています。
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